日の出町在住の組み木絵作家、中村道雄さんが、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故をきっかけに、十年ほど前から構想していた作品「龍」を、昨年2月、脳梗塞で入院した時に「今描かなければ」と強い衝動に襲われ、ベッドの上で下絵を制作し、退院後、半年かけて完成させました。
組み木絵は、下絵に沿って数種類もの木を糸のこでカットし、パズルのように組み合わせて絵を完成させるもので中村さんが考案した手法です。
下絵では、龍の背景に怒りを表す「稲光」を描いていましたが、完成した作品では魂を表す「玉」が描かれていました。中村さんは「怒りではなく、悲しみを描きたいと思った」と語ります。
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原発事故の悲しみ 「龍」に込め 日の出町・中村道雄さん 脳梗塞乗り越え、組み木絵完成
東京新聞 2021年1月25日
日の出町大久野在住の組み木絵作家、中村道雄さん(72)が、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故をきっかけに、十年ほど前から構想していた作品「龍」を完成させた。昨年二月、脳梗塞で入院した時にベッドの上で下絵を制作。退院後、半年かけて完成させた作品は、自身の集大成になった。 (布施谷航)
組み木絵は、下絵に沿って数種類もの木を糸のこでカットし、パズルのように組み合わせて絵を完成させる、中村さんが考案した手法。木目や木の色などを生かした温かみのある作風が特徴だ。しかし、今回の「龍」は異色の作風。たけだけしい龍が宝珠を手に雲の中でにらみを利かせている姿には、柔らかさよりも激しさが表現されている。
構想のきっかけは、二〇一一年三月の原発事故。安全神話に裏切られたことへの失望、無策だった政治への怒りが「龍を描きたい」との気持ちにつながった。制作は常に頭にあったが、手を付ける機会がないまま時は過ぎていった。
そんな中、脳梗塞に倒れて病院に運ばれた時に「今描かなければ」と強い衝動に襲われた。下絵を描き始め、一カ月後の退院時には完成させた。後遺症を心配する医師からは「まだ、糸のこは使ってはだめだ」と言われていたが、退院後少しずつ創作活動に取り組んでいった。
「集中力が研ぎ澄まされて異様な時間が過ぎていった」と中村さん。「休まなくてはいけない。やりすぎだ」と自分に言い聞かせながら、自宅の作業部屋で一日六時間の制作活動に臨んだ。六カ月後の昨年九月、黒檀(こくたん)の小さなピースを龍の目にはめ込み、完成した。
下絵では、龍の背景に怒りを表す「稲光」を描いていたが、完成した作品では魂を表す「玉」が描かれていた。「怒りではなく、悲しみを描きたいと思った」。十年の間に原発事故への思いが変わってきた。完成した作品を見詰めながら「最終的に描いた龍は自画像になった」と話した。
作品は中村さんのHPのほか、自宅に設けているギャラリー「おおぷなあ」でも実物を公開している。HPは、http://www.kumikie.net 問い合わせは「おおぷなあ」=電042(519)9024=へ。