能登半島地震で明らかになったことは、地震・津波あるいは豪雪と原発事故が重なる複合災害時の避難では、自宅家屋の倒壊や損壊による「屋内退避」の非現実性や、避難道路の寸断による孤立=避難の不可能性などの問題でした。実際に「屋内退避は現実的ではない」「大雪時には孤立する」「収容人数100人の避難所に300人が集まった」等の声が上がっています。
それに対して規制委の中山委員長は、「例えば避難所を作って下さい、あるいは道路ができるだけ寸断しないようにして下さい、あるいは家屋が多数倒壊した場合には近隣に避難所を設けて下さい、ということについては我々の範疇外(内閣府が担当)。それがしっかり担保された前提で原子力防災に対する屋内退避について考えたい」と述べました。
そうした「前提事項」は各地方公共団体と内閣府の責任でクリアするとした上で、新たな「基準」を作られても結局は現実から遊離した=現在の基準に毛が生えた程度の「架空の基準」になってしまいます。
新たな基準には「前提条件」の全てを明記した上で、「それらの前提が実現した後に再稼働を行う」という一文を加えることが必須となります。
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能登半島地震で浮き彫りになった原発事故時の避難の課題 道路寸断・家屋倒壊 避難計画の実行性は【新潟】
UX新潟テレビ21 2024/2/27
能登半島地震で改めて検討を迫られている、地震や津波によって原発事故が起きた時の避難の問題。県内では柏崎刈羽原発で重大な事故が起きた時、住民はどう避難するかが、あらかじめ決められています。国の原子力災害対策指針に基づく県の避難計画では、
■半径5km以内の住民、PAZでは刈羽村の全域と柏崎市の一部は直ちに避難する。
■5~30km内、県内8市町のUPZの住民は避難による被ばくを避けるため「屋内退避」を行った上で、放射線量の状況次第で避難を始める。
と定められています。
1月1日の能登半島地震では、原発がある石川県志賀町で道路の寸断や家屋の倒壊が相次ぎました。現状の計画通り避難はできるのか県内の自治体から不安の声があがっています。
県内すべての市町村長が長岡市に集まった会議。柏崎刈羽原発の安全対策などについて国と県から説明を受けました。自治体トップからは事故が起きた時の避難について、指摘が相次ぎました。
■長岡市 磯田市長
「家屋が倒壊する、屋内退避すべきところがない状況が考えられる。屋内退避が現実的ではないという不安。」
■上越市 中川市長
「大雪で、地震で道路が壊れて、原発が壊れるということが同時に起こった時に、孤立した人たちを誰がどう救うのか。」
能登半島地震をきっかけに課題が浮き彫りになった、原発の避難計画。
元日に震度7を観測した石川県志賀町にある、北陸電力・志賀原発。2011年から運転を停止しています。今回の地震で外部から電気を受ける機器の一部が被害を受けましたが北陸電力は「原子炉施設の安全確保に問題は生じていない」としました。
志賀原発で重大な事故が起きた場合、石川県の避難計画では地元の志賀町の一部や穴水町の住民は、能登半島北部に避難することになっています。
しかし・・・
■庭山記者
「志賀町でも特に被害の大きかった富来地区です。こちらの道路は片側が階段状に大きく陥没してしまっています。深いところでは2m近くの段差があるように見えます。」
志賀町の住民の避難先として指定されている能登町などに向かう多くの道路が通行止めに。
さらに、石川県内ではこれまでに7万7000棟以上の住宅被害が確認されています。原則、屋内退避とされている原発の5キロから30キロ圏内の住民に話を聞くと。
■志賀町住民
「もう避難しろって言っても無理やわね。それは徹底してやっていただきたいなと思います。
果たして屋内退避って言えども、もう潰れそうになっとるとこにそんなこともしてられんしね。」
「当初は私も原発があると町の発展になるんじゃないかと思ってたんですけど、今これだけ道が寸断されると、万が一、原発が福島のようになると心配やなっていうのは現実ですよね。」
原発事故が起きた時の避難所に指定されているの防災センターには地震発生時、最大で約300人が身を寄せたといいます。
■志賀町住民
「収容人数100人なんです。ここの地域に今住んでるのは、600~700人近くいるんですけれども、そうすると基本的な考え方は、ここへ来たら100人に絞って、動ける人をどんどん出す予定、本来バスが来て能登町へ送る予定。でも道路状況などでまずバスが来ない。だから能登町には行けないですね、今の状況見たら。」
一方、元日の柏崎市内では、地震の後、津波から避難する車で道路が渋滞していました。
■ 柏崎市民
「急に地震が起きたので、とりあえず高いところに逃げようとして、この峠の上に上がろうとしたんですけど、見ての通りすごい大渋滞で車が上がれないので、とりあえず近くの今駐車場に停めさせてもらって。普段は車の通り全くなくて、車が通らないような峠なんですけど今はもう大渋滞で…。」
さらに、避難先の候補地になっている上越市や糸魚川市につながる国道8号は地震による土砂崩れで通行止めになりました。
柏崎刈羽原発の地元は、これまで原発事故を想定した訓練を重ねてきましたが、能登半島地震をきっかけに不安が広がっています。
■地元住民
「今回の能登半島地震を見て、原子力災害を重ね合わせた時にこんな訓練を繰り返していて役に立つと本当に思ってやっているのか。」
「即時避難になれば、自力で避難しなければならない。避難道路の確保は絶対に必要。」
実効性の見えない避難計画に、自治体の防災担当者からも、不満の声が上がっています。
■燕市担当者
「例えば能登反応の状況をそのまま県内のPAZ・UPZにポンと乗せた場合、正月の1日~3日までの間にだれが動けたのかという話。今の避難計画通りに避難するのはまず不可能ということが証明された。」
■小千谷市担当者
「今回雪がなかったからよかったが、1mくらいの雪が積もっていたらと想像すると、おそらく屋内退避…避難所といわれているところもだめかもしれないですね。」
■新潟市担当者
「能登半島地震で新潟市も被害を受け、新潟市民が避難所に避難をしていた。複合災害の場合、UPZから避難する人を受け入れられないことが容易に想像できる。」
原発の5~30km圏内の屋内退避については自民党の重鎮県議からも疑問の声が。
■自民党 柄沢正三 県議
「皆が、5キロ圏内の人たちが自分の前の道路をどんどん車で逃げていく、あるいはバスで逃げていく。その光景を見れば、当然自分も危ないと考えるのは道理であって。逃げるな、屋内で一時待っていてくれと、これはちょっと乱暴すぎる。今現在の国の指針は不備がある。ずさんである。」
2月9日、原子力規制庁の片山啓 長官と面会した花角知事は、避難の在り方を検討するよう求めました。
■花角知事
「屋内退避の有効性や、現実的物理的に不可能な場合にどう対応するのか、現実を踏まえた避難の考え方、指針を議論すべきではないかと話をした。」
こうした声を受け、原子力規制委員会は”屋内退避”を示す指針の見直しについて、議論を始めています。
■原子力規制委員会 山中伸介委員長
「自然災害に対する防災、例えば避難所を作ってください、あるいは道路ができるだけ寸断しないようにしてください、あるいは家屋が多数倒壊した場合には近隣に避難所を設けてください、ということについては我々の範疇外なので(内閣府が担当)、ここについてはそれがしっかりと担保されたうえで、原子力防災に対する屋内退避について考えたい。」
今後、自治体や国、外部の専門家などで検討チームを立ち上げ、屋内退避の対象範囲や実施する期間、解除するタイミングや避難に移行する判断基準などについて議論し、来年度中に取りまとめる方針です。
■花角知事
「実際家屋が壊れてしまえば、屋内退避できないわけでありまして、いずれにしてもこの避難の課題、特に屋内退避などはですね、再稼働に関する議論の一つの材料だというふうに思ってますので、しっかり原子力規制委員会の動きを注視していきたいと思います。」