ロイター通信が、福島原発の現場で続いている東電や元請業者、上位下請業者による違法労働行為について報じました。
深刻な人手不足の中、福島原発の廃炉作業要員の募集では沖縄にまで声が掛かっているということです。沖縄在住の機械工で元バス運転手のU氏は、2012年6月に福島現場に入りましたがそこで目にしたのは、違法な派遣や偽装請負などの劣悪な雇用と無責任な仕事が横行する作業現場の実態でした。半年後沖縄に戻ってその現状を告発したU氏のところに、わざわざ上位下請会社の会長が訪問して、「未払い分の賃金と慰謝料だ」として100万円の現金を手渡しました。違法を承知で作業をさせていることの表れです。 ・・・・・
日本のメディアの記事は東電が開く記者会見の報道が殆どですが、海外のメディアは時々特集的な批判記事を掲載します。そうした記事は勿論海外で読まれるわけで、心ある人たちは原発事故の復旧工事・廃炉作業の実態を通じて、日本の政府やメディアに厳しい目を向けています。
安倍首相が海外に向けてどんなに格好のいいことを口にしたとしても、もう底は割れているというわけです。
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焦点:福島原発汚染水、漏えいタンクに違法労働の影
ロイター通信 2013年12月10日
[那覇 10日 ロイター] 東京電力福島第1原子力発電所でなお続く大量の放射能汚染水流出。その大きな原因となった貯蔵タンク漏えいの影には、廃炉現場における違法な雇用実態があった。
深刻な人手不足の中、不透明な契約で作業員たちをかき集める「人員調達網」は遠く沖縄まで広がる一方、現場では「質」を問わない性急な工事が行われていた、との指摘は少なくない。
2011年3月の震災以来、福島第1原発では大量の汚染水があふれ、その一部は海洋に流出していると見られている。東電では日本全国から何千という労働者を緊急に福島に集め、何百もの1000トン型貯蔵タンクを設置した。しかし、今年8月には地上タンクから高濃度汚染水約300トンが漏出する事態が発生。継ぎ目をボルトで締めるだけのタンクの構造が想定外の汚染水漏れを引き起こす結果となった。
タンク設置工事についても、仕事の訓練が十分でなく、ずざんな仕事も見落としかねない急ごしらえのプロジェクトだった、と多くの現場経験者は証言する。
「たとえ作業のやり方に同意できないとしても、私たちは黙って作業を急ぐことしか許されなかった」。当時、現場でタンク設置にあたった上地剛立氏(48)は福島第1原発の廃炉作業を脅かす作業実態についてこう語り、いまも告発を続けている。
<押し付けられたニセの報告>
機械工で元バス運転手の上地氏は、2012年6月に沖縄から福島に送り込まれた17人の作業員の1人。4人の子供を持つ同氏にとって、沖縄の最低賃金の2倍以上の報酬が約束される福島での仕事は大きな魅力に映った。
しかし、期待とは裏腹に、同原発で仕事をした半年間、上地氏が目の当たりにしたのは、違法な派遣や偽装請負などの劣悪な雇用と無責任な仕事が横行する作業現場の実態だった。
同氏によると、自分を雇い、福島に派遣したのは、沖縄県与那原町の東建興業。派遣先となったのは、東電の元請けである大成建設の下請け会社テック。関係当局によると、東建興業は派遣業としての免許は持っておらず、上地氏の申し立てを受けて調査を行っていた沖縄労働局は、このほど東建興業に対して是正勧告を出した。
さらに、上地氏は、東建興業による不法な派遣を隠すため、テックからは自社を雇用主とし、危険手当も受け取っているとするよう指示された、と話す。
「うちの下請け会社はみんなテックで通しているわけ。会社名は偽造だといえば偽造だ」。同氏が今年8月に録音したテープには、テックの担当者という人物のこんな言葉が残っている。
テック側は「当社の従業員に対し、大成建設に虚偽の報告をするよう指示した事実はない」と否定。上地氏の雇用は認めたものの、具体的な雇用内容などにはコメントしていない。東建興業は福島に原発作業員を派遣したことは認めている。
一方、東電は、上地氏が告発した具体的な点についてのコメントは控えており、大成建設は、下請け会社に適切な指示をし、下請け会社のネットワークをしっかり監視していると説明している。
これに先立つ今年1月、福島を離れ沖縄に戻っていた上地氏は、テックの小川容会長の訪問を受け、100万円の現金を手渡されたという。上地氏が福島第一原発での労働実態について規制当局に苦情をあげ、マスコミに自分の経験を説明し始めた頃だった。
この現金について、上地氏は「未払い分の賃金と慰謝料だ」と言われたと説明。これに対し、テック側は「未払賃料、慰謝料と説明した事実はない」としているものの、支払いの目的は明確にしていない。
<工事の管理は二の次>
貯蔵タンクの作業現場では、違法な雇用慣行が公然とまかり通る一方、品質管理への配慮はしばしば後回しにされていた。上地氏によると、作業員たちはタンクの欠陥について上層部に注意を促せる状況にはなかったし、しかるべき作業訓練を受ける機会も与えられなかった。
雨の日も雪の日も、作業員の重要な仕事の一つとして、タンクの隙間を目地材などで埋めるコーキング作業に駆り出された。しかし、そうした天候では「コーキング剤は流れ出て、金属に接着しなかった。全く意味がなかった」と上地氏は語る。東電は、ロイターの取材に対し、この指摘には具体的にはコメントせず、雨天でのコーキング作業は通常は行わないとの説明をしている。
福島に送り込まれた沖縄の作業員たちは、大手企業の社員のように明確な雇用契約に守られることなく、常に解雇の脅威にさらされていた。そうした環境では、たとえ作業内容に疑問を持っても意見を主張することはできなかった、と彼らは言う。
汚染水漏れが起きたある貯蔵タンク周辺の放射線量は、8月に汚染水流出が起きてから数週間で、防護服を着ていない作業員ならば数時間で放射線病にかかるレベルまで急上昇した。
「我々の仕事は、たしかにずさんで質も低かった。しかし、どうすれば良かったのか。急いでタンク設置を終わらせなければならなかった」。沖縄から来た上地氏の仲間の一人は、仕事の内容よりもスピードが最優先された当時の状況をこう振り返る。
<労働者保護が廃炉成功の条件>
福島第1の廃炉や周辺の除染労働の実態に改善を求める声が高まる中、東電は11月、下請け会社の監督を強化し、何千人もの作業員に支払われる給与を倍増すると表明した。
同社はロイターの電話取材に対し、作業員の労働条件の改善が「事故収束につながる重要な課題である」と回答。「元請け各社などと協力し法令順守に取り組む」との姿勢を示した。
同原発の作業員に関する労働案件を多く扱ってきた弁護士の水口洋介氏は、廃炉・除染作業での労働問題は原発事故の収束自体を阻むことになりかねないと警告、抜本的な解決策をとるべきと訴える。
同弁護士は、多くの若い作業員が賃金をピンハネされたり、事前に説明を受けずに危険に直面して、現場を去る姿は数多いと指摘、「労働者の保護が強化されないことには、廃炉作業が成功するわけがない」と強調している。
(Antoni Slodkowski 編集:北松克朗、石黒里絵)