2024年2月7日水曜日

能登半島地震が起きたら避難できない それでも規制委は災害指針を見直さない

 東京新聞が掲題の記事を出しました。
 能登半島地震では、道路や建物の損壊が激しく、避難や屋内退避をしようにも無理があることが明らかになりました。
 規制委の方針によれば、原発の重大事故時、原発5キロ圏内では避難発令で避難を開始し、5~30キロ圏内では避難路の混雑がなくなった後タイミングを見図らって避難するとなっています。しかし肝心の避難路は数十か所が道路の損壊やがけ崩れ等で通行不能になり、30キロ圏内では大々的に家屋が損壊し、とても屋内に退避は不可能でした。当然「津波」からの逃避は寸刻を争います。
 従ってこの方針は根本的に見直す必要が明らかになったのですが、何故か山中伸介委員長はこの指摘に対して「見直しを考えないと述べました。
 これは理解不能の発言で、昨年突然原発の寿命を60年超まで認めるという話が出た時も山中氏は「原発の寿命延長を制限する論には関与しない」という意味不明=理解不能な発言をして、結果として経産省の意向が実現する運びとなりました。
 原発の重大事故時に「住民が安全に避難できること」が原発の「深層防護」の最終目的であり、「避難の安全」は「深層防護」最終段階の「第5層」をなしています。
 これは決定的に重要であって、米国では「避難の確実性が保証できない」という理由で新規の原発がそのまま廃炉になった事例もあります。
 今回の能登半島地震は、「基準地震動の求め方が不正確」であり、十分な余裕を見るべきことと「家屋の損壊と避難道路の寸断」によって「避難が不可能」であることを明らかにしました。従って原発は現行よりも耐震性を大きくすべきことと、避難の確実性を見直すことが何よりも必要です。
 それにもかかわらす山中委員長の言動はそれとは真逆で、「規制委は原発の(再)稼働を困難にすることにはタッチしないし、原発の寿命を制限することにもタッチしない」ことを示しています。理解不能であり、まさに「規制委の正体見たり」です。
 規制委が経産省べったりで「原発の安全性や避難の確実性から逃げようとしている」以上、あとは国民がそれを正すしかありません。
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「今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」 それでも災害指針を見直さない、楽観論の背景にあるもの
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 能登半島地震では、原発防災の限界が鮮明になった。道路や建物の損壊が激しく、避難や屋内退避をしようにも無理があると突きつけられた。現実逃避するのが、原子力規制委員会。住民防護の基本方針を記す「原子力災害対策指針」を巡り、山中伸介委員長は「見直しを考えず」と述べた。これでは汚染が拡散した際、住民らが被ばくしかねない。思考停止を正す術(すべ)を探った。(西田直晃、安藤恭子)

◆「原発を動かすべきではない」要請書
 「地震と原発事故が複合すれば、お手上げの状態になるのは明らか。どうして指針を見直さないのか」
 「北陸電力と共に脱原発をすすめる株主の会」の中垣たか子さん(73)=金沢市=は憤りを隠さない。今回の惨状を考慮すれば原子力災害対策指針が定める屋内退避や避難は困難とし、1月末に原子力規制委員会宛てに「各地の原発を動かすべきではない」と求める要請書を提出した。
 中垣さんが問題視する指針は、原子力規制委が原子力災害対策特別措置法に基づいて策定する。事故の際に住民を防護するため、各自治体がつくる防災計画のよりどころになる。

◆陸海空の避難路は途絶、屋内避難も難しく
 指針によれば、原発に異変が生じた際には原則、原発5キロ圏の住民は避難となる一方、その外側は屋内退避でしのぎ、空間線量が一定水準に達したら避難に移行すると定める。
 ただ今回の被災地では道路網が寸断され、地盤の隆起や地割れで海路や空路も断たれた。建物の被害も著しく、石川県によると、5日時点の判明分で5万2000棟余りの住宅が損壊した。

◆「指針そのものの話ではない」と微修正どまり
 避難や屋内退避をしようにも無理がある現実。中垣さんは「能登半島地震を自然の警告と受け止める契機にするべきだ」と訴える。
 ところが、原子力規制委の山中伸介委員長は1月31日の会見で「原子力災害対策指針そのものを見直さないといけないとは考えていない」と語り、微修正にとどめる考えを表明した。
 一体、なぜなのか
 山中氏は1月17日の会見で「能登半島地震の状況を踏まえると、現在の原災指針で対応が不十分であったかというと、それはそうではない」と持論を展開。同31日の会見では「自然災害に対する防災については見直さなければいけないところはあろうかと思いますが、原災指針そのものの話ではない」と述べた。

◆見直せば原発を動かせなくなるからでは
 「自然災害による被害は守備範囲外」と言わんばかりだが、指針が今のままだと何が起こりうるのか。
 ジャーナリストの政野淳子氏は「原発事故が発生しても現地は対応しようがない。道路が寸断されれば逃げられないし、家屋が倒壊すればそのまま被ばくしてしまう」と危機感を募らせる。それでも国が指針を見直さない点について「本気で見直せば、各自治体は実現可能な防災計画をつくれず、原発を動かせなくなるからでは」とみる。
 不可解さは他にもある。
 山中委員長は微修正のポイントに「屋内退避の開始時期・期間」を挙げたが、この見直しを検討するのは、東北電力女川原発(宮城県)の周辺自治体から要望があったためだという。だが、山中氏は会見で「他の自治体など関係者の意見を聞くことはあるか」と質問されても「まずは規制委の中で議論して進め方を考える」との回答。自治体との意見交換を二の次にする姿勢が浮き彫りになった。

◆現実的な対策を求める首長の声も
 政野氏は「規制委は運用の改善レベルで体裁を繕おうとしている。被災地の現状があまりにも無視され、これほど、ばかばかしい話はない」と語気を強めた。
 物議を醸す原子力災害対策指針。その軸となる住民避難や屋内退避を巡り、自治体からは今回の地震後、現実に即した見直しが必要とする声が出始めている。
 北陸電力志賀原発が立地する石川県志賀町の稲岡健太郎町長は本紙の取材に、県などによる避難訓練に言及。「海にも空にも逃げられない」と述べた。
 東京電力柏崎刈羽原発を抱える新潟県の花角英世知事も1月24日の会見で家屋の倒壊を踏まえ、「物理的に屋内退避できない」と発言。「現実的な避難」に向けた議論を求めた。

◆国への追従姿勢が目立つ石川県
 原発被災を研究テーマとする茨城大の蓮井誠一郎教授(国際政治学)は「道路は寸断し、待機する自宅も放射能を防げるだけの気密性はない。今回の地震で安全な避難が成り立たないことが明らかになる中で、立地自治体が地域で得た知見を基に声を上げることは大切だ」と受け止める。
 指針の問題を可視化する自治体の声。国を動かす力にもなり得る。より重みを持つのが石川県の対応だ。志賀町同様、被災した原発立地自治体。注目度は高く、影響力も少なくない。
 ただ、谷本正憲前知事時代に起きた2011年の東日本大震災以降、国への追従姿勢が目立ち、後手に回った印象が否めない。
 「原発有事対応 鈍い石川『国検証待つ』」。11年6月、北陸中日新聞がそう報じた。他の立地府県が災害対応の見直しを始めたのに、県が「国が福島の事故の全容を把握していない」(谷本知事)などとして庁内の部会を開かない状況を問題視した。

◆空港や港が使えなくなる想定は「極端」と否定
 11年11月には国が防災対策の重点地域を原発の8〜10キロ圏から約30キロ圏に拡大することで合意した。広範な汚染に備えることになった一方、石川県内では能登半島北側にある奥能登の孤立化が懸念された。奥能登の大半は30キロ圏外だが、その内側が通行止めになった場合、陸路が遮断される恐れがあるとされた。
 ところが谷本知事は12年2月の会見で、放射能汚染の範囲について「30キロ圏外は危なくない」と自前の解釈を表明。奥能登への物資が途絶えた際の対応は「飛行機、船舶を使い、生活用品を投入すればいい。それだけのインフラを政府が持っている」と唱えた。冬場で天候が荒れ、空港や港が使えなくなるという想定の質問には「極端」として、想定ごと否定していた。
 「国任せの甘い見通しだった」。社民県連副代表で内灘町議の清水文雄氏はそう述べる。同町は志賀原発から南に約40キロ。今も余震が起きるたびに原発への不安がよぎる。「道路は寸断、自宅は倒壊、避難所は満杯。今の石川県で原発災害が起きたら避難できない

◆馳知事も安全対策の働きかけは乏しく
 22年の石川県知事選で初当選した馳浩氏も今のところ、原発の安全対策への言及は乏しい。県危機対策課の担当者は「災害対応を優先しており、知事が今後の原発災害や避難のあり方について、国に要請しようという動きにはなっていない」と説明する。
 とはいえ先の蓮井氏は「自治体は住民の生命財産を守る窓口」と述べ、代弁者として耳を傾け、国に働きかける重責があると説く。
 今は災害対応を優先しても、県が住民から情報を取りまとめ、国や原子力規制委に要望を上げる意思を発信するだけでも「原発への不安を和らげられる」。さらに「大きな犠牲を払って得られた地域の知見を今後の原発防災に生かせるよう、国も自治体も最大限に努めるべきだ」と訴える。

◆デスクメモ

 前知事の楽観論は理解に苦しむ。石川県政の担当時もそう感じた。懸念された奥能登の孤立は今回顕在化した。前知事の言うように空路や海路は十分に使えたか。7期28年の長期政権。耳の痛い言葉が届いたか。思考停止の代償は住民に及ぶ。現知事の馳氏はそう捉えて行動すべきだ。(榊)