2024年8月14日水曜日

福島 小児甲状腺がん380人に/「甲状腺がんと被ばく」関連否定した報告書を訂正せず+

 福島県「県民健康調査」の検討委員会が2日 開かれ、6巡目の検査結果が発表されました。新たに8人が甲状腺がんの疑いと診断され、事故当時、福島県内に居住していた子どもの甲状腺がんは、術後に良性だった一人を除き380人となりました

 なお、3月の甲状腺評価部会は、これまで一貫して「甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」と結論づけ、スクリーニング効果に拠るものと片付けてきたことについて、その客観的な証明されていないことから、今後スクリーニング効果の影響について解析することを決めました
    3月27日)スクリーニング効果を検証へ〜福島県の甲状腺がんめぐり
 そして「甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」と結論づけた2019年の福島県の報告書については訂正する予定だったのにもかかわらず、反対意見を受け付けないまま原案を確定していたことが明らかになりました。
 科学をベースとする組織においてこうしたゴマカシが横行するようでは、委員会そのものが信頼を失う一方です。OurPlanet-TVが報じました。 

 

 なお記事中に「ハーベスト効果」という言葉が出てきますが、これは「生涯にわたり臨床症状を示さない例も含めて、検査 により一時に発見してしまうこと」とされ、いわゆる「スクリーニング効果」のことと思われます。
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小児甲状腺がん380人に〜福島県検査
                        OurPlanet-TV 2024/08/02
東京電力福島第一原発事故後に福島県で行われている「県民健康調査」の検討委員会が8月2日、福島市内で開かれ、6巡目の検査結果が新たに発表された。この結果、新たに8人が甲状腺がんの疑いと診断され、がん登録で把握された2018年までの集計外の患者43人をあわせると、事故当時、福島県内に居住していた子どもの甲状腺がんは、術後に良性だった一人を除き380人となった
今回の検討委員会で公表されたのは、5巡目、6巡目と25歳と30歳の節目検査の結果。新たに発表された6巡目の検査では、穿刺細胞診で悪性と診断された患者が6人いることが発表された。このほか、5巡目で1人、30歳の節目検診で一人増えた。

また手術を終えて、甲状腺がんと確定した患者も5巡目で6人、25歳と30歳の節目検診でそれぞれ1人ずつ増え、術後がんと確定した患者は283人となった。事故から10年が経過し、2年ごとの検診対象者数も受診者数も増える一方、がんと診断される人数は横ばいで、新型コロナ感染症の影響で、3年間にわたって検査が実施された 5巡目は、穿刺細胞診の結果も、術後のがん患者数も、ハーベスト効果が観察される可能性の高い1巡目を上回った。
検討委員会では、これまでの経過がわかる説明を求める声や2年間になぜ新たながんが増えているのかと言った質問が相次いだ。このほか、基本調査やこころの健康度と生活習慣に関する調査の結果が公表された。
ハーベスト効果:生涯にわたり臨床症状を示さない例も含めて、検査 により一時
に発見してしまうこと。スクリーニング効果


「甲状腺がんと被ばく」関連否定した報告書〜委員の意見反映せず
                        OurPlanet-TV 2024/08/01
甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」と結論づけた2019年の福島県の報告書をめぐり、県の「県民健康調査」検討委員の一部がこの結論に根強く反対をしていたことが、OurPlanet-TVが入手した文書で判明した。委員の意見を受けて、報告書は修正をする予定だったが、反対意見を受け付けないまま、原案を確定していたことが改めて浮き彫りとなった。

今回OurPlanet-TVが入手したのは、甲状腺評価部会の「甲状腺検査2巡目報告書」に対する検討委員会委員の意見。福島県の甲状腺検査は、「県民健康調査」検討委員会で検査について方向づけ、下部組織の「甲状腺検査評価部会」が因果関係について評価する建て付けになっている。
そこで、甲状腺評価部会の鈴木元部会長は2019年7月8日、甲状腺検査の2巡目結果に関する報告書を親委員会である検討委員会に報告した。ところが、予告なく研究デザインが変わったことや、被ばくと甲状腺かんの関連はないと断言している点に、委員から異論が続出。このため、委員の意見を座長が集約し、任期末の7月末に、それらの意見を反映した文書を公開することが決定した。
しかし7月24日、「報告書」は一切修正のない原案がそのまま公開された。委員の声にはどのようなものがあったのかー。

このような報告書は県民に不信感を与える
「甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」とする結論をストレートに批判したのは、福島大学法学部の富田哲教授。「このように断定してもよいものか疑問」とした上で、「肯定・否定とも断言することはできないとすることが妥当」だと指摘していた。

また3月18日の空間放射線量をもとに区分けをした4地域で解析したところ、「避難区域」「中通り」「浜通り」「会津」と線量の高い地域順に甲状腺がんが多かったとしていることに触れ、「4つの区分で相違が出てきたわけですから、放射線被ばくと甲状腺がんの発症との因果関係を肯定する方向に働くはず」と指摘。また甲状腺がん発症の男女比がチェルノブイリと似た傾向となっている問題を先送りした点に触れ、「放射線被ばくと甲状腺がん発症との因果関係を肯定する現象に対しては、あまり触れたくないという姿勢がここにも現われている」と批判した。
さらに2巡目の報告書の根拠となった解析に、検討委員会に報告もなく、UNSCEARの推計甲状腺等価線量が採用された点も問題視。UNSCEARの数値を採用した理由を示すことが必要だとした上で、「このような報告書は県民に不信感を与える」と警告した。

4地域での比較を中断し、UNSECER報告書の数値を採用したことについては、同じく福島県在住で、福島県臨床心理士会の成井香苗会長(当時)も批判した。成井氏は、検討委員会としては、4地域別の発見率を「先行調査(1巡目)」と「本格調査(2巡目)で比較を行う」計画だったと指摘。検討委員会の下部組織である甲状腺部会が「勝手に地域差がでた4地域別の比較・検討を捨ててしまい、UNSCEARの推測値を利用した解析」で結論づけた」と批。「研究デザインの変更を委員会できちんと議論していない。」として、結論の修正を求めていた。

また甲状腺外科の専門医で、甲状腺検査評価部会前部会長の清水一雄委員は、2巡目の結果を甲状腺がんと被ばくに「関連がない」と断言した点を批判。「男女差の違いについてもまだ結論が出たわけでもない」などとして、「 まだこのように結論付けるには早すぎる」と指摘した。

UNSCEARの線量採用に積極的な意見なし
「部会まとめ」に委員の意見を反映させない代わりに、検討委員会名で7月24日に公表された「甲状腺検査評価部会「甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)結果に対する部会まとめ」について」と題する文書には、「所見に対して結論づけるのは早いのではないかとの意見もあったが、多くの委員の賛成のもと、検討委員会としては了承するものである。」との内容を記述。さらに、「解析については、先行検査時点での比較で使用した 4 地域の単純な比較には多くの要因が影響しているものであり、放射線線量と甲状腺がんの関係を見るうえで、UNSCEAR の市町村別甲状腺吸収線量を利用した解析を行うことは、妥当であったと考える。」と結論づけた。

甲状腺検査評価部会「甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)結果に対する部会まとめ」について https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/339633.pdf

しかし、7月8日の検討委員会の議事録と委員から寄せられたコメントの中で、UNSCEARの数値を利用することに対して、積極的な意見はわずかだった。修正する予定だったこのような結論に至ったか、当時、検討委員会の座長だった星北斗現参議院議員に尋ねたところ、「5年前のことであり、記憶が曖昧なところがあり、お答えできない」との回答があった。