2014年2月1日土曜日

NHK“脱原発”言及禁止問題 中北教授の原稿が明らかに

 NHKラジオ第一放送30日朝番組出演予定だった東洋大の中北教授に対して、NHK側が「東京都知事選の最中は“脱原発”に言及することは絶対にやめてほしい」と要求したのを教授が断って、NHKの「ビジネス展望」番組から降板した事件で、教授が事前にNHKに提出した原稿が明らかになりました。
      ※ 2014年1月30日NHKが都知事選中はと脱原発のコメントを拒否 
 
 それによると教授は冒頭で、「都知事選で焦点となっているとされ、また、国会の質問でも取り上げられている、原発再稼働の問題について安倍総理も、議論が行われるのは望ましい。と述べている。」と、話題としてして取り上げることの正当性を最初に断り、終りでもまた「以上、経済学の観点から問題提起を試みた。議論の活性化を望む」と結んでいるのにもかかわらず、NHK側は番組で脱原発に言及することを拒否したことが分かります。
 
 民放などでは都知事選が始まる前から公然と出演者に、「都知事戦中は脱原発には触れないように」と注意していたということですが、それは官邸からの圧力によるもの以外には考えられません。だとすれば議論が行われるのは望ましい』という安倍総理の発言は偽りということになるし、31日の国会で籾井NHK会長が「不偏不党で、公正な報道に心がける」と述べたことも、また偽りということになります。
 
 NHKはこれまでも不偏不党であるどころか、衆院選や参院選、そして秘密保護法の報道についてもことごとく体制・政権べったりの報道姿勢に徹していると、識者から批判されてきました。そうしたことがこの「ビジネス展望」番組の問題でも一層明らかにされました。
 これは公正を期した放送法(第4条)に明確に違反するものであり、イギリスの権威ある公共放送BBCと比べてみても落差が大きすぎて話になりません。
 会長のみならずNHKの報道姿勢を律してきた幹部たちは全員、この際心底から反省する必要があります。
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<NHKラジオ ビジネス展望>「原発再稼働のコストと事故リスク」(案) 
ハフィントンポスト 2014年01月31日 
(2014年1月30日WEB RONZAより転載)
NHKの朝のラジオ番組に出演予定だった中北徹・東洋大教授が、30日放送予定だった番組内で脱原発をテーマに取り上げようとしたところ、NHK側にテーマ自体の変更を求められ、放送が中止になった。今後の出演などにはついては現在のところ不明。「都知事選中は原発問題はやめてほしい」と言われたという。
 
番組は月~金曜の午前5~8時のラジオ第1放送「ラジオあさいちばん」。中北教授は「ビジネス展望」というコーナーに20年来出演しており、30日朝も「原発の再稼働のコストと事故リスク」をテーマに出演する予定だった。だが、前日に原稿案を見せたところ、ディレクターに「テーマを変えてくれ」と言われたという。
 
いったいそれはどのような内容だったのか。WEBRONZAはその原稿案を紹介する。一連の報道を受け、中北教授に依頼し、提供を受けた。以下がその全文だ。
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<ビジネス展望>
「原発再稼働のコストと事故リスク」(案)
2014.1.30         
東洋大学経済学研究科
 中北 徹
Q1.イントロ・・・
A1.(都知事選で焦点となっているとされ、また、国会の質問でも取り上げられている、原発再稼働の問題について安倍総理も、「議論が行われるのは望ましい。」と述べている。)
 経済学の観点から、コメントして、いくつか論点に触れて、議論の喚起に供したい。
最初にポイントを集約する。
第一は、事前の安全確保の対策、保険料などといった原発稼働のコストが世界的にアップしていること。第二に、万が一の際、巨大事故もたらす損害が膨大化している。最後に、日本の場合、廃炉の費用が発生しているが、それが企業の費用に明示的に計上されていないこと。
 
Q2.それぞれ詳しく・・
A2.まず、稼働コストの上昇が上昇している。2011年の段階で、民主党政権のもと、評価委員会が示した原発の電力コストは、当時、8円/KWH 。それが、最近では、たとえば、「自然エネルギー財団」の資料などを参照すると、11円から17円/KWHということで、2倍前後へ。その他、関連データを参照しても、2~3倍へ。
 
これは世界的な趨勢であって、保険料、安全確保の事故対策費などが、東日本大震災をきっかけに、リスクへの認識が高まった結果。すると、他の石炭・石油による発電コストは大差なく、小さくなっている可能性。
加えて、日本の場合、原発の廃炉の費用が積み上がってくる。廃炉技術が未開発の段階にあり、十分な試算が行われてない。
一方で、会計の観点から、廃炉は電力会社の命運を左右する大きな作業で、膨大な費用を伴うものだ。原理的には、事前に必要な費用を前倒しで積み上げる必要がある。しかし、電力会社のバランスシートに計上されていない。過小評価されているわけで、将来国民が負担する、見えない大きな費用になる可能性。
 
Q3.ということは・・・
A3.以上の全体像で、即時脱原発路線を支持するのか、それとも、時間をかけながら、緩やかに原発依存を減らしていくのか、という費用の選択の問題になる。それは国民がどう選択するのか、という政治的な課題だ。
現状では原発稼働がゼロ。しかし、そうしたなかで、アベノミクスが成果をあげている。株価が一昨年末から大きく戻し、今年は、一部上場の大企業は業績相場を達成すると見込まれている。原発(稼働)ゼロでも、経済成長が実現できることを実証したといえる。
もちろん、燃料コストがアップしているのは事実。そのこともあって、日本の経常収支の黒字額が減ってきた。これらの事情を念頭に入れて、脱原発か、それとも、原発稼働を重視して、国民がどう判断するのかが問われている。
東京都知事選挙をきっかけに、千葉や神奈川などの住民も、どこまで消費者とか、生活基盤の見地に立って、問題意識を高めていけるかが課題だ。
 
Q4.では、残るリスクの問題は・・
A4.最後に強調したいのは、原発事故発生のリスクと、巨大事故が起きた際の損害額との関係。
大震災のあと、確率的安全評価という観点にたって、原発の安全設計の妥当性を確認するための手続きや基準(PSA)を考える動きが生まれている。つまり、原発事故は起きるとして、その時点で原子力プラント、環境に対する影響を定量的に評価し、一定基準以下であれば、その事故に対しては安全性が確保されていると判断する、評価手続き。
しかし、テクニカルにはどうであれ、基本的な問題(ポイント)は、事故の発生確率と、その事故がもたらす損害賠償料との両者の掛け算、積がどれだけ大きいかである。
 
確かに、PSAモデルによる確率制御によって、発生件数は、もしも、一桁下げることで、安全性は改善されるかもしれない。しかし、一方、損害賠償額は大きく、巨大事故が起きると10兆円にも達すると見込まれる。近隣の土地買収・除染など費用を考えると、その何倍にも達する可能性。
事故発生の件数が一桁下っても、損害額が巨額なので、(両者の掛け算の積で決まる)やはり想定損害額が桁外れに大きい。そもそも、事故発生の確率が小さくなって、「数千年、数万年に1回の発生確率だ」といっても、それは今日、明日にも発生する可能性がなくなるわけでない。
すると、リスクである積の値を確実に減らし、ゼロにできるのは、原発を止めることになるだろう。
以上、経済学の観点から問題提起を試みた。議論の活性化を望む。