福島原発事故の影響に関し、宇都宮大の清水奈名子准教授が昨年行った、栃木県那須塩原市他での子どもを持つ世帯の意識調査において、「放射能への対応をめぐって配偶者との認識にずれを感じる」の項目で、回答者の23・7%が「イエス」と答えました。
比率としては圧倒的というほどではありませんが、その「ずれ」は、妻が被曝を心配するのに対して夫はそれほど気にはせずに、逆に妻が過剰に危険視しているという見方をしているというもので、やはり深刻な問題です。国や地方公共団体が被曝は問題にならないとしているのに対して、夫はそれに同調しているが妻は疑問に感じている、と言い換えることも出来ます。
妻にすれば国などが問題ないというのには疑念が湧くものの、それがウソだという根拠もまた明確ではないというところに、夫婦間の「ずれ」をいつまでも解消できないという切なさがありそうです。
栃木県で組織した「放射線による健康影響に関する有識者会議」の責任者も、「県内は健康に影響が懸念されるような被ばく状況にない」と発表する一方で、講演会などで質問を受けると「会議が安全宣言をしたことはない」と逃げるという具合で、やはり疑念は払拭できそうもありません。
同時に、せめて自分の庭の芝生だけでも刈ろうとしても、世間の目があってなかなか実行しにくいという、周囲の目や「空気」に従わざるを得ないという日本特有の救いのない悩みもあります。
しかし問題の根源は、やはり真実をありのままに明らかにしようとしない国と、それに従っている地方公共団体の姿勢にあるのではないでしょうか。
最近、より破壊力のあるベータ線を出す放射性物質ストロンチウムの存在がクローズアップされました。
地下水における東電のストロンチウムの隠蔽はついに破綻を来たしましたが、国は、大気中や地表にセシウムよりも高濃度で存在するストロンチウムの問題を明らかにした上で、あらためで放射線の影響について真実を明らかにするべきです。
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23・7%が「認識にずれ」経験 見解分かれ口論も
…放射能のこと、配偶者と話せている?
東京新聞 2014年2月12日
ささいなことで夫婦げんか。多くの家庭に共通することだと思う。しかしその原因が、人間の力で解決できず、正体がはっきりしないものだとしたら、どうだろう。この先、何十年もつきあっていかなければならないものだとしたら-。
東京電力福島第一原発事故の影響に関し、宇都宮大の清水奈名子(ななこ)准教授が昨年八~十月、那須塩原市と那須町の幼稚園や保育所に通う子どもがいる二千二百二世帯を対象に、意識調査を実施した。
「放射能への対応をめぐって配偶者との認識にずれを感じる」の項目で、回答者の23・7%が「そう思う」「思ったことがある」と答えた。七割以上は「思ったことはない」と答えたとはいえ、気になる数字だ。
三歳と五歳の息子がいる那須塩原市のパート女性(36)は事故のあった二〇一一年、「家の除染と線量調査をしよう」と夫に持ち掛けた時の反応が忘れられない。
「きっと安全だ。必要ない」。不機嫌そうに言い返された。夫が休日、息子を庭で泥だらけで遊ばせるのも気になり、せめて庭の芝を刈ろうと提案したが、手間や近隣の目を理由に拒まれた。
同市で二歳の長男を育てる主婦(36)は、飲料水はミネラルウオーターに切り替え、野菜は西日本産を買う。出費が増え、やりくりに悩んでいる彼女だが、夫の視線は冷たい。「その心配が当たっていたら、関東全域が引っ越すことになるぞ」
原爆投下後の残留放射線研究で知られる沢田昭二名古屋大名誉教授は「(子どもへの影響がないと断定するには)放射能汚染の低い地域と高い地域で同人数の甲状腺を検査し、データを出さなければいけない」と、慎重な見方を示す。
県が設置した「放射線による健康影響に関する有識者会議」(座長・鈴木元国際医療福祉大クリニック院長)は昨年、「県内は健康に影響が懸念されるような被ばく状況にない」と発表。一方、鈴木院長は一月、那須塩原市で講演した際の質疑応答で「会議が安全宣言をしたことはない」とくぎを刺している。
意識調査をした清水准教授は「有識者でも意見が分かれ、危険とも安心とも言い切れない。放射線防護は、安心して暮らすための前向きな行動」と話す。
調査結果で気がかりな点がある。母乳や尿の放射性物質検査を利用したことがあるのは、わずか5・7%。那須町と那須塩原市は費用を助成しているが、74・3%が「利用の予定はない」か「事業を知らない」と答えた。
検診結果などの客観的なデータは、配偶者や自分の理解を助けるのはもちろん、将来、子どもが健康に育っていくための貴重な資料になる。大田原市の母親(42)は一家五人で検査を受け、自宅周辺の空間放射線量も測定。子どもたちの行動や健康状態を記録している。
最後に、ある母親の言葉を紹介する。
「何も努力せずに後で後悔するより、手を尽くした上で将来、夫婦で『やっぱり大丈夫だったね』と安心したい。それだけです」 (大野暢子)