2019年12月30日月曜日

30- 原発処理水の放出「福島県のみ」は認めない

論説 原発処理水の放出「本県のみ」は認めない
福島民報 2019/12/27
 東京電力福島第一原発事故に伴い発生する放射性物質トリチウムを含んだ処理水を巡り、政府の小委員会は海洋放出、大気への水蒸気放出の二つの方法を軸に、今後、処分方法を議論する方向だ。どの場所から処理水を放出するか-との協議は始まっていない。本県沖や本県上空が最初、あるいは本県のみが実施場所とされるのは、さらなる風評につながり、絶対に許されず、認められない

 八年九カ月前の事故以来、本県の農林水産、観光などのあらゆる産業が風評を受けた。県や市町村をはじめ、民間業者、生産者ら多くの団体と個人は、手を携えて風評を拭う努力を重ねてきた。
 その成果は徐々に表れている。最大五十四の国と地域が県産食品の輸入を規制してきたが、三十三カ所が解除した。県の発表によると、今年度の県産農産物の輸出量は十一月末現在で約二百三十二トンに上る。昨年度一年間の輸出量の約二百十八トンを既に超え、事故発生後の二〇一二(平成二十四)年度実績の百倍ほどに達した。その回復ぶりには心強さを感じる。県内への観光客の入り込み数は昨年、五千六百万人余りで、二〇一一年より二千百万人ほど増えた
 だが、風評が消えたわけではない。万が一、国内で初めて本県から放出されたら、被害を再び受ける。これまで払ってきた県民の努力が全て、打ち消されてしまう。
 県漁連は漁業に大きな打撃を与えるとして、海洋放出に反対の立場を取っている。海域と魚種を絞った試験操業がいまだに続き、本格的な再開にたどり着けない。風評の再燃は本県の漁業を壊滅させかねない。

 二十三日に開かれた政府小委員会の会合で、経済産業省は(1)海洋放出(2)水蒸気放出(3)海洋、水蒸気放出の併用-の三つを処分方法として取りまとめ案に盛り込んだ。
 取りまとめ案は「海洋放出は安定的に希釈拡散でき、放射線量の監視も確実に実施できる」と評価した。「水蒸気放出は炉心溶融事故を起こした米スリーマイルアイランド原発で実績がある」と利点を認めた。処分開始の時期や期間については、風評への影響などを踏まえて「政府が責任を持って決定すべき」と求めた。出席した委員から放出する場所に対する見解は示されなかった。
 政府が、それぞれの方法の安全性を強調するのならば、全国のどの場所から放出しても問題ないはずだ。ただし「福島で」の結論ありきで議論が進まないように政府に強く求める。(川原田秀樹)