福島原発告訴団弁護団は10日、「何の津波対策もとらなかった東電幹部不起訴はあり得ない ― 検察庁による不起訴理由の公表を受けて ―」とする文書を発表しました。
それを読むと、東電は「津波に対しては、全く何ひとつの対策もとってこなかった」のであり、それを免罪した検察の判断が理解に苦しむ不当なものであることが分かります。
そして告訴団はこのような検察の不起訴に屈することなく、どこまでも闘い続けると結んでいます。
以下に全文を紹介します。
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2013年9月10日
何の津波対策もとらなかった東電幹部不起訴はあり得ない
― 検察庁による不起訴理由の公表を受けて ―
福島原発告訴団弁護団
1 不起訴処分
9月9日福島原発事故について、約14716人が東京電力役員・原子力安全委員会、保安院、・福島県健康管理アドバイザーらを相手取って、福島地検に対しておこなっていた告訴・告発について、事件を突如として東京地検に移送した上で、東京地検で不起訴とする処分がなされた。なお、告訴団は、政府関係者も多数告発しているが、菅首相ら政治家は一人として告訴していないことを明記しておく。検察当局による、福島県民が菅首相らを告訴しているという、不正確な報道へのミスリードには目に余るものがある。報道機関は正確な報道に心がけてもらいたい。
2 福島地検から東京地検への移送は違法
まず、これまで検察庁は我々に対して、告訴団の行った告訴・告発については福島地検で処分を行うことを繰り返し約束していた。8月26日にも、我々は、この方針を東京地検に確認している。このような約束に反し、事件を突然東京に移送して一括して東京地検で処分した理由は、我々の福島検察審査会への申立を妨害することを唯一の目的とするものと言わなければならない。
検察審査会制度は、「公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため」の制度である(同法1条)。福島で起きた災害について、等しく被害をうけた福島県民によって構成される検察審査会の民意によって不起訴処分の適否を判断してもらいたいという要望は、当然のものである。検察庁は、もしも自らの処分に自信があるなら、この不起訴の理由を福島検察審査会の場でこそ、説明すべきであった。
オリンピック報道の狭間を狙い、きちんと報道をさせない日程を狙ったとしか思えない、タイミングといい、検察庁の事件処理は、政治的であり、フェアなものといえない。
まさしく、検察庁の本件に対する捜査は、「名ばかり捜査・被告訴人への思いやり捜査・なれ合い捜査」であったといわざるを得ない。
このような、告訴人らの地元検察審査会への申立を妨害する意図に基づく事件移送は裁量権の逸脱であって違法であり、無効である。我々は、移送の違法性を根拠として、この事件の審査を事故によって被害を受けた福島県民の民意が反映できる福島検察審査会で審理すべきことを訴えていきたい。
3 不起訴理由
我々には、不起訴の理由について何の説明もなされていないが、報道機関に配布された文書によると東京電力関係の役員10名については、業務上過失致死傷、業務上過失激発物破裂については、嫌疑不十分とされた。
不起訴の判断のポイントは、
1) 地震調査研究推進本部による2002年段階での長期評価において、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて、明治三陸地震の規模の津波地震が発生する可能性があるとされた。しかし、この長期評価自体に予測を裏付けるデータが十分にないことに留意すべきと付記され、津波評価技術では福島県沖海溝沿いに津波地震を想定しないこととされていた。
2) また、東電が2008年に津波高さ15.7メートルと試算していた点についても、試算結果の数値どおりの津波の襲来を具体的に予見することが可能であったとは認められない。
4 甲状腺異常についての解明がなされていない
まず、福島県健康管理調査によると、甲状腺の細胞診の結果、悪性ないし悪性の疑いのある検査結果が、既に28例報告されている。甲状腺ガンの一般的な発生率をはるかに超えており、疫学的な因果関係を疑うべきだ。災害関連死だけでなく、甲状腺ガンについての因果関係を明確にすることは捜査機関の最低限の責任であった。このような捜査を遂げないままでの不起訴の強行には大きな疑問を感ずる。
5 想定を上回る津波は確実に予見できたが何の対策もとられていなかった
また、検察官の立脚する予見可能性の議論には次の疑問がある。15.7メートルの津波は2008年の段階で、東電内部の検討において確かに試算されていたものだ。この原発の想定津波高はわずか6メートルであった。
推本の長期評価は原発の安全性ではなく、一般防災の観点から出されたものであり、これを原発事故の安全性評価について考慮するべきことは当然であった。この地域でマグニチュード8.3程度の地震と高さ10メートル程度の津波が来ることは、地震と津波の専門家なら、2002年当時から、だれもが頷く普通の想定であった。
検察庁は、「東京電力は、OP+10メートルを上回る津波が襲来する確率は1万年から10万年に1回程度と試算されていた」などとする。この評価自体が過小評価であるが、原発の安全審査は「災害が万が一にも起こらないようにするため」(1992年伊方最高裁判決)に行われるものであり、発生確率10-5ないし6乗の確率で起きる災害には対応すべきことは、原子力安全の約束事である。この確率の災害の発生を考慮しなくて良いとする検察庁の判断は、東京電力の経済性優先・対策先送りの安全対策を免罪し、次なる重大事故発生を準備するものと批判しなければならない。
1万年に一度といえば、稀な現象と感ずるかもしれないが、原発の寿命は40-60年であり、国内に50基を超える厳罰が存在していることからすれば、1万年に一度の災害を是認してしまえば、寿命中に重大事故が起きる確率は4分の1である。
推本の評価が津波評価技術に取り入れられなかったのは、東京電力などの事業者が規制機関も虜にしていたからにほかならない。福島県沖海溝沿いに津波地震を想定しないという判断にこそ、何の科学的根拠もなかったのである。
そして、あらかじめ想定された6メートルを超える津波の確率は、相当高いものであった。東京電力は、このような想定に基く対策を先送りにし、何の対策もとっていなかった。対策を講じたが不十分だったわけではない。何の対策も講じなかったのである。これを免罪した検察官の処分を許すことはできない。
6 執ることのできた対策は多様なものであった
電源喪失を防止するための対策としては、防潮堤の設置だけでなく、外部電源の耐震性強化、送受設備の切替設備の設置、非常用ディーゼル発電機とバッテリーの分散と高所設置等、構内電源設備の耐震性,耐津波性の強化など多様な措置がありえた。
福島原発同様プレート境界地震が予測された浜岡原発においては、老朽化した1,2号機は耐震補強を断念し、2008年には廃炉の決定がなされていた。福島第1原発1-3号機についても、同様の措置は十分あり得たのである。東京電力自身が、原子力改革特別タスクフォースの報告において、結果を回避できた可能性を認めている。にもかかわらず、東京電力は一切何の対策もとらなかった。予測されたレベルの地震と津波対策を講じたにもかかわらず、それが不十分であったわけではない。
7 告訴団は不起訴に屈することなく、どこまでも闘い続ける
告訴団はこのような検察の不起訴に屈することなく、どこまでも闘い続けることを宣言している。この事件について新たな告訴・告発人が新しい告訴・告発を行うことは許されている。日本中から、新たな告訴・告発を準備する。また、検察審査会への申立も準備する。