2019年5月1日水曜日

原発の過去、現在、未来

 滋賀報知新聞が、原発の基本構造と現実に設置されている原発の概要について、総論的な記事を出しましたので紹介します。
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原発の過去、現在、未来 
滋賀報知新聞 2019年4月30日
日本-東日本大震災後、廃炉時代へ 中国-躍進する原子力産業
 茨城県那珂郡東海村に日本原子力発電の東海第二発電所がある。
 原子炉形式は「沸騰水型軽水炉(BWR)」、出力は110万キロワットで日本初の百万キロワット級の軽水炉、運転開始は1978年11月で年間約132トンの低濃縮ウランを燃料としている。
 2011年3月に発生した東日本大震災により原子炉は自動停止、その後、津波が襲ったが茨城県による津波評価を参考にした防潮壁強化工事や複数の冷却用電源が功を奏して、福島第一原発のような大惨事には至らなかったが、震災後現在まで原子炉は稼働していない。
 原発事故後、2012年に改正された原子炉等規制法において、原子炉の運転期間は40年と規定され、原子力規制委員会の認可を受ければ、1回に限り最長20年の延長が可能だ。
 
 原子力規制委員会は2018年11月に東海第二原発の運転期間延長を認可したが、事故を起こし廃炉となっている福島第一原発と同じ沸騰水型原子炉の期間延長は初めてである。
 現在、原発の運転期間延長が認められているのは、関西電力の高浜原発1、2号機、美浜原発3号機で東海第二原発が認められて計4基となるが、高浜原発、美浜原発は「加圧水型軽水炉(PWR)」、東海第二は「沸騰水型軽水炉(BWR)」と形式が全く異なる原子炉である。
 
日本 東日本大震災後、廃炉時代へ 運用中37基、廃止・解体中22基
中 国 躍進する原子力産業 稼働39基、建設中・計画中250基超
 
 原子炉工学で原子炉は主に熱中性子によって核分裂連続反応を維持する「熱中性子炉」と呼ばれ、熱中性子の減速材として水(軽水、重水)や黒鉛を必要とし、減速材の種類によって軽水炉(加圧水型、沸騰水型)、重水炉(加圧水型、重水減速型)、黒鉛炉(黒鉛減速沸騰軽水圧力管理型、改良型ガス冷却炉、マグノックス炉、UNGG炉)などがある。
 
 日本の原子炉は「加圧水型軽水炉(PWR)」、「沸騰水型軽水炉(BWR)」の2種類で、東日本にBWR,西日本にPWRが多い。
 沸騰水型炉と加圧水型炉の違いは、原発は核分裂性物質であるウラン233、ウラン235などを燃料とし原子炉で蒸気を発生させてタービンを回し発電をするが、沸騰水型炉は原子炉で発生し汚染された一次蒸気でタービンを回すためにタービン建屋自体を遮蔽する必要があり加圧水型炉は原子炉で発生し汚染された一次蒸気を使って間接的に二次蒸気を発生させてタービンを回すためにタービン建屋などを遮蔽する必要がなく、保守時の安全性が有利である。
 
 加圧水型炉は建設コストが沸騰水型炉に比べて3割以上も高くなるが、加圧水型炉が世界の主流である。
 日本の原発は運用中が37基、廃止・解体中が22基だが、世界の原発は運用中が443基、建設中が63基と将来は全世界で500基近い原発が稼働することになる。
 
 原発事故で発生する放射性物質は目に見えず拡散するために、日本では近隣諸国の原発の稼働状況が気になるところだが、台湾では台湾電力公司が3か所で計6基(SWR4基、PWR2基)、韓国は韓国水力原子力発電株式会社が4か所で試験運転を含むと計25基(ほとんどがPWR)、中国は中国広核工業集団公司が39基(PWR)稼働している。
 特に中国は原子力産業が隆盛期を迎えており、建設中・計画中の原発は250基を超えており、稼働しているのはすべて軽水炉だが、計画中の原子炉には高速炉、高温ガス炉、トリウム溶融塩炉、進行波炉などの新しい原子炉の開発に力を入れている
 新型や改良型などの原子炉だが事故の危険性は未知数で皆無ではなく、中国での原発事故は中国国内の問題に限らず近隣諸国にも大きな影響を及ぼす。
 中国を中心として東アジア内陸部の砂漠や乾燥地域の砂塵である「黄砂」が、偏西風に乗り東アジアの広範囲に飛散し日本にも大きな影響を与えている。
 
 「黄砂」は主に砂塵だが環境汚染物質も含まれており、一度原発事故が起これば偏西風に乗って放射能汚染物質が「黄砂」と同様に長期間日本に降り注ぐことになる。
 中国から「黄砂」やPM2・5の飛来が風下の日本に対して長年警鐘を鳴らしている。
 躍進する中国の原子力技術だが、大学の原子力学科や原子力発電産業(国有企業)は様々な面で優遇されて人気があり有能な人材が集まってくるのは日本とは異なるところだ。
 
 日本の原発は廃炉時代に入っているが、福島第一原発に廃炉の目処が立っていない、完全に廃炉する技術は未完成など日本の原子力技術が低下しているのが現実だ。
 国策事業として推し進めてきた原子力産業の終焉も、国策事業として取り組む時だろう。(代表主幹 冨田正敏)