2014年2月24日月曜日

函館市が大間原発の差し止め提訴へ

 北海道函館市は、Jパワー(電源開発)が下北半島北端に建設中の大間原発について、同社と国を相手取り建設差し止めと原子炉設置許可の無効確認などを求める訴訟を東京地裁に起こします。自治体が原告となる原発差し止め訴訟は全国で初めてです。
 
 提訴の理由の一つは、原発から30キロ以内という至近距離にあって、事故に備えた避難計画の作成義務も負うのに、立地自治体ではないために建設や稼働に関する意見が聞き入れられないという点です。
 国は福島原発事故後原子力災害対策指針を見直し、避難計画を作る自治体を原発8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大したので間原発から最短23キロにある函館市も避難計画の対象となりました
 当初、原発事故後原発安全神話に疑問を抱いた函館市は、国やJパワーに大間原発建設の無期限凍結を求めてきましたが、納得のいく対応が得られないまま建設再開を一方的に通告されたということです
 このように原発事故の影響を直接受ける地元なのに、県が異なるということで建設や稼働に関する意見聞き入れられないのはおかしいとしています
 
 もう一つは、大間原発プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料100%使用(フルMOX)する、世界で最初の商業炉になるものであるということで、田中俊一・原子力規制委員長も「(フルMOXは)技術的に納得できるような状況でない」との見解を示しています
 専門家の間で「フルMOXは緊急時に原子炉の制御棒が効きにくく、炉内の圧力が上昇しやすい」と指されているということです。
 もともとMOX燃料は、高速増殖炉計画の頓挫から何とかプルトニウムを用いる方法はないかということから生み出された代替案であって、京都大学の小出裕章氏は、それを従来の原子炉で用いるのは「灯油のストーブにガソリンを入れるようなもの」と、その危険性を喩えています。
 
 そもそもプルトニウムはアルファ線を放射する放射性物質なので、体内に取り込まれた場合の毒性・発がん性の高さはウランの比ではありません。
 事故を起した福島第一原発の3号機でも実はMOX燃料が一部使われていました。当初は秘匿されていましたが、それが明らかにされると今度は著名な学者たちは、プルトニウムは重いので発電所の外までは飛散しないという荒唐無稽の説明をしました。
 比重が重くても粒子径が小さくなれば(空気中の沈降速度が小さくなるので)いくらでも遠くに飛散します。現実に福島事故の1週間後当たりに米国の大気監視設備でプルトニウム(濃度の急上昇)が確認されました。
 
 福島原発事故がまだ収束していないのに、周辺の自治体の同意も得ないまま極めて危険な原発の建設を進めているわけです。
 この点も米国がスリーマイル原発の事故後はずっと新しい原発の建設を中止してきた抑制的な対応とは全く異なるものであり、日本が原発事故後も、如何にずさんな対応に終始しているかをまざまざと示しています。
 
 訴訟の行方が注目されます。
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「世界で初めて『フルMOX』やるのに説明もない」 
函館市長カンカン、「大間原発」の差し止め提訴へ
Jキャストニュース 2014年2月22日
 電源開発(Jパワー)が青森県大間町に建設中の大間原発について、北海道函館市の工藤寿樹市長は2014年2月12日の記者会見で、同社と政府に建設差し止めと原子炉設置許可の無効確認を求める訴訟を3月中にも東京地裁に起こすと正式に表明した。原発をめぐり、自治体が政府と電力会社を相手に建設差し止めなどを求める訴訟を起こすのは全国で初めて。
 大間原発は東京電力の福島第1原発事故後に建設工事を休止したが、2012年10月に工事を再開している。今後の司法判断しだいでは、原発の新設・増設をめぐる安倍政権のエネルギー政策に影響を与えるのは必至だ。
 
半径50キロ圏内の人口は北海道が青森の4倍
 訴状案によると、函館市は(1)福島原発事故以前の審査指針類によって許可された大間原発は、原子力規制委員会の新規制基準による安全性の審査がなされていない、(2)仮に新規制基準で安全と判断されたとしても、福島原発事故の原因を解明していない中で作成された新規制基準では安全確保は不十分だ――として、政府が電源開発に大間原発の建設停止を命じるよう求めている。
 
 函館市によると、同市と大間原発は津軽海峡を挟み、最短で23キロ。大間原発から半径50キロ圏内の人口は、青森県の9万人に対して、北海道は37万人で、「(重大な事故の場合)北海道の方が、より大きな影響を受ける」(工藤市長)ことになる。
 市職員出身の工藤市長は2011年4月に当選。これまで「福島原発事故のすさまじさを見て、原発の安全神話に疑問を抱いた。少なくとも、原発を新たに建設することは当分凍結すべきだ」と主張し、政府と電源開発に大間原発の無期限凍結を要請してきた。しかし、「(政府は)北海道側に一切の説明も意見を聴くこともなく、一方的に大間原発の建設再開を容認し、通告に来ただけ」と憤る。
 工藤市長は12日の記者会見で「国や電源開発に建設差し止め要請を何回も行ってきたが、明確な回答は得られなかった」と述べ、提訴を決断した理由を説明した。
 
 函館市が大間原発の建設中止を求めるには、特に他にない理由もある。それは大間原発の核燃料が国内外でこれまで稼動した従来型の原発と異なり、「フルMOX」と呼ばれる世界初の原発だからだ。フルMOXは、使用済み核燃料を再処理して取り出すプルトニウムをウランに混ぜて作るMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を全炉心で用いるため、国内で行き場のないプルトニウムの消費が進み、核燃料サイクルを推進すると期待されている。しかし、専門家の間では「フルMOXは緊急時に原子炉の制御棒が効きにくく、炉内の圧力が上昇しやすい」との指摘がある。
 
安倍政権のエネルギー政策に影響必至
 電源開発の北村雅良社長は「最新鋭の技術を適用した安全性、信頼性の高い発電所で、核燃料サイクルの一翼を担う重要な発電所だ」と、主張してきているが、工藤市長は「最も危険といわれるフルMOXを世界で初めてやるのに説明もない。そんないいかげんな話はない」と批判した。
 2008年5月に着工した大間原発は、中国電力の島根原発3号機、東京電力の東通原発1号機と並び、国内で建設中の原発3基のうちの一つだ。電源開発は当初、2014年11月の営業運転開始を目指していたが、「運転開始時期については今後、具体的な工事状況等を踏まえ、検討していく」としている。
 北海道では函館市だけでなく、道内35しで組織する「北海道市長会」も2012年11月、(1)原発事故を教訓に、将来的に原子力に過度に依存することのないようエネルギー政策を見直す、(2)函館市や北斗市をはじめとする北海道内の自治体等への十分な説明もなく再開された大間原発の建設工事は中止する――ことを政府に要請している。
 安倍首相は原発の新増設について「現在のところ全く想定していない」としているが、「建設中の大間原発や、建設がほぼ終わっている島根原発3号機は新増設のうちには入らないと思う」と述べ、将来的に電力会社から運転に向けた申請が出れば、原子力規制委員会で審査していく方針だ。建設中の原発をめぐる自治体初の差し止め訴訟が、原子力行政に一石を投じるのは間違いない。