柏崎刈羽原発の安全性を議論する新潟県技術委員会において、県がベテラン委員の立石雅昭・新潟大名誉教授と鈴木元衛・元日本原子力研究開発機構研究主幹の再任をしないと決めたことに対して、新潟日報が「技術委員不再任 県の判断に疑問が拭えぬ」とする社説を出しました。
花角英世知事は記者会見で、高齢の委員を交代させることに関し「最新の研究は若い人たちが積み上げている。それを議論に取り入れるべきだ」と強調したことに、立石氏は記者会見し、「研究者として招かれた以上、古い知見でものを言うなんてあり得ない。あたかも高齢の人が勉強していないように言われるのは心外だ」と批判し、県技術委の作業は論点がほぼ出そろい「最も重要な時期に差し掛かっている」中で、自身からも数多くの論点を提示し、議論に携わっているさなかだとして「なぜ今(退任)なのか。高齢というだけでは納得できない」と反発しました。
委員は70歳以下とするのが内規のようですが、立石氏についてはこれまで71歳と73歳で2度再任されてきたにもかかわらず、最も重要な時期に不再任とされるのはやはり釈然としません。
新潟日報の記事「『県は安全担保の姿勢欠落』技術委不再任問題で立石氏」(01/22) と
毎日新聞の記事「新潟県原発技術委『高齢』で不再任 70代委員『寝耳に水』」(01/22)
を併せて紹介します。
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社説 技術委員不再任 県の判断に疑問が拭えぬ
新潟日報 2021/01/26
東京電力柏崎刈羽原発の安全性を議論する県技術委員会を巡り、県が示したベテラン委員不再任の方針に県民や専門家から疑義が出ている。
東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発7号機の安全性の確認が今後本格化する。なぜこのタイミングなのか。県は高齢などを理由とするが、あまりに唐突だ。これまでの議論の継続性も絶たれかねず、疑問が拭えない。
県が、県技術委の委員全14人のうち、3月末の任期をもって半数の7人を再任しない方針であることが明らかになった。
県側が一部委員の不再任理由に挙げたのは高齢だ。県の内規は、70歳以上の「高齢者」の任命は極力避けるよう定める。
花角英世知事は記者会見で世代交代を理由に挙げ、高齢の委員を交代させることに関し「最新の研究は若い人たちが積み上げている。それを議論に取り入れるべきだ」と強調した。
70歳以上の委員は最新の知見に乏しいと言わんばかりだが、不再任対象の委員の一人、立石雅昭・新潟大名誉教授(75)は会見し「委員である以上、古い知見だけで物を言うことはない」と反論した。
内規があるとはいえ、年齢でひとくくりにレッテルを貼るようなやり方は乱暴だ。誠実に任務を果たしてきた委員に対する敬意も感じられない。
立石氏によれば、71歳だった前々回、73歳だった前回の再任時に内規についての話はなかったという。こうした点からも、説得力に欠ける。
立石氏は議論の継続性を担保するためとして、自らと、同じく70歳以上で不再任対象とされた鈴木元衛・元日本原子力研究開発機構研究主幹の再任を求める要望書を県に提出した。
問題は、なぜこんなことが起きるのかだ。
立石氏や鈴木氏は、専門分野の知見を基に、福島第1原発事故の原因検証や東電の姿勢について厳しい意見を述べてきた。
会見で原発に厳しい指摘をする委員を交代させたいのか問われた花角知事は「(委員に)レッテルを貼るようなことはやめていただきたい」と反論した。
だが、原発に反対する立場の立地地域の住民や専門家からも同様の指摘が出ている。
知事はレッテル貼りだというが、そうした疑いを招いた責任は一義的に県の判断にある。厳しく問われなければなるまい。
柏崎刈羽原発の再稼働を巡っては資源エネルギー庁長官や原発推進派の東京商工会議所会頭が本県を訪れるなど、地ならし的な動きが目立つ。
そうした中で県に求められるのは、県民が主体的に再稼働問題について考えることができる環境づくりのはずだ。
「原発事故を検証して、県民を守る気持ちが薄いのではないか」。県の姿勢にこんなふうに疑念を持たれること自体、その妨げになることを肝に銘じなければならない。
不再任を強行しても県への不信を深めるだけだろう。県は不再任方針を再考すべきだ。
「県は安全担保の姿勢欠落」 技術委不再任問題で立石氏
新潟日報 2021/01/22
東京電力柏崎刈羽原発の安全性を議論する新潟県技術委員会を巡る委員不再任問題で、新潟県が高齢などを理由に再任しない方針を示している半数の委員の一人、立石雅昭・新潟大名誉教授(75)=地質学=が21日、県庁で会見し、自身らの再任を訴えた。同原発の安全性確認を進めているさなかの大量退任に「県民の安全を担保する姿勢が欠落しているのではないか」と指摘した。
県技術委は現在、東電福島第1原発事故の原因検証結果を踏まえ、柏崎刈羽原発の安全性が確保されているかの確認を進めている。将来、取りまとめる確認結果は、花角英世知事が再稼働の是非を判断する際の材料の一つとなる。
会見で立石氏は、県技術委の作業は論点がほぼ出そろい「最も重要な時期に差し掛かっている」と説明。自身からも数多くの論点を提示し、議論に携わっているさなかだとして「なぜ今(退任)なのか。高齢というだけでは納得できない」と反発した。
自身を含め半数の委員が退任することに「客観的にみて、委員会が変質する」と述べ、議論の継続性に懸念を示した。
花角氏は20日の会見で、新たな知見を取り入れるために委員の世代交代が必要と理解を求めた。これに対し立石氏は、自身を含む高齢を理由とされた委員が新しい調査、研究に取り組んできたことを強調し、「委員である以上、古い知見だけで物を言うことはあり得ない」と反論した。
立石氏は会見後、自身と、同じく不再任の対象とされた鈴木元衛・元日本原子力研究開発機構研究主幹(71)=核燃料工学=の再任を求める要望書を県に提出した。花角氏は取材に「いただいたものは拝見したい」と述べた。
■県技術委員会■ 2002年に発覚した「東電トラブル隠し」の後、県自前のチェック組織として発足。原子力工学、地質学など多様な専門家で構成し、12~20年には独自に東電福島第1原発事故の原因検証に取り組んだ。委員の任期は2年で、現在の委員数は14人。県は4月以降、内規に沿って70歳以上の「高齢者」を交代させるほか、福島事故の検証のために増員した委員を退任とし、補充しないことで、委員数を検証作業前の10人前後とする方針。
新潟県原発技術委「高齢」で不再任 70代委員「寝耳に水」
毎日新聞 2021年1月22日
東京電力柏崎刈羽原発の安全性を議論する技術委員会の一部委員を県が高齢を理由に交代させる問題で、不再任とされた立石雅昭・新潟大名誉教授(75)が21日、新潟県庁で記者会見した。「新しい知見が必要というだけで委員から外すのは認められない」と訴え、自身と鈴木元衛・元日本原子力研究開発機構研究主幹(71)の再任を求めた。【井口彩】
「技術委員会委員への再任を求めます」。立石氏は、持参した筆書きの垂れ幕を後ろに掲げて記者会見した。
立石氏によると、15日に県の担当者から電話があり「県の委員会には70歳までというルールがあるので、委員を再任しない。(花角英世)知事の決裁も得ている」と伝えられた。「寝耳に水だった」と振り返った。
立石氏は中越沖地震後の2008年から技術委に参加。地質学者として、柏崎刈羽の敷地内に活断層があるなどと主張し、原発の安全性への影響について厳しく指摘してきた。
技術委は20年10月に東電福島第1原発事故の検証作業を終え、「本来の業務」(花角知事)である柏崎刈羽の安全性確認を進めている。立石氏は、原発事故を起こした東電が原発を運転する「適格性」の確認や、原発事故時の情報発信など、国に説明を求める事項も数多く残っていると主張。「こうした議論をどのように引き継ぎ、柏崎刈羽の安全性を担保するのか。県民の安全を第一に考える姿勢から外れているのではないか」
立石氏は、自身や鈴木氏が柏崎刈羽の安全性確認のための研究を現在まで続けてきたと言及。花角知事は20日の記者会見で委員交代の理由として「最新の知見を持った若い研究者」が必要と主張していたが、「研究者として招かれた以上、古い知見でものを言うなんてあり得ない。あたかも高齢の人が勉強していないように言われるのは心外だ」と批判した。若い研究者が多忙で技術委に時間を割きづらい点や、新任されたばかりの委員は初回から強い意見を述べにくいと見込まれる点も懸念した。
技術委をはじめとする県の「三つの検証委員会」と検証総括委員会の結果が出るまでは再稼働の可否を判断しないというプロセスは、新潟独自のものとして知られる。立石氏は「技術委の大きな特徴は、委員がきっちり発言できる体制があったことだ。物言うメンバーを外すのがどういうことか、大きな危惧を抱いている」と吐露した。「みんなで『新潟方式』を作り上げてきたが、それが大きく変わってしまうのではないか」。立石氏はこの日、2人の再任を求める花角知事宛ての要望書を県に提出した。
県の対応への批判は、県内外に広がっている。市民団体「なくそう原発・新潟市民ネット」は22日、委員の任命継続を求める要請文を作り、JR新潟駅前でデモ行進する。元原発技術者で11月まで技術委の委員を務めた田中三彦氏(77)らでつくる科学者有志も20日、同様の内容などを要望する書面を花角知事に送った。