東京電力福島第一原発の事故をめぐり、検察当局は9日、業務上過失致死傷などの疑いで告訴・告発された東電幹部や政府関係者ら42人全員を不起訴処分にしました。
東電は事故直後から予め準備されていたセリフであるかのように、「想定外の事故」を連呼しましたが、結局それがそのまま認められる形となりました。
それを受けて菅元首相は、「総理大臣として陣頭指揮に当たった。不起訴処分はこの事実を踏まえて下されたものであり、当然の結果だと受けとめている」という談話を発表しました。
一方告発した住民グループの代表を務める河合弘之弁護士は、「検察は強制捜査もせず、任意で提出された資料や学者の意見だけで判断したので不起訴になるのは当然で、名ばかり捜査としか言いようがない」と批判しました。
告訴・告発した被災者たちは、この処分を不服とし、検察審査会に審査を申し立てる方針です。
告発は、福島原発が水素爆発などを起こし、大量の放射能を撒き散らすに至ったことの責任を問うもので、確かにそれこそが最大の問題でした。
しかし事故後の対応の問題にしても、目下世界が注目している福島原発の放射能汚染水の海洋流出が、東電と政府には当初から予想され、識者からも警告されていたにもかかわらず、無責任に放置したために現在の惨状に至ったことが、つい最近明らかにされました。
まことに東電も政府も理解の埒外というほかはありません。
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原発事故の責任問わず 菅元首相ら全員不起訴
NHK NEWS WEB 2013年9月9日
東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡って告訴・告発されていた東京電力の旧経営陣や菅元総理大臣など40人余りについて、検察は刑事責任を問うことはできないと判断し、全員を不起訴にしました。
不起訴となったのは、法人としての東京電力と勝俣前会長や清水元社長ら旧経営陣、当時の原子力安全委員会の班目元委員長ら原発の規制当局幹部、それに政府の責任者だった菅元総理大臣など40人余りです。
検察は福島第一原発事故について、福島県の住民グループなどの告訴・告発を受け、刑事責任を問えるかどうか1年にわたって捜査を続けてきました。
その結果、事前に十分な津波対策が施されていなかったことについて、「専門家の間でも今回の規模の地震や津波は全く想定されておらず、具体的に津波の発生を予測するのは困難だった。東京電力は平成20年に高さ15メートルを超える津波の試算もしていたが、巨大津波の発生は1万年から10万年に1回程度と考えていて、直ちに津波の対策工事を実施しなかったことが社会的に許されない対応とまでは言えない」と結論づけました。
一方、菅元総理大臣は告発の中で、震災翌日に行った現地視察が事故の拡大を防ぐための作業を遅れさせたと指摘されましたが、検察は「作業の遅れは準備に時間がかかったためで、視察は何ら影響を与えなかった」と判断しました。
不起訴処分に対し告訴・告発したグループは納得できないとして、検察審査会に申し立てる方針で今後、刑事責任を問うかどうかの判断は検察審査会を構成する市民に委ねられることになります。
菅元首相「当然の結果」
民主党の菅元総理大臣は談話を発表し、「総理大臣として事故の拡大を防止し、住民の被害を軽減するため、陣頭指揮に当たった。不起訴処分はこの事実を踏まえて下されたものであり、当然の結果だと受けとめている。これで原発の問題が終わったわけではなく、今後もこの問題に取り組んでいく」としています。
そのうえで談話では、検察の事情聴取に応じなかったことについて、「行政府のすべての事務を所掌する総理大臣が告発された場合、その所掌事務に関して行政府の一員である検察官から取り調べを受けたり、事情を聴かれたりするのは相当でないと考えた」としています。
また、東京電力は「原発事故によって福島県民をはじめ多くの方々に大変なご迷惑とご心配をおかけしたことに改めて心からおわび申し上げます。
今回の不起訴については検察当局のご判断であり、当社としてはコメントを控えさせていただきます」としています。
告訴・告発のグループ「名ばかり捜査だ」
検察の不起訴処分を受けて東京電力の旧経営陣を告訴・告発していた福島県の住民グループが会見を開き、代表を務める河合弘之弁護士は、「検察は強制捜査もせず、どうやって捜査を工夫し、地元の人たちの悲しみを救うのかという前向きな考えが全くなかった。
任意で提出された資料や学者の意見だけで判断すれば不起訴になるのは当然で、名ばかり捜査としか言いようがない」と批判しました。
そのうえで、不起訴処分を不服として近く検察審査会に申し立てるとともに、福島県警に改めて刑事告発をする方針を明らかにし、「今も被ばくに苦しみ、怒りを体で感じている福島の市民や警察官に判断をしてもらいたい」と述べました。
検察のこれまでの捜査
東日本大震災から1年余りがたった去年6月、甚大な被害を招いた原発事故について、福島県の住民などが東京電力の旧経営陣らの刑事責任を問うよう求める告訴状や告発状を検察当局に提出しました。
この告訴団には、全国の1万4000人以上が加わりました。
さらに、別の団体からは、事故後の対応を巡って菅元総理大臣など政府責任者に対する告発も行われました。
これを受けて検察当局は、去年8月、捜査を開始。
しかし、検察にとって自然災害をきっかけに起きた深刻な原子力災害の捜査は初めてで難しいものとなりました。
事故原因の特定に欠かせない本格的な現場検証が高い放射線量に阻まれてできませんでした。
現地を指揮し、ことし7月、病気で亡くなった福島第一原発の吉田昌郎元所長からも体調不良のため話を聞けませんでした。
こうしたなか、検察は、東京電力の勝俣前会長や当時の原子力安全委員会の班目元委員長らの任意の事情聴取を重ね、捜査を進めていきました。
刑事責任を問うには、東日本大震災クラスの津波を現実的な危険として予測できていたことの証明が必要です。
このため、地震や津波の専門家からも幅広く意見を聞いて、当時の共通認識として、どれぐらいの規模の津波の対策が必要とされていたのか詰めていきました。
さらに、菅元総理大臣など当時の政府の責任者にも震災直後の対応について説明を求めました。
これに対し、菅元総理大臣から、先月、「対応に問題はなかった」とする意見書が提出され、検察は直接の事情聴取を見送りました。
告訴・告発されたうち、いくつかの容疑の時効が半年後に迫るなか、検察は、今後、検察審査会に申し立てられる可能性も考慮して、このタイミングで捜査を終結させ不起訴という結論を出しました。
検察の捜査のポイントと判断
(以下省略)