福島原発でトリチウムを含む処理水がたまり続けている問題で、政府は11日に東京都内で3回目の意見聴取会を開きます。
前回は4月13日で、双葉町の伊沢史朗町長は終了後の取材に「二つの処理案について、国はそれぞれの風評被害対策を具体的に示す時期に来ていると思う。これがない中では判断できない」と不快感を示しました。回数だけ重ねてそれを実績にしようというのはあまり意味がないように思われます。
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河北新報 2020年05月10日
東京電力福島第1原発で放射性物質トリチウムを含む処理水がたまり続けている問題で、政府は11日に東京都内で3回目の意見聴取会を開く。4月に福島県内であった2回の聴取会では、農林水産業の3団体が風評被害を懸念し処理水放出に反対を表明。放出決定の期限が迫るが、合意形成の行方はなお不透明だ。
■「提示案は遺憾」
「大気か海洋への放出という2案が提示されたことは遺憾。二者択一には反対する」
4月13日に福島市であった聴取会。県農協中央会の菅野孝志会長は国が早急に放出方法を絞り込むことに反対姿勢を表明した。「おおむね10年の時間軸でトリチウムの除去技術を確立させることが望ましい」とも語り、タンクによる長期保管も求めた。
原発の汚染水は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で大半の放射性物質が取り除かれるが、除去できないトリチウムを含む水が残る。政府の小委員会は2月、この水の放出先として海洋か大気が現実的とする報告書を提出。提言を受けた政府が方針決定前に設けたのが聴取会だった。
■復興の足かせに
聴取会は4月6日に福島市、13日に同市と福島県富岡町であった。自治体の首長や団体の代表者ら計22人が参加。首長ら大半の参加者が賛否を明らかにしない中、際立ったのが第1次産業団体の反対姿勢だった。
風評は福島の復興の大きな足かせだ。原発事故により放射性物質が拡散し、県内の農林水産業は大打撃を受けた。安全性をアピールしてもモモの価格は全国平均に比べ4割減、ヒラメは7割減にまで低下。最近は風評が薄れたが、価格差は今も1割ほど残る。
これに処理水放出が加われば、農林水産物の風評被害が増幅する恐れがある。
聴取会では県漁連の野崎哲会長が「(全魚種の)出荷制限が解除され、増産にかじを切ろうとしている矢先だ」と海洋放出に強く反対した。県森林組合連合会の秋元公夫会長は大気と海洋のいずれの放出にも反対し「まずは住民が帰還できる施策を望む」と訴えた。
参加者からは、国の議論の進め方に疑問の声も挙がった。どの方法でも甚大な風評被害が出る可能性があるのに、国は「まずは丁寧に意見を聞く」との姿勢を貫き、具体的な対策を示さなかったからだ。
福島県双葉町の伊沢史朗町長は終了後の取材に「二つの処理案について、国はそれぞれの風評被害対策を具体的に示す時期に来ていると思う。これがない中では判断できない」と不快感を示した。
■迫る決断の期限
第1原発構内には処理水が119万トンあり、東電は2022年夏ごろまでに満杯(137万トン)になるとみる。放出は準備に2年程度かかる見込みで、逆算すれば期限は今夏。残された時間が短い中、合意形成が不十分なまま国が放出方法を決断する可能性がある。
原発事故被災地の事情に詳しいいわき市のライター小松理虔(りけん)さん(40)は「もっと早い段階で、いろいろな人たちと議論すべきだった。調整が不十分な中で今夏に結論を出すのであれば早すぎる」と指摘し、国の合意形成の在り方を問題視する。
その上で「除染に伴う除去土壌の最終処分など、国が合意形成を必要とする課題はたくさんある。処理水の問題でモデルケースをつくり、幅広い意見を聞いて結論を出す試金石にしてほしい」と訴える。