福島原発事故に伴い、福島県から群馬県に避難した住民ら91人が国と東電に総額約4億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は21日、国の責任を否定し、東電のみに賠償を命じました。
仙台高裁で国の権限不行使は違法だと認定された「生業訴訟」で原告団長を務める中島孝さんはこの判決に対して、「仙台高裁では、東電幹部に対する刑事裁判や同様の民事訴訟も踏まえ、津波は予見でき、規制権限を持つ国が役割を果たさなかったと断罪、国の権限不行使は違法だと認定した」、「それなのに今回、津波の予見性や水密化などの対策による事故回避の可能性をも否定し、何もしなかった国の責任を否定。同様の裁判で積み上げられた証拠を完全に無視した判決だ」と怒りを込めました。
それにしてもこの種の判決で常用される「著しく合理性を欠くとは認められない」という文言の何と空疎なことでしょうか。
関連記事
(20年10月1日)福島第一原発事故で仙台高裁も国と東電に賠償責任認める厳しい判決
⇒ https://yuzawagenpatu.blogspot.com/2020/10/blog-post_1.html
(20年10月15日)「国の責任論に決着」福島原発訴訟・仙台高裁判決の意義
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
国の責任否定 原告「不当判決」 原発事故訴訟控訴審 東京高裁、東電に賠償命令
毎日新聞 2021年1月21日
東京電力福島第1原発事故に伴い、福島県から群馬県に避難した住民ら91人が国と東電に総額約4億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(足立哲裁判長)は21日、国の責任を否定し、東電のみに約1億2000万円の支払いを命じた。
1審・前橋地裁判決(2017年3月)は国と東電双方の責任を認め、計約3800万円の支払いを命じていた。国の責任が争われた同種の原発訴訟の高裁判決は2例目で、国の責任を認めた仙台高裁判決(20年9月)と判断が分かれた。
判決は、政府の地震調査研究推進本部が02年に公表し、福島沖で巨大な地震が起き得ると予測した「長期評価」の信頼性について検討。長期評価は、過去約400年間に巨大津波を起こす地震が三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りで3回発生したことを前提としているが、判決はこの点には異論があったとしたほか、土木学会の知見とも整合しなかったと指摘し、長期評価の知見からは、原発の敷地高を超える津波の発生は予見できなかったとした。
津波対策、国の責任を認めず 原発避難、東京高裁が一審覆す
共同通信 2021/1/21
東京電力福島第1原発事故で福島県から群馬県などに避難した住民ら91人が東電と国に計約4億5千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は21日、国と東電に賠償責任を認めた一審判決を覆し、国の責任は認めなかった。足立哲裁判長は、東電に津波対策を命じなかった国の対応について「著しく合理性を欠くとは認められない」と判断した。
一方、東電には原告90人に計約1億1972万円を支払うよう命じた。国と東電を合わせ62人に計3855万円の賠償を認めた一審判決よりも救済範囲を広げ、金額も3倍超に増えた。
全国約30件の集団訴訟で、高裁の判決は2件目
「積み上げられた証拠を無視。ありえない」 国の責任を否定した東京高裁判決に怒り 福島・生業訴訟の中島原告団長
東京新聞 2021年1月21日
東京電力福島第一原発事故の被災者による集団訴訟は、全国で約30件続いている。福島県や隣接県で被災した約3650人の集団訴訟(生業訴訟)で原告団長を務める中島孝さん(65)=福島県相馬市=は21日、国の責任を否定した東京高裁の判決に「これまでに積み上げられた証拠を無視した。ありえない」と憤慨した。(片山夏子)
◆20年9月の仙台高裁 国の責任を全面的に認める
中島さんらの訴訟では2020年9月30日、仙台高裁(上田哲裁判長)が国の責任を全面的に認める判決を出した。東京高裁判決では一審の前橋地裁が国の責任を認めただけに、それが維持されるかが最大の焦点だった。
中島さんは「仙台高裁では、東電幹部に対する刑事裁判や同様の民事訴訟も踏まえ、津波は予見でき、規制権限を持つ国が役割を果たさなかったと断罪、国の権限不行使は違法だと認定した」と解説。続けて「それなのに今回、津波の予見性や水密化などの対策による事故回避の可能性をも否定し、何もしなかった国の責任を否定。同様の裁判で積み上げられた証拠を完全に無視した判決だ」と怒りを込めた。
原子炉等規制法など三つの法律により、国は原子力災害防止の観点から安全規制をすべきだと指摘。「長期評価に基づき、対策をしていれば原発事故は防げた。国の責任を認めなかったことで、再び原発事故が起こる可能性を高めた」と語気を荒らげた。