東京新聞のシリーズ「原発つかむ民意 東海村版『自分ごと化会議』を前に」の下編です。
今回で終了です。
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<原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に>(下)
村長の狙い 行政主導に警戒感も
東京新聞 2020年12月10日
「参加者が、平等に安心して意見を言い合える場があるのは今までにないこと。原子力という話しづらかったテーマで、やる価値はある」
東海村の山田修村長は本紙のインタビューに応じ、十九日にスタートする「自分ごと化会議」の意義を強調した。
村内では、村に立地する日本原子力発電東海第二原発の再稼働を巡り、住民の間で賛否が分かれる状況が続いている。立地自治体は事故の影響を最も受けやすい一方、原発や原子力施設で働く人が多く、原発が地域経済に貢献しているとの思い込みがあるのか、村議会以外で再稼働問題を議論できる場はほとんどなかった。
そこで山田村長が目を付けたのが、政策シンクタンク「構想日本」(東京都)が提唱する「自分ごと化会議」だった。住民が身近な問題を「自分ごと」として話し合う手法だ。
中国電力島根原発を抱える松江市の自分ごと化会議を新聞記事で知ると、村職員を松江市に派遣したり、村で関連の講演会を企画したりと、住民主体の会議開催への機運が高まることを期待した。しかし、住民側からは手が挙がらず、結局、村の主催になった。
住民基本台帳から無作為抽出した村民千人のうち、趣旨に賛同した十九〜七十三歳の二十六人が会議に参加する。山田村長は「若い世代も含めて関心があるのは想定以上だった」と手応えを語る。
とはいえ、あくまでも村主導だ。住民による実行委員会が取り仕切った松江市の会議とは異なる。山田村長は原子力業界誌で、再稼働を容認すると受け取れる発言をした過去もある。当然、村内では早くも「村の考えに誘導していくのでは」と懸念する声が漏れるが、山田村長は、構想日本に運営を一任するとして「村が『こうしてほしい』という要望は一切しない」と言い切る。
村が東海第二の再稼働の是非を判断する際、村民の意向把握の方法が問題になる。山田村長は会議の意見について「判断には直結しない」と明言するものの、村議会では「住民の意向把握を構成する一つの材料として、会議を成功させたい」と答弁しており、真意は定かではない。その点、山田村長はインタビューで「全く参考にしないわけではないが、意向把握の一つとして取り上げるのは踏み込みすぎだと思っている」と説明した。やはり分かりにくい。
松江の会議では、参加者の意見は提案書にまとめられ、松江市長や島根県知事らに提出された。提案書では再稼働の是非には触れず、原発の経済効果の検証や事故対応の周知などを促したが、政策に反映されているとは言いがたい。
東海村の会議で提案書が作成された場合の扱いはどうするのか。山田村長は「まだ決めていないが、出てきた成果物に対しては、村としても責任がある」と何らかの形で活用する考えを示した。
再稼働に反対する阿部功志村議は会議にくぎを刺す。
「原発に関する村の経済や国のエネルギー政策が話題になると、推進派の論理になりやすい。意見が偏らないように運営してほしい」