東電の会長が6月以降空席になる可能性があることが分かりました。
残った唯一の候補は前経産次官の嶋田隆氏ですが、震災後、経産省は原則としてOBが利害関係のある企業への天下りを禁じているので、その掟を破ってまで嶋田氏が東電HDの会長就任の要請を受諾するかが焦点になります。
原発問題に直接関係ありませんが、ダイヤモンドオンラインに掲載されましたので紹介します。
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東京電力の会長職「空席」に、大本命を口説けなかった二つの誤算
堀内 亮 ダイヤモンドオンライン 2020/05/11
ダイヤモンド編集部,
東京電力ホールディングス(HD)の川村隆会長が今年6月に退任し、会長職が空席になる。東電HDとしては、次期会長にと願う大本命がいた。しかし、誤算が重なり、口説き落とせなかったのである。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
東電HD会長職が空席に
火中の栗を拾う者なし
東京電力ホールディングス(HD)の川村隆会長(80歳)が6月に退任し、会長職は空席になる。80歳をめどに退任するのは既定路線であり、東電HDは今年3月末までに次期会長を固めるはずだった。
東電HD、そして事実上の筆頭株主である政府は、昨年秋ごろから水面下で次期会長候補の絞り込みを始めていた。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長や日本商工会議所の三村明夫会頭、武田薬品工業元社長の長谷川閑史氏など、経済界の重鎮を中心に感触を探った。
電力業界の盟主で、経団連会長を輩出したこともある東電HDだが、2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故を境に、その威信は地に落ちた。目下、福島の復興はもちろん、50年近くに及ぶともいわれる福島第一原発の廃炉作業の完遂というミッションが課されている。廃炉や賠償など含めた「福島費用」は、少なくとも22兆円に上るとされ、一企業には重すぎる“十字架”を背負う。
わざわざ火中の栗を拾う経営者は、ついぞ現れなかった。
東電HDとしては、次期会長にと願う大本命がいた。しかし、誤算が重なり、口説き落とせなかったのである。
大本命は日本製鉄の宗岡相談役
「鉄の人は修羅場をくぐっている」
東電HDが次期会長の大本命としていたのは、日本製鉄相談役の宗岡正二氏だった。
宗岡氏は1946年生まれの74歳。2008年、新日本製鉄の社長に就任し、12年10月に住友金属工業との統合により誕生した新日鉄住金の会長兼最高経営責任者を務めた。19年から現職。日中経済協会会長も務める、財界の重鎮である。
東電HD内では、鉄鋼業界への“信仰”が厚い。宗岡氏の他に会長候補として前出の三村氏や日鉄現会長の進藤孝生氏の名が挙がり、彼らも「鉄の人」。川村氏の前に会長を務めていたのは、JFEホールディングス元社長の数土文夫氏だった。
ある東電関係者は「鉄は国家なりという言葉があるように、鉄鋼業界の重鎮は多くの修羅場をくぐってきている。だからこそ、宗岡さんに会長を託せる」と明かしていた。
しかし、東電HDは大本命である宗岡氏を口説けなかった。そこには思わぬ誤算が二つあった。
誤算の一つ目は、日本製鉄の業績悪化だ。ここから歯車が狂い始めた。
日鉄は2月7日、20年3月期決算が4400億円の最終赤字になる見通しを明らかにした。米中貿易摩擦などが影響して鉄需要が減少。子会社の日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県)の全部休止や和歌山製鉄所の第1高炉の休止など、生産能力の大幅削減に踏み切った。
これにより、「すでに相談役なので直接経営に携わっているわけではないが、日本製鉄は大赤字を出した企業というイメージが付く。会長就任を要請しても宗岡さんが受諾しにくい情勢になった」と東電に詳しいあるエネルギー業界関係者は分析する。
とはいえ、宗岡氏のキャリアは十分で、次期会長にふさわしい人材に変わりはなかった。しかし、もう一つの誤算があった。新型コロナウイルスの感染拡大である。「新型コロナで積極的に宗岡さんにアプローチしにくくなった」と別の東電関係者は言う。
3月頭に、ダイヤモンド編集部が宗岡氏に直接問うところ、同氏は「正式の打診なんて受けていない。誰かが勝手に言っているだけ。私は電力業界に明るいわけではないし、他にふさわしい人材はいる」と完全否定した。
前出の関係者によれば、宗岡氏へのアプローチは、かつて経産省製造産業局鉄鋼課長を務め、宗岡氏とパイプがある安藤久佳・経済産業事務次官や、宗岡氏と親交が深い原田義昭・前環境大臣らが担っていたという。しかし、成就しなかった。
このまま、会長不在が続くのか。実は掟破りとなる候補者が一人いる。
ウルトラCは究極の掟破り
元経産次官の嶋田氏の会長就任
「ウルトラC」となる掟破りの会長候補者とは、前経産次官の嶋田隆氏である。宗岡氏や三菱ケミカルの小林会長など、財界の重鎮が口を揃えて「東電の会長なら嶋田が適任だ」と推薦する人物だ。
嶋田氏は旧民主党政権下で11年に設立された原子力損害賠償支援機構(現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の理事兼運営委員会事務局長を経て、12年6月から15年6月まで東電取締役執行役を務めた。社内の守旧派を切り崩し、東電改革を推し進めてきた急進派の人物だ。
ただし、経産省は原則としてOBが利害関係のある企業への天下りを禁じている。震災前は、東電の副社長が経産省OBの「指定席」になっていて、これが東電と経産省の“癒着”と批判を浴びたからだ。この掟を破ってまで、嶋田氏が東電HDの会長就任の要請を受諾するのかが焦点である。
東電HDの経営は一見すると、堅調ともいえる。14年3月期から6期連続で最終黒字を確保。20年3月期は、福島第一原発の廃炉作業関連で特別損失を計上しつつも790億円の最終黒字になる見通しだ。
しかし、東電HDを巡る課題は山積していて、悠長でいられる状況ではない。
福島第一原発の廃炉費用を捻出するための収益改善の柱と位置付ける新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働は、目処が立っていない。原子力規制委員会の安全審査をクリアしたものの、立地自治体である新潟県などの地元同意については見通せないからだ。
また16年に始まった電力小売り全面自由化によって、顧客を奪い続けられていて、本業である小売り事業については販売電力量の減少に歯止めが立っていない。
そして東電HDの最大のミッションは、福島第一原発の廃炉、被災者への賠償など「福島への責任」を果たすことだ。その前面に立つべき会長職が不在という異常事態は、地元から「福島軽視」と言われかねない。