河北新報が「原発処理水処分方針 コロナ禍切迫 先送りが妥当」とする社説を出しました。
政府の有識者作業部会は、処理水の処分方法として5つの処分方法について検討した結果、最も低コストで短期間に処分可能な「海洋放出」が適切するとする案を16年に決めました。この「最も安上がり」な方法にするのは当初からの政府・経産省の方針と言われています。
それでは地元の漁業者から猛反発が出るのは当然のことで、事実公聴会では反対が多数を占めました。
東電は、海洋放出の準備に2年を要するとか、保管タンクの増設の余地がないなどと言いながら、早く海洋放出に決定するよう要求していますが、その言い分が真実なのかは大いに疑わしいと言えます。原発絡みでは釈然としないことだらけです。
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社説 原発処理水処分方針 コロナ禍切迫 先送りが妥当
河北新報 2021年01月20日
東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を巡り、政府は2020年内を目指した方針決定を越年させた。新型コロナウイルスの感染爆発を見越した緊急事態宣言が再発令されたこともあり、さらなる先送りが妥当だろう。
方針決定時期は当初、20年10月が有力視された。
ここをゴールと見据え、政府は1~3次産業の代表らを対象とした意見聴取会を4月にスタートさせていた。意見聴取会は最終回の10月8日までに7回を重ね、複数ある選択肢から「海洋放出」に絞って月内に方針決定するシナリオを描いた。
処理水の保管タンクが22年9月に満杯となることが「10月決定」の伏線だった。放出の準備にも約2年を要するためタイムリミットが迫っているとして10月27日、廃炉や汚染水に関する政府方針を決める関係閣僚等会議を開く調整に入った。
結論を急いだ政府は、9月末に経済産業省幹部が漁業団体と水面下で接触。しかし今年4月に試験操業から本格操業への移行を予定する福島県漁連をはじめ、風評被害を懸念する漁業者側の強い反発に遭った。
9月16日に発足した菅義偉内閣の支持率急落も、政府の腰を重くさせた。
新型コロナ対応や政治とカネの問題が響いて内閣支持率は年が明けても続落。海洋放出を打ち出せば、さらなる低下は必至とみられ、秋までの実施が確実な解散総選挙への影響を極力避ける空気が与党内を支配する。
処理水の処分方法を巡り政府の有識者作業部会が初会合を開いたのは2013年。部会は(1)地層注入(2)海洋放出(3)大気放出(4)水素放出(5)地下埋設 -五つの処分技術を検討した結果として、海洋放出が最も低コストで短期間に処分可能だとする試算を16年に公表した。
議論は同年11月始動した政府小委員会に引き継がれ、技術面に加え風評被害など社会的影響も検討された。小委は20年2月に海洋や大気へ放出処分が現実的で、さらに国内外で前例もある海洋放出がより確実だとする結論をまとめていた。
方針決定の先送りで、気掛かりなのは保管タンクの満杯時期についてだ。
東電は現行の計画に基づく保管タンクの設置を完了したと既に表明しているが、実は第1原発敷地内には廃炉作業に活用する予定のない「空白地帯」が存在する。ここにタンクを置けば、満杯になる時期は1年ほど先延ばしされるという。
猶予があるとはいえ、わずか1年だ。未曽有の過酷事故から10年の大きな節目が近づく。処理水保管が長引けば、今なお途上にある原発事故被災地の復興の妨げになりかねない。政府には地元の実情に即した判断を求めたい。