櫻井ジャーナルが、東電などが最近になって主張し出したトリチウム汚染水の海洋放出(または大気放出)は、当初からの方針だったとする記事を出しました。
国や東電がトリチウム汚染水の処理の検討をずっと中断していて、昨年後半になってから急に言い出したのは、「もはや時間がなくそれしか方法がない」と言い出すタイミングを見計らっていたと考えれば辻褄が合います。
現在もトリチウム汚染水が日量150トンも発生しているため、22年に現在の保管基地容量の限度に達するというのが東電などの言い分ですが、それは本来は冷却水はクローズとシステムで増えない筈なのに、長い工事期間を費やして築造した凍土遮水壁が不完全で、地下水が原子炉建屋地下室に流入するのを阻止できないからです。
凍土式遮水壁に代えて新たにコンクリート製遮水壁を作りトリチウム汚染水の発生量をほぼゼロにすることが、汚染水問題の根本的な解決策です。
櫻井ジャーナルの記事には、汚染水問題以外の様々な情報が含まれています。
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東電福島第1原発の汚染水を海へ放出するのは事故直後からの方針だった可能性
櫻井ジャーナル 2019.12.25
安倍晋三政権は12月23日に東京電力福島第1原子力発電所が生み出す放射性物質トリチウム(三重水素)を含む汚染水に関する報告書案を公表した。名古屋大名誉教授の山本一良を委員長とする「有識者会議」なる集まりが出したのだという。
保管できる敷地が2022年末には限界達することから、薄めて海に放出するか、蒸発させて大気へ放出するか、ふたつを併用するかの3案を示したというが、希釈は「安全」や「科学」と同じように、水俣病の時にも使われた戯言だ。放射性物質の総量に変化はない。
しかし、原発事故の直後から官僚や電力会社は汚染水を海へ放出させる方針だったように見える。彼らは事故前から冷却水が循環しなくなった場合にどうなるかを正確にシミュレーションしていたようで、放出するしかないと最初から考えていた可能性が高い。
9月10日に原田義昭環境相兼原子力防災担当相は福島第1原発から出た汚染水を海に放流する必要があるかもしれないと述べている。それは既定の方針で、世間の反発を見るために環境相が口にしたのだろう。汚染水を保管しきれないことも確かだが。
原子炉内の状態は明確でないが、炉心が溶融してデブリ(溶融した炉心を含む塊)が落下していることは間違いないだろう。その一部が地中へ潜り込んでいる可能性もある。福島第1原発の周辺は水の豊かな場所である。その水がデブリを冷却、汚染水となり、補足されていないルートを通って海へ流れ出ていることも考えられる。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、イギリスのタイムズ紙はこの原発を廃炉するまでに必要な時間を200年だと推定していた。その推測も甘い方で、数百年はかかるだろうと考えるのが常識的な見方だ。廃炉作業が終了した後、10万年にわたって放射性廃棄物を保管する必要もある。日本政府は2051年、つまり34年後までに廃炉させるとしているが、そんな話を信じろという方が無理だ。
福島のケースでは炉心が飛散していないと言う人もいるが、事故の翌日、2011年3月12日には1号機で爆発があり、14日には3号機も爆発、15日には2号機で「異音」がり、4号機の建屋で大きな爆発音があった。そして建屋の外で燃料棒の破片が見つかるのだが、この破片についてNRC(原子力規制委員会)新炉局のゲイリー・ホラハン副局長は2011年7月28日に開かれた会合で語った。発見された破片は炉心にあった燃料棒のものだと推測できるとしている。マンチェスター大学や九州大学の科学者を含むチームは原子炉内から放出された粒子の中からウラニウムや他の放射性物質を検出した。
また、医療法人の徳洲会を創設した徳田虎雄の息子で衆議院議員だった徳田毅は事故の翌月、2011年4月17日に自身の「オフィシャルブログ」(現在は削除されている)で次のように書いていた:
「3月12日の1度目の水素爆発の際、2km離れた双葉町まで破片や小石が飛んできたという。そしてその爆発直後、原発の周辺から病院へ逃れてきた人々の放射線量を調べたところ、十数人の人が10万cpmを超えガイガーカウンターが振り切れていたという。それは衣服や乗用車に付着した放射性物質により二次被曝するほどの高い数値だ。」
飛散した放射性物質により、相当数の人が死んでいる可能性がある。事故当時に双葉町の町長だった井戸川克隆によると、心臓発作で死んだ多くの人を彼は知っているという。セシウムは筋肉に集まるようだが、心臓は筋肉の塊。福島には急死する人が沢山いて、その中には若い人も含まれているとも主張、東電の従業員も死んでいるとしている。
事故で環境中に放出された放射性物質の放出総量はチェルノブイリ原発事故の1割程度、後に約17%に相当すると発表されているが、その算出方法に問題があるとも指摘されている。
この計算の前提では、圧力抑制室(トーラス)の水で99%の放射性物質が除去されることになっているが、今回は水が沸騰していたはずで、放射性物質の除去は困難。トーラスへの爆発的な噴出で除去できないとする指摘もある。そもそも格納容器も破壊されていた。
原発の元技術者であるアーニー・ガンダーセンは少なくともチェルノブイリ原発事故で漏洩した量の2~5倍の放射性物質を福島第一原発は放出したと推測している(アーニー・ガンダーセン著『福島第一原発』集英社新書)が、10倍程度だと考えても非常識とは言えない。