2020年12月11日金曜日

11- 原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に (中)(東京新聞)

 東京新聞のシリーズ「原発つかむ民意 東海村版『自分ごと化会議』を前に」の中編です。
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原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に (中)
提案の行方 政策への反映、見えず
                          東京新聞 2020年12月9日

「最終的に提案書をまとめて市や県などに提出したが、それが政策に生かされたのか分からない」
「自分ごと化会議in松江」に参加した松江市の通訳ボランティア後藤展枝(のりえ)さん(41)は首をひねる。
 二〇一八年十一月から一九年二月まで計四回、後藤さんら二十六人が市内に立地する中国電力島根原発について議論した。再稼働の是非には触れず、「原発で市に経済効果があるのか、市民目線で考える」「事故時の被害シミュレーションや避難計画の周知を徹底する」など九項目からなる提案書を作成。松江市長や島根県知事、中国電、経済産業相に提出した。
 それまで原発に関しては市民との面会を避けていた松江市長との話し合いも実現した。しかし、後藤さんによると、提案書の提出から一年以上経過しても、各項目が政策に反映された形跡はないという。
 市政策企画課は、会議の目的が結論を出すことではなく、市民同士が話し合うことにあったとして「提案書は貴重な意見として参考にするが、一般的な提案書や報告書とは少し違うものと捉えている」と説明する。
 提案書には、市民が原発の情報に触れる機会を増やすことも盛り込まれているが、中国電の広報担当者は具体的な対応には言及せず、「提案書を踏まえ、分かりやすい説明や、説明の機会を増やすことを検討している」とだけ回答した。
 十九日にスタートする東海村版「自分ごと化会議」でも、提案書をまとめることが検討されている。
 後藤さんは「提案書を出した後が大事。市民が公共の利益について議論し、その成果物である提案書を何らかの形で生かすことが必要だ」と訴える。
 松江市の会議は全て公開され、延べ二百八十人が傍聴した。一、二回目で脱原発派のパネリストとして会議に出席し、傍聴者としても全ての回を見守った市民団体「さよなら島根原発ネットワーク」の土光均(どこうひとし)共同代表(66)は「一般住民が原発を考え、議論する場は意味があったと思うが、ひと言で言うと物足りなかった」と総括する。
 会議では、原発を稼働しなくても電気の供給力に余裕があることや、国が強調する「原発の低コスト」に対して疑問を投げ掛けた。だが、参加者からコスト面を問う意見は出なかった。
 土光さんは「私の問題提起に基づいた質問が出てくれば、中国電が答えて明らかになる可能性もあったので、そこを議論してほしかった」と残念がる。
 参加者は、自分たちの視点で原発を考え、意見を出し合ったものの、詳細な数字や正確な事実関係に即した議論はしづらかったのではないか−。土光さんはそんな見方を示した上で、「東海村の会議では、正しい情報に基づいた議論をしてほしい」と強調する。
 松江市の会議の教訓を読み取ると、議論の前提となる数字や事実を正確に参加者へ伝えるとともに、行政や電力会社が提案をどう原発政策に反映したかを検証する仕組みの整備が重要だ。東海村の会議を充実させる鍵はそこにある