2023年10月2日月曜日

各国のアルプス処理水への理解に濃淡 中国のIAEA批判は裏目

 ウィーンで開かれているIAEA加盟177カ国)総会は27日、各国代表による一般討論演説が終了しました。トリチウムを含むアルプス処理水の海洋放出に関しては、3日間の演説で登壇した133カ国のうち、明確に反対を表明したのは中国だけだでした。ただ、演説で示された理解や容認は中国のIAEA批判に対する反発の側面もあり、各国の姿勢には濃淡があります。
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〔深層探訪〕
処理水への理解に濃淡 中国のIAEA批判は裏目 放出1カ月で各国反応
                            時事通信 2023/10/1
 ウィーンで開かれている国際原子力機関(IAEA、加盟177カ国)総会は27日、各国代表による一般討論演説が終了した。東京電力福島第1原発からのトリチウムを含む処理水の海洋放出が始まって1カ月余り。3日間の演説で登壇した133カ国のうち、明確に反対を表明したのは中国だけだった。ただ、演説で示された理解や容認は中国のIAEA批判に対する反発の側面もあり、各国の姿勢には濃淡がある

◇権威守る
 演説で処理水放出への反応を示した国の大半は、IAEAによる独立した立場からの監視や日本の取り組みを支持した。ドイツやイタリアなど欧州勢が目立ち、「日本の協力姿勢と透明性を評価する」(ブルガリア)との声もあった。
「IAEAの権威を守ることは、われわれの利益になる」。欧州のある外交官は7分間の演説で、国益に直接結び付かないようにも見える処理水放出への支持を打ち出した理由について、こう語った。
 中国はIAEAの関与について「独立性に欠ける」「(データが)真実か分からない」などと主張。これが裏目に出て「IAEAの権威に対する挑戦」(日本政府関係者)と受け止められた。核不拡散ににらみを利かせるIAEAの威光が弱まれば、核施設の査察や監視業務に悪影響を及ぼしかねないという危機感が、欧州の放出計画支持の動きにつながった

◇同調広がらず
 一方、中国への同調は広がりを欠いた。シリアは「非常に憂慮すべきこと」と懸念を示したものの反対はせず、これまで中国と歩調を合わせてきたベネズエラやロシアは沈黙。国連総会で批判を展開したソロモン諸島は、IAEA非加盟のため発言機会がなかった。
 同じ太平洋諸国では、ニュージーランドとオーストラリアが明確な支持を表明。ただ、ニュージーランドは、太平洋地域が抱える核実験の傷に触れ「重大な関心事だ」とも訴えた。容認の構えを見せた韓国は「汚染水」という表現も用い、IAEAに監視を緩めないよう注文を付けた

◇「最後の一滴まで」
 IAEAを抱き込む形で理解獲得を進めてきた放出計画は、ひとまず軌道に乗ったと言える。各国代表によるおおむね前向きな言及に、日本の外交官の一人は「勇気づけられた」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
 放出は数十年に及ぶとされる。IAEAのグロッシ事務局長は「最後の一滴まで」監視を続けると強調。日本政府代表として登壇した高市早苗科学技術担当相も「最後の一滴まで」安全を確保すると口をそろえた。
 日本政府とIAEAは原発の推進で利害が一致しているだけに、そうした両者の近さへの不信感は国内外でくすぶる。中国が発動した日本産水産物の輸入禁止措置には、ロシアも追随する動きがある。国際社会に広がりつつある日本の放出計画への支持が確かなものになるかは、今後の取り組み次第だ。
 
◇IAEA総会での処理水放出に関する主な発言(発言順)
 【中国】原発事故による核汚染水の放出は前例がない。放射性物質の蓄積がもたらす海洋への影響には大きな不確実性があり、日本から信頼できる説明はない。
 【韓国】汚染水放出計画の安全性を慎重に審査したグロッシ事務局長の指導力に感謝。効果的な監視が続くことを切に期待。
 【ブラジル】(ウクライナ南部)ザポロジエ原発での支援構築や(東京電力)福島第1原発の現場常駐など、非常に困難な状況でのグロッシ事務局長の指導力に敬意。
 【ドイツ】IAEAの専門性と中立性を全面的に信頼。
 【イタリア】IAEAの包括報告書と監視を歓迎。
 【シリア】非常に憂慮すべきだ。解決に向け、地域の全ての国が協力して取り組むよう求める。
 【マレーシア】IAEAの科学的で技術的な判定を大いに評価。
 【ニュージーランド】核(実験)の遺物がトラウマのように残っており、重要な関心事。対話と情報共有への継続的な取り組みを歓迎。
 【オーストラリア】IAEAの独立した科学に基づく助言を全面的に信頼。日本の透明性や国際的な関与を歓迎。
 【エクアドル】安全性を確保するという日本の姿勢を認識。水産業と敏感な生態系を抱えており、更新される情報を注視。(ウィーン時事)