福島県飯舘村の会社員渡辺富士男さんが、20年以上書きためた村の方言をまとめた冊子を自費出版しました。渡辺さんは「避難で散り散りになっても方言ひとつで当時の思い出や時間を共有できる」と語りました。
タイトルは「福島 飯舘の方言『ぼっと…』と『うそんこ』」。900語以上の方言を全99ページのカラーA5判にまとめました。
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避難指示続くふるさと、方言がつなぐ 飯舘の男性、冊子を自費出版
河北新報 2021年08月22日
東京電力福島第1原発事故に伴い一部地域で避難指示が続く福島県飯舘村の会社員渡辺富士男さん(67)が、20年以上書きためた村の方言をまとめた冊子を自費出版した。渡辺さんは「避難で散り散りになっても方言ひとつで当時の思い出や時間を共有できる」と語る。
タイトルは「福島 飯舘の方言『ぼっと…』と『うそんこ』」。全99ページのカラー、A5判。村に残る貴重な農具などの写真やイラストを掲載した。900語以上の方言をあいうえお順に並べて、意味と例文、訳なども載せた。
方言の魅力に気付いたきっかけは、25年ほど経営していたクリーニング屋での会話だった。営業で村内を回り、年配の人々を相手に話をする中で「おへらう(夕方)」「でぐろっこ(おもちゃ)」など、村で生まれ育ったのに聞きなじみのない言葉と出合った。目の前でメモを取ると相手が萎縮するのではないかと考え、車内に戻ってから記憶を頼りに心に残った言葉を書き残し続けた。
10年前の原発事故で村は全村避難を余儀なくされ、渡辺さんは福島市で約7年間暮らした。住み慣れた古里を追われ、ありのままの言葉で人と話せず方言への思いが募る日々。住民の寄稿文などをまとめた瓦版の発行作業に携わる中で渡辺さんと同じ思いを抱えて暮らす住民の存在を知った。
「方言に触れることができれば、少しは飯舘を懐かしむことができるのではないか」と考え、書き留めたノートを引っ張り出した。村民の間で方言の一言で通じるニュアンスを、万人にどう分かりやすく伝えるか頭を悩ませながら約1年かけて編集。今年7月に700部を製作し、村役場や村内の道の駅などに置いたほか、住民にも配った。
渡辺さんは「昔は古里の方言を恥ずかしいと思うこともあったが、今は飯舘にしかない言葉を誇りに感じている」と語る。