「平成」から「令和」に切り替わるこの1、2カ月、テレビ局はこぞって「平成振り返り」特番を放送しましたが、なぜか福島原発事故のことはほとんど出てこなかったということです。
世界を震撼させた福島原発事故は、東日本大震災と並ぶ平成時代の2大悲劇だったのに何故なのでしょうか。
安倍政権が、国民の関心を東京オリ・パラリンピックに向けさせるために、福島原発事故は解決された話にしたいと考えているのは良く知られています。テレビ局にはまずそれへの忖度がありますが、同時に原発の再稼働を目指す電力各社がテレビへの広告規模を拡大させた結果、テレビ各局が広告主に不都合な報道が出来なくなったという事情があります。
記事の中で詳しく出てきますが、東京電力だけはさすがにまだ広告代は事故前のレベルに戻っていませんが、他の電力会社はすっかりテレビなどへの広告規模を事故前のレベルまで復活させています。それは直接的には国民に原発の安全性を訴えるためですが、同時にその潤沢な広告代で前述したようにテレビ局の動向を制約する意図を持っています。その方がむしろ本当の狙いだと思われます。
電力会社は総括原価方式により、もともと広告宣伝費を自由に設定できます(広告宣伝費はそのまま電気料の原価となり、法律上その3%が電力会社の儲けの一部になる)。
かつて電力会社は、その莫大な広告関係費を利用して、テレビ以外の分野でも大々的に原発の安全性を強調することで、原発安全神話を日本の隅々にまで浸透させました。そうしたメディアに対する強みを今度は原発の再稼働に向けて発揮しようという訳で、それは既に成功しつつあると見ることが出来ます。
LITERAの記事を紹介します。
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テレビ各局の“平成事件振り返り”から「福島原発事故」が消えた!
広告漬けと政権忖度で原発事故をなかったことに
LITERA 2019年4月30日
「平成」の終わりまであと数時間。この1、2カ月テレビ各局はこぞって「平成振り返り」特番を放送してきた。しかし、そのなかで、気になったことがある。どの番組を見ても、あの福島原発事故のことがほとんど出てこないのだ。
たとえば、4月6日に放送された『池上彰のニュース そうだったのか! 3時間スペシャル』(テレビ朝日)。その内容は「平成30年大ニュース」と題し、平成の時代に起こった事件や出来事を「昭和」と比較し分析するというもので、ゆとり教育や消費税導入、テロの激増、そして「日本を大きく変えた自然災害」として西日本豪雨、雲仙・普賢岳などともに東日本大震災にも触れられていた。ところが、その震災についても「SNSが普及」「LINEに既読機能が」といった災害対策がメインで、多くの国民に甚大かつ深刻な被害を与えた福島原発事故についてはクローズアップしなかった。
フジテレビが3月31日に放送した『報道スクープ映像 昭和・平成の衝撃事件!大追跡SP』も同様で、昭和のロス疑惑まで取り上げているのに、原発事故にフォーカスすることはなかった。
NHKでも同じ現象が起きている。『NHKスペシャル』ではこの間、「平成史スクープドキュメント」と銘打った回顧シリーズを放送していたが、「大リーガーNOMO」「山一証券破綻」「小選挙区制導入」「安室奈美恵」などがテーマで、原発事故は結局、テーマにならなかった。
情報番組やワイドショーも、この間、レギュラー枠の中で平成ふりかえり企画を放送したが、やはり原発事故をクローズアップした番組は皆無。
とくに、唖然としたのがきょう、平成最後の日の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ系)だ。「年表で振り返る30年間」として平成の事件を振り返り、小泉政権の誕生、高橋尚子のシドニー金メダル、ライブドア事件などはたっぷり映像で放送したのだが、2011年になると、「災害の多かった平成、なかでも東日本大震災、いまだに復興道半ば」という短いコメントとともに、津波で押し流された町の写真パネルが一瞬、映されただけで、すぐに「それから2012年、東京オリンピック開催決定、スカイツリー開業、えーそんな前になんの?」と、宮根がおちゃらけトークで別の話題に移してしまった。
そのあと、天皇・皇后の東日本大震災被災地慰問の映像が流れて、再び震災の話題になるのだが、ここでも不可解なことが起きる。「被災による避難者数」というフリップが映され、林アナが「およそ4万8000人の方が避難している、そのうちおよそ4万人は福島県の方」と解説したのだが、そのあと、原発のゲの字も口にせず、その「4万人の福島県の避難者」の原因についてネグってしまったのだ。
「この間、原発事故のことをきちんと取り上げていたのは『報ステ』やTBS、それも報道局が作った番組くらいじゃないですか。他の民放も、NHKも明らかに原発事故を避けていた」(民放関係者)
言っておくが、この原発事故は当事者である吉田昌郎・福島第一原発の所長(当時)がいったんは「東日本壊滅を覚悟した」と回想したくらいの危機的な状況だった。そして、いまも4万人以上の人々がこの原発事故の影響で故郷を追われ、避難生活を強いられている。そんな重大事故をテレビの平成振り返り企画が不自然なくらいに避けまくっているのだ。これはいったいなぜなのか。
東京五輪を控えて強まる忖度、そして原発広告の復活
もちろんその理由のひとつは安倍政権に対する忖度だろう。現在、安倍政権は、原発被災者への支援打ち切りと強引な帰還政策を推し進める一方で、まるで事故などなかったかのように、原発再稼働を推し進めている。また、東京五輪を来年に控えて、原発事故の影響などないことをアピールしようと必死になっている。
「直接的な現場への圧力というのはないが、局の上層部には、『五輪を前に日本の安全をアピールする必要がある。協力してほしい』というプレッシャーがかかっているようです。そのためか、原発事故をクローズアップしようとすると、上から『風評被害を助長するのはどうか』とクレームがつく。振り返り企画でも、そういう空気を忖度したということでしょう」(前出・民放関係者)
さらに、もうひとつメディアが原発事故を取り上げない理由がある。それが電力会社によるメディアへの“原発広告”の復活だ。
事故以前、東京電力をはじめとする電力各社やその司令塔・電力事業連合会(電事連)は新聞、テレビ、週刊誌などのマスコミに広告を大量出稿することで、原発に批判的な論調を封じ込めてきた。しかし原発事故が起こされると、安全神話を作り出してきたマスコミ、そして広告に出演していた芸能人や学者たちにも批判が高まり、電力会社からの広告は一時なりをひそめたかに見えた。
ところが事故から3、4年が経った頃から、メディアでは“原発広告”が完全に復活。さらに、原発再稼働政策を推し進める安倍政権と歩調を合わせるように、電力業界は広告費を増やし、再びマスコミを“カネ”で漬け込んで“原発タブー”を作り出しているのだ。
実際、電力業界の広告宣伝費は総じて右肩上がりだ。日経広告研究所が毎年発行している『有力企業の広告宣伝費』によれば、大手電力10社のうち、東京電力ホールディングスこそ福島原発事故以降の広告費は下降基調だが、他9社は全体として上昇の傾向にある。
関西電力、九州電力の広告費は3倍増に! 広告漬けでマスコミが再び
たとえば、関西電力は美浜、大飯、高浜の3原発を擁するが、年間広告費は2015年度の31億円から翌16年度に92億円と実に3倍増。2017年の大飯、2018年の高浜再稼働とリンクしていると考えられるだろう。
川内原発、玄海原発を持つ九州電力も露骨だ。専門家から火山のリスクなどが散々指摘されながら2015年に川内原発を再稼働し、昨年は玄海原発も続いた。前後の年間広告費を見てみると、2014年度に12億円だったものが、17億円(2015年度)、30億円(2016年度)、41億円(2017年度)と3年で3倍に膨れあがった。
また、浜岡原発をかかえる中部電力は2014年度に36億円まで下がったが、2015年度は76億円と倍以上伸ばし、2016年度が約80億円、2017年度が76億円。これは福島原発事故前の2010年度(80億円)と同じ水準まで広告費を回復させたことを意味している。
他にも、東北電力は2016年度に66億円、2017年度に64億円と2年連続で60億円台を記録(2010年度=85億円)、中国電力は2017年度に35億円(2010年度=42億円)、四国電力は2017年度に24億円(2010年度=30億円)まで上昇しており、いずれも福島事故前の水準に迫ろうという勢いだ。
非公開の電事連や原子力発電環境整備機構(NUMO)など関連団体の広告予算もかなりの水準で上昇しているのは間違いない。事実、新聞や雑誌の広告だけでなく、すこし前からはテレビでも電事連のCMがごく普通に垂れ流されるようになっている。
こうした“原発広告漬け”の中、メディアの原発事故関連の報道は激減し、原発再稼働に対する批判も行われず、そして今回のように「平成の終わり」という大イベントでの振り返り特番でも、原発事故は「なかったこと」にされてしまったのだ。
おそらく本日から明日にかけて大量に流される各局の「即位特番」や「平成振り返り特番」でも、福島原発事故が正面から取り上げられることはないだろう。
安倍政権への忖度、原子力ムラによる大量の広告出稿によって、マスコミは再び原発安全神話に加担し、原子力ムラと一体化しつつある。平成の最大の人災でもあり、世界でも未曾有の原発事故を平成の終わりとともに「なかった」ことにされてしまうのだろうか。 (編集部)