生業訴訟の判決で仙台高裁は9月30日、国は「東電を規制する立場の役割を果たさなかった」と指弾し、国には東電と同等の賠償義務があると判断しました。原告弁護団事務局長の馬奈木厳太郎弁護士は「責任論に決着をつけた」と評価しました。
残念ながら国と東電は最高裁に上告しましたが、最高裁には少なくとも高裁の判決を下回らない判決を期待したいものです。
東京新聞が馬奈木弁護士に判決の意義と被災者救済のあり方を聞きました。
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「国の責任論に決着」福島原発訴訟・仙台高裁判決の意義 原告弁護団の馬奈木厳太郎弁護士に聞く
東京新聞 2020年10月14日
東京電力福島第一原発事故から9年半、事故収束作業とは別に続くのが、被災者らによる事故の責任追及だ。原子力政策を推進してきた国に責任はあるのか-。集団訴訟の判決で仙台高裁は9月30日、「東電を規制する立場の役割を果たさなかった」と指弾し、国は東電と同等の賠償義務があると判断した。「責任論に決着をつけた」と評価する原告弁護団事務局長の馬奈木厳太郎(いずたろう)弁護士(45)に、判決の意義と被災者救済のあり方を聞いた。(小川慎一)
-判決をどう評価する。
原発事故の国の責任を巡っては、集団訴訟の地裁判決で判断が割れてきた。今回は勝ち星が一つ増えたというレベルではなく、国の責任論に決着をつけるものだ。他の判決や東電旧経営陣3人の刑事裁判(1審東京地裁は無罪、検察官役の指定弁護士が控訴)も意識し、国の責任を否定する論拠を丁寧に批判した。
-どう決着をつけたか。
責任が認められるかは、①危険を事前に予測できたか ②予測できたとして対策を講じれば結果を回避できる可能性があったか-という二つのポイントがある。
◇「長期評価」の信頼性は揺るがない
仙台高裁判決は、政府機関が2002年に公表した地震予測「長期評価」に基づいて試算しておけば、原発の全電源喪失を引き起こす津波の可能性を認識できたとしている。この「予見可能性」は多くの訴訟で認められてきたが、刑事裁判や国の責任を否定した集団訴訟判決の中には、長期評価の信頼性が十分ではないと判断した例もある。
長期評価の信頼性は揺るがない。これが高裁の判断だ。阪神大震災後に法律に基づき国が設置した機関で一線級の学者がまとめた見解は、単なる研究発表ではない。一般的な防災の指針作りへの活用が予定されており、慎重に安全を確保すべき原発が無視できるはずがないというわけだ。
9月30日の仙台高裁判決は、原告が求めた「放射能で汚染された土地の原状回復」は退けた。だが判決文では、その請求について「心情的には共感を禁じ得ない」と記した
◇対策は複数あった
-②の結果回避の可能性については。
東電と国は防潮堤を設置しても事故は防ぎきれなかったと主張したが、判決はその対策だけでは不十分だと一蹴している。他の電力会社は、重要な設備がある建屋に水が入らないようにするなど別の対策も進めていた。東電と国は、防潮堤以外の対策で事故を回避することは不可能だった、とは立証しなかった。
-国の姿勢を厳しく批判する判決でもあった。
こんな一節がある。「原子力事業者は営利企業で利益確保のため、ややもすれば津波対策を先送りしたり、極力回避したりしようとする。規制当局はそれがあり得るとふまえて、安全寄りの指導、規制が期待されている」。原子力を推進してきた国がその役割を果たさなかったことを、判決はしっかりと指摘している。
◇被災者の全体救済を
-仙台高裁判決は、国の賠償基準よりも賠償の額や対象範囲を広げた。
中間指針など国の賠償基準を上回る損害があるかを、区域ごとに一律に評価して水準を引き上げ、賠償対象も1審判決の約2900人から3450人に広げた。中間指針は福島南部や会津地域、隣接県の住民は被害者とされてこなかったが、判決では会津でも、子どもと妊婦の被害が認められた。福島全59市町村の住民が原告となった集団訴訟で、中間指針の不十分さが明確になった。これは原告だけではなく、裁判をしていない県民全体に影響がある点で重要だ。
-賠償のあり方をどのように見直すべきか。
中間指針の見直しはもちろんだが、東電だけではなく国も等しく責任を負わないといけない。国は「原発政策を推進してきた歴史的経過を鑑みて社会的責任を負う」といって法的責任を否定し、東電の後方支援のような形をとってきた。だが仙台高裁判決が認めたように、国は当事者だ。法的義務として、被災者救済をしなければならない。
◇政府と国会の出番だ
-新たな法律が必要か。
原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)は、過失を要件とせずに事業者の責任を認めており、被害者救済には優しく見える。だが、この法律の目的は「被害者の保護」と「原子力事業者の健全な発達」で、簡単に言えば金を払うから原発をやらせろという法律だ。かつての公害、水俣病、ハンセン病、薬害と同じように、国に対して被害に見合った救済を義務付ける法律が必要となる。お金だけではなく、医療や生活再建のサービスなどを制度化すべきだ。
-来年1、2月には東京高裁で判決が出る。
仙台高裁判決の流れが続いてほしい。いずれの高裁判決も、国、東電は上告するだろう。最高裁では3訴訟で一括して、国の責任論を判断する可能性がある。国を加害者だと確定させたい。そして、原告以外の全体救済につなげないといけない。原発事故から10年を前に、政府と国会にはやるべき仕事があるはずだ。
◇賠償請求には三つの方法 東電が支払い拒む例も
被災者が東電に賠償請求する方法は、①東電への直接請求 ②裁判外紛争解決手続き(ADR)の利用 ③裁判所への提訴-の三つがある。東電は国の「中間指針」に沿って賠償額を決めるが、指針を絶対視して支払いを拒む例がある。
ADRは国の原子力損害賠償紛争解決センターが仲介し、申し立てから和解案提示までは10カ月程度かかる。被災者の事情に応じて中間指針から賠償金を増やした和解案を、被災者と東電の双方が受け入れれば、賠償金が支払われる。だが、東電が集団申し立ての和解案を拒む例が目立つ。
東電や国に損害賠償を求めた被災者の集団訴訟は約30件あるが、確定判決はまだない。東電と国の津波対策を巡る責任や、中間指針による賠償金が妥当かが主な争点。東電の責任は全判決が認めている一方で、国の責任について判断が割れている。複数の判決が中間指針を超えた賠償金の支払いを命じている。
東電による賠償には、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構に国債を交付し、現金化して東電に無利子で貸し付ける資金が使われている。税金を機構を通して使う仕組みだ。東電によると、支払総額は10月9日時点で約9兆6171億円。