トリチウムを含む処理水の海洋放出をめぐり、政府と東電は風評被害対策や賠償などの計画を地元向けの説明会で示しましたが、基金を活用して冷凍した魚を買い取る方針については、「鮮度の良い魚を生で出荷してこそだ。これでは後継者にとって魅力的な職業にならない」との指摘があったほか、15年に国、東電と交わした「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束をほごにされたことで「風評対策も信用できない」との憤りが示されました。
福島大の小山良太教授は「より具体的な数値目標を立て、達成するまで放出しないといった条件を課さなければ理解は得られない」と話しました。(時事通信より)
福島民報の記事を併せて紹介します。
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漁業者、拭えぬ不信 「口だけでなく成果を」 原発処理水放出の風評対策
時事通信 2021年8月28日
東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出をめぐり、政府と東電は風評被害対策や賠償などの計画を地元向けの説明会で示した。しかし、福島県内の漁業者の不信感は根深く、「口だけでなく成果を」と訴える声が上がる。
政府は風評被害が生じた場合、基金を活用して冷凍した魚を買い取る方針だが、相馬双葉漁協の立谷寛治組合長は「鮮度の良い魚を生で出荷してこそだ。これでは後継者にとって魅力的な職業にならない」と訴える。
漁業者の不信感の背景には、2015年に国、東電と交わした「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束をほごにされたという思いがある。同県新地町の漁師小野春雄さん(69)は「現場が納得する説明もなく放出を決めるのはおかしい。風評対策も信用できない」と憤る。
風評被害に詳しい福島大の小山良太教授(農業経済学)は「政府案はこれまでの風評対策の延長にとどまっている。より具体的な数値目標を立て、達成するまで放出しないといった条件を課さなければ理解は得られず、『結論ありき』という印象を持たれても仕方がない」と話した。
海洋放出反対改めて主張 処理水評議会で福島県漁連など 政府に風評対策要請
福島民報 2021/08/28
政府は28日、「廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会」をオンラインで開き、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に伴う当面の対策を福島県内の地元自治体や関係団体の代表らに説明した。出席者からは風評抑止に向け、対策の実効性を高めるよう求める声が相次いだ。福島県漁連は海洋放出反対の立場を改めて主張した。
JA福島中央会の菅野孝志会長は「政府の拙速な放出方針決定によって処理水への疑念が国内外で拡大している」と切り出し、農業にもさらなる風評が生じるとの危機感を訴えた。風評対策の実効性を高めるため、国内外における処理水の理解度を定期的に検証し、進捗(しんちょく)を把握するべきと伝えた。
鈴木正晃副知事は「正確で分かりやすい情報を政府一丸となって強く発信してもらいたい」と念を押し、南相馬市の門馬和夫市長は「風評を発生させない万全な対策を進めてほしい」と求めた。
県漁連の野崎哲会長は「海洋放出には反対」と、以前からの主張を固持した。
東電の対応への不信感を示す出席者も。いわき市の新妻英正副市長は東電による具体的な放出手法の検討状況の発表に際し、地元関係者への意見聴取が不十分だったとし「非常に憂慮される」「国民の理解を得るのが困難になるのでは」と吐露した。浪江町の吉田数博町長は「東電への信頼は心もとないと言わざるを得ない」と語った。
風評が発生した場合の賠償基準に関し、東電のこれまでの賠償姿勢には問題があるとし、政府や専門家が関わって基準を決めるべきとの指摘もあった。
NPO法人ハッピーロードネットの西本由美子理事長は処理水の理解促進に向け、教職員や自治体職員に情報発信に協力してもらう取り組みを提案した。
政府が教職員や自治体職員ら対象の研修会を開き、研修を受けた人が住民にトリチウムや処理水の性質を伝える方法を例示。「身近で信頼できる人に、なじみのある言葉で話してもらえば理解が深まるはず」と期待した。
終了後、江島潔経済産業副大臣は取材に対し、「意見をしっかりと受け止め、対策の充実に取り組む」と語った。