2024年2月7日水曜日

<連載 「約束」の今 東京電力と原発>上・中・下

 別掲の記事で原子力規制委が「原発の安全性」と「事故時避難の確実性」を守る防波堤になっていないことが明らかになりました。
 では電力会社はどうなのでしょうか。これまで東京電力は電力会社の雄として電力業界に君臨して来ましたが、福島原発事故を機にその「化けの皮」が剝がされました
 古い記事になりますが、東京新聞が掲題の連載記事を出していますので紹介します。
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<連載 「約束」の今 東京電力と原発>㊤
しどろもどろ…小早川智明・東京電力社長が答えあぐねたシンプルな質問 いつも「主体性」は言葉だけ
                         東京新聞 2023年12月21日
 「福島第1原発事故を起こした東京電力が、社会の皆さまから信頼してもらうことは簡単ではない。私が率先して説明責任を果たしていきたい」

 20日の原子力規制委員会の定例会合で、東電の小早川智明社長は手元の原稿を早口で読み上げた。時折体を揺すり、やじが飛ぶ傍聴席に目をやる。委員の質問を理解できずに違う事柄を話し始め、制止される場面も。「肝に銘じます」と委員の指摘を受け入れる返答が目立った。
  「テロ対策で東電は落第し、再試験を繰り返した。評定は『優』にはならない。『可』だ。合格ラインぎりぎりです」。伴信彦委員の指摘に、「その通りです」と力ない。約50分間の聴取で、小早川社長が小声になった場面が別にもある。
 杉山智之委員から「決意は世の中への約束か」と問われた時。言いよどみ手ぶりが増え、言葉はしどろもどろだった。「私は世の中への約束を委員会を通じてさせていただいている」

◆海洋放出の開始数時間前にようやく福島県漁連を訪問
 「説明責任を果たす」とは裏腹に、東電が「廃炉の大きな節目」と強調する福島第1原発での処理水の海洋放出の経過を振り返ると、会社として、社長としての主体性は全くなかった。

「柏崎刈羽原発を運転する事業者の責任として、福島第1原発の廃炉を主体的に取り組む」(柏崎刈羽原発の保安規定より)

 柏崎刈羽の再稼働に向け、2017年に福島第1の廃炉の完遂を宣言した東電にとって、海洋放出の実現は重要課題。反発する福島県漁業協同組合連合会と15年に交わした「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」との約束をどう果たすのかが焦点となった。
 政府が21年春に放出方針を決めると、小早川社長は「主体性を持って適切に取り組む」と述べた。しかし、漁業者たちに会いに行こうとすらしなかった。放出前の今年7月の時点でも「要望があれば会いに行く」と受け身の態度を続けた。
 県漁連を訪れたのは放出が始まった8月24日。開始の数時間前に決意を伝えたという。トップが自ら理解を求めることはなく、その日の記者会見では「政府が前面に立って一定の理解をいただいた」と、人ごとのように締めくくった。
 20日の聴取後、東電にとって主体性とはどういうことかと本紙がただすと、小早川社長は早口でまくしたてた。「海洋放出は総理大臣自らが意思決定すると言われ、われわれは実施主体としての役割を果たした

<連載 「約束」の今 東京電力と原発>全3回
 福島第1原発事故を起こした東電が、柏崎刈羽の再稼働に向けて自らに課した「約束」は守られているのかー。その現在地を見た。(渡辺聖子、小野沢健太が担当します)


<連載 「約束」の今 東京電力と原発>㊥
自民県議も「東京電力には原発を運転してほしくない」…「生まれ変わる」宣言に新潟が裏切られ続けた2年半
                         東京新聞 2023年12月22日
「トラブルをゼロにするのは極めて難しい。小さな問題を大きな問題につなげないことが重要だ」

◆「うみを出し切る」と社長は言い切ったはず
 テロ対策の不備で運転禁止が続く柏崎刈羽原発に、原子力規制委員会が調査に入った12月11日。柏崎刈羽の稲垣武之所長は、今も違反がなくならないことを報道陣から問われると、淡々と答えた。
 この「小さな問題」に、新潟県民の厳しい目が注がれている。
 運転禁止命令を受ける1カ月前の2021年3月、東京電力の小早川智明社長は新潟県庁を訪れ、花角英世知事や県議らに「うみを出し切り、生まれ変わるつもりで立て直したい」と約束した。しかし、侵入者対策用の照明を電源に接続しないまま放置したことをはじめ、不祥事はなくならない。ある自民党県議は「『信頼を回復する』と言ったのに、東電の体質は何も変わっていない」とあきれる。

「信頼回復を最優先事項に位置付け、これ以上信頼を損ねれば存続に関わるとの危機感を持ち、生まれ変わった姿を行動と実績で示す」 (運転禁止命令後に改定した東京電力の経営計画より)

◆賠償費用の捻出を大義名分に「再稼働」に突き進む

 柏崎刈羽の再稼働は東電にとって経営上の最重要課題とされている。福島第1原発事故の賠償と廃炉で、約16兆円とされた東電の負担額はさらに増える見通し22年末に政府が賠償指針を見直したほか、処理水の海洋放出での風評被害で新たな賠償が加わった。巨額の費用を捻出するため、東電は再稼働して利益を上げることが必要と主張する。
 この理屈に対し、県議会の反応は冷ややかだ。「廃炉は国が責任を持って費用を負担すればいい。柏崎刈羽には関係ない」。原発に賛成、反対の立場を超え、議員たちは東電の言い分に納得していない。
 再稼働への地元同意の是非を判断する新潟県は、議論に向けて材料をそろえつつある。前提としてきた福島第1原発事故の独自検証のとりまとめを今年9月に終わらせ、年度内に柏崎刈羽が県内にもたらす経済効果の試算を出す

◆運転同意をめぐって「出直し知事選」の観測も
 花角知事は5年前の初当選時から、同意の是非を決めた上で「県民の意思を確認する」と繰り返してきた。12月の県議会でも「信を問う方法が責任の取り方として最も明確で重い」と述べた。県議会内には早くも知事選の観測が流れる。

 一方で、東電に対する県民の信頼は地に落ち続け、原発を推進する立場の自民党会派内でも、有権者からの反発を気にして再稼働をおおっぴらに口にできる空気はしぼんだ。柏崎刈羽を東電から切り離し、代わりとなる別の事業主体を望む切実な声も聞こえてくる。
 ベテラン自民県議は再稼働は必要とした上で、3年ほど前に頭を下げに来た小早川社長に放ったのと同じ言葉を繰り返した。
 「東電には、柏崎刈羽を運転してほしくない

 東京電力柏崎刈羽原発 新潟県柏崎市と刈羽村の誘致を受けて建設。1985〜97年に計7基が営業運転を開始し、総出力は世界最大規模の821万2000キロワット。2007年の中越沖地震では、3号機の火災をはじめトラブルが相次いだ。21年以降、テロ対策の不備のほか、完了したはずの7号機の事故対策工事の未完了、タービン設備の配管損傷、不十分な溶接工事など不祥事が相次ぎ発覚した。

<連載 「約束」の今 東京電力と原発>全3回
 福島第1原発事故を起こした東電が、柏崎刈羽の再稼働に向けて自らに課した「約束」は守られているのかー。その現在地を見た。(渡辺聖子、小野沢健太が担当します)


<連載 「約束」の今 東京電力と原発>㊦
「下請け任せ」は企業文化なのか…作業のリスクを軽視し続ける東京電力が福島第1原発の廃炉に立ち向かう
                         東京新聞 2023年12月23日
 「言い訳がましい説明で納得できない。ことの重大さを理解しているのか」
 18日、東京電力福島第1原発の事故収束作業について議論する原子力規制委員会の検討会で、この会議の責任者を務める伴信彦委員は怒った。

 汚染水処理設備「多核種除去設備(ALPS)」で10月25日に起きた作業員の被ばく事故が議題だった。配管の洗浄中に仮設ホースが外れ、かっぱを着ていなかった作業員2人が廃液を浴び、一時入院。廃液のベータ線の放射能濃度は、原子炉建屋にたまる高濃度汚染水より100~1万倍も高かった
 東電は、下請けの東芝が契約内容を守らず、多数の違反行為があったと説明。東電社員は現場に行かずに実態を把握していなかったにもかかわらず、「(事前の)作業計画は不十分ではなかった」と主張し、東芝の責任を強調した。
 伴委員の指摘を受け、東電福島第1廃炉推進カンパニーの小野明・最高責任者は「東芝だけが悪いとは考えていない」と釈明に追われた。

「計画的にリスクの低減を図り、正確な情報発信を通じて理解を得ながら、福島第1原発の廃炉と復興を実現する」(柏崎刈羽原発の保安規定より)

◆遠隔で行っていた「はず」の汚染配管撤去作業
 高い放射線量下での作業のリスクを軽視する東電の姿勢は、これまでも繰り返されてきた。
 7月に完了した1、2号機間にある高濃度に汚染された配管の撤去作業は当初、すべて遠隔操作で行う計画だった。現場の放射線量が高く、人が容易に近づけなからだ。
 事前の模擬訓練での想定が甘かったため、撤去は難航した。昨年4月、切りかけの状態で切断できなくなった配管が脱落しないよう、ワイヤロープで固定する必要に迫られた。東電はその日、「遠隔操作で固定し、作業員は近づいていない」と本紙に説明した。
 しかし、翌日に訂正の連絡が入った。実際には下請け企業の作業員9人が現場でロープを固定し、被ばくしていた。広報担当者は「現場への確認が不十分だった」と釈明。計画外の複雑な固定作業は、遠隔操作では不可能だった。東電の認識の甘さが作業員の無用な被ばくを招き、現場の実態も分かっていなかった。
 トラブル対処に追われ、本来の事故収束作業に手が回らなくなる悪循環は、今もなくならない。事故から12年9カ月がたっても、廃炉に向けた核心部となる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しや、汚染水の発生ゼロへの明確な道筋はない。廃炉とはどのような状態なのかもあやふやなままだ。
 今月18日の規制委の検討会で、福島県大熊町商工会の蜂須賀礼子会長は不信感をあらわにした。「東電にはリスクに気づける力量があるのか」。基本的な疑問を投げかけられる東電が、柏崎刈羽の再稼働に向かうことになる。

 福島第1原発の廃炉計画 事故が起きた2011年時点の計画では、21年内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し開始と汚染水の発生ゼロを達成し、41〜51年に1〜4号機建屋を解体することになっていた。19年に改定した現行計画には、汚染水ゼロと建屋解体の目標自体がなくなった。2号機の試験的なデブリ取り出しも準備が難航。23年度内の開始目標は遅れる可能性がある。

<連載 「約束」の今 東京電力と原発>全3回
 福島第1原発事故を起こした東電が、柏崎刈羽の再稼働に向けて自らに課した「約束」は守られているのかー。その現在地を見た。(渡辺聖子、小野沢健太が担当しました)