2020年12月5日土曜日

大飯原発3・4号機 国の設置許可取り消す画期的判決 大阪地裁

 関西電力大飯原発3、4号機の耐震性を巡り、原子力規制委員会の判断は誤りだとして、福井県などの住民らが国に原子炉設置許可の取り消しを求めた訴訟の判決が4日、大阪地裁であり、森鍵一(もりかぎ・はじめ)裁判長は「審査すべき点を審査しておらず違法だ」として、国に設置許可の取り消しを命じました。
 極めて画期的な判決で、11年の東電福島第1原発の事故以降、原子力規制委による原発の設置許可を取り消す司法判断は初めてです(国は控訴する方向)。

 訴訟の主な争点は、関電が算出した耐震設計の前提となる基準地震動を基に設置を許可した規制委の判断が妥当かどうかでした。関電が算出した基準地震動は、過去の地震規模の平均値を用いていましたが、森鍵裁判長は、原告が主張するように「平均より大きい方向にバラつく可能性を考慮していない」と指摘し、関電の算出内容を容認した原子力規制委の判断について「数値を上乗せする必要があるかどうか検討していない。看過し難い過誤、欠落がある」として、審査を不十分だったとしました。
(多分、横軸に断層の長さなどをとり縦軸に地震動をとり、過去に実測されたデータで分布図を作り、最小二乗法によって求めた回帰線(近似曲線)から基準地震動を割り出したものと思われます。その回帰線は平均値そのものです。実際の分布図は当然ある幅でバラついているのでそれを加味しないということは本来あり得ないことです)

 NHKの記事は極めて長文のため一部を省略しました。全文は下記から原文にアクセスしてください。
    ⇒ 福井県の大飯原発3・4号機 国の設置許可取り消す判決 大阪地裁
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福井県の大飯原発3・4号機 国の設置許可取り消す判決 大阪地裁
                     NHK NEWS WEB 2020年12月4日
福井県にある大飯原子力発電所の3号機と4号機をめぐる裁判で、大阪地方裁判所は、国の原子力規制委員会の審査の過程に看過しがたい誤りや欠落があるとして、原発の設置許可を取り消す判決を言い渡しました。
福島第一原発事故を教訓にした新たな規制基準が設けられてから、原発の設置許可を取り消す司法判断は初めてです。
関西電力 大飯原子力発電所の3号機と4号機について、関西や福井県などに住むおよそ130人は「大地震への耐震性が不十分だ」と主張して訴えを起こし、設置を許可した原子力規制委員会の決定を取り消すよう求めていました
原発はその周辺で想定される最大規模の地震の揺れ、「基準地震動」を算出し、それに耐えられる設計になっていることが必要です。
裁判では、大飯原発の「基準地震動」を原子力規制委員会が福島第一原発事故を教訓に設けられた新しい規制基準に適合していると審査で判断したことの是非が争われていました。
4日の判決で大阪地方裁判所の森鍵一裁判長は、「審査のガイドラインには、基準地震動の設定にあたっては過去に起きた地震の規模の平均値より大きな規模の地震が起きることも想定し、そうした『ばらつき』を考慮する必要があると書かれている。しかし、原子力規制委員会は『ばらつき』を考慮する場合、平均値に何らかの上乗せをする必要があるかどうかすら検討していない。審査の過程には看過しがたい誤りや欠落があり、違法だ」という判断を示し、大飯原発3号機と4号機の設置許可を取り消しました。
この2基は現在、定期検査のため稼働を停止していて、判決の効力は国側が控訴すれば生じません。
しかし、福島第一原発事故のあと原発の設置許可を取り消した司法判断は初めてです。
万一、事故が起きると甚大な被害が出ることを踏まえ、審査に丁寧さが欠けていると指摘した4日の判決は、規制の在り方を大きく見直してきた国に対して厳しい判断を突きつけた形となりました。

原子力規制委「十分な理解得られなかった」
大阪地方裁判所が福井県にある大飯原子力発電所の設置を許可した、国の決定を取り消す判決を言い渡したことについて、原子力規制委員会は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったものと考えている。今後については関係省庁と協議の上、適切に対応して参りたい」とするコメントを出しました。

法廷内 どよめきと拍手
(省 略)
大阪地裁 正門前の支援者からは歓声
(中 略)
原告側で中心的に活動してきた冠木克彦弁護士は「全国の原発に大きな影響を与える判決だ」と話していました。
原告の一人、石地優さんは「主文を読み上げているとき、涙がこみ上げてきた。理屈抜きでうれしく感じた。今後につながる希望がある判決だ」と話していました。
関西電力「極めて遺憾、承服できない」
(省 略)
梶山経産相「判決内容を精査したうえで対応」
(省 略)
大飯町 中塚町長「住民が翻弄され憂慮」
(省 略)
おおい町などの住民は…
(省 略)
原発の「設置許可」
電力事業者は、国から原子炉の規制に関する法律に基づく「設置許可」を受けなければ、原子力発電所を運転することができません。
原発の安全性を確認する国の審査を受け、原発を設置しても問題ないと判断されると、設置許可が出されることになります。
この国の審査の時に用いられるのが規制基準です。
地震や津波といった自然災害や、核燃料が冷却できないような重大事故などへの、対策を取ることが定められています。
福島第一原発の事故のあと、規制基準はより厳しくなり、新しい知見を取り入れながら地震に対しても、原発周辺にある活断層の影響などをチェックしてきました。
この新しい基準に基づいて原子力規制委員会は、原発の再稼働を求める電力事業者の対策を評価し、問題がないと判断した場合には審査に合格、つまり設置を許可することになります。
大飯原発3号機と4号機は平成29年5月に審査に合格し、規制委員会から許可を得ていました。

最大の争点は「基準地震動」が十分な数値に設定されているのか
今回の裁判で問われたのは関西電力に対し、原子力発電所の設置を許可した、原子力規制委員会の決定の是非です。
原発は、その周辺で将来起こりうる最大規模の地震の揺れを、過去の地震データや地質構造などをもとに算出し、それに耐えられる設計になっていることが必要です
この想定の揺れは「基準地震動」と呼ばれ、数値は加速度の単位「ガル」で表されます。
関西電力は大飯原発の基準地震動を「856ガル」と設定し、この大きさの揺れへの耐震性を満たす施設にしているとしています。
原子力規制委員会は審査で数値の設定を妥当と評価し、安全性も確保されているとして、平成29年5月に3号機と4号機の設置を許可していました。
裁判では基準地震動が十分な数値に設定されているのかどうかが最大の争点になりました。
原告側は原子力規制委員会が福島第一原発事故のあと、みずから見直した審査のガイドラインに反していると主張していました。
注目したのが基準地震動に関し「ばらつきも考慮されている必要がある」と、新たに書き加えられたガイドラインの記述です
「ばらつき」とは過去に起きた地震の中には、その規模が基準地震動の算出に用いられる平均値に近いものだけではなく、大きくかい離したものがあることです。
原告側は「ばらつき」を反映させて計算すると、基準地震動は少なくとも「1150ガルになると主張しました。
これに対して国側は「ばらつき」をどう考慮するかについて、原告側の解釈には誤りがあると主張しました。
そのうえで「856ガル」は過去に起きた地震の規模や、断層の長さや幅、震源の深さなどをもとに、不確かな部分があることも踏まえて、より安全になるよう大きめに計算されているので妥当な数値だとしていました。

大飯原発の運転への影響は?
大飯原発3号機と4号機は、現在、定期検査のため運転を停止しています。
今回の判決は仮処分ではなく、国側が控訴すればすぐに効力が生じることはなく、直ちに原発の運転に影響がでる訳ではありません。(中 略)
原子力規制委員会は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったものと考えている。今後については関係省庁と協議の上、適切に対応して参りたい」とするコメントを出しました。

ほかの原発の影響は?
今回の判決が確定すれば、想定される地震の揺れ「基準地震動」は、ほかの原発でも見直しが求められる可能性があります。
例えば、福井県にある関西電力の美浜原発3号機は、大飯原発と同様の算出方法で基準地震動を導き出していて、住民側によりますと、基準地震動の算出に「ばらつき」を考慮すれば、現在の最大993ガルを上回って「1330ガル」になるということです。
また、基準地震動は、すべての原発で算出する必要があり、今回の判決が今後、各地で行われている原発をめぐる裁判に影響する可能性もあります。
佐賀県にある九州電力の玄海原発3号機と4号機をめぐり、住民が設置許可の取り消しなどを求めて起こした裁判でも、今回と同様に住民側は基準地震動の評価にばらつきを考慮すべきだと主張しています。この裁判は、来年3月12日に判決が出る見通しです。

関電の原発めぐる司法判断
関西電力が福井県に設置している大飯、高浜、美浜の3つの原発に対しては、平成23年の福島第一原発の事故以降、原発に反対する地元の住民などから、運転をしないよう求める訴えや仮処分の申し立てが相次ぎました。
その多くは退けられていますが、大飯と高浜については運転を認めない司法判断も出ています。
このうち大飯原発の3号機と4号機をめぐっては、平成26年5月に福井地方裁判所が「地震の揺れの想定が楽観的だ」と指摘して、当時、運転を停止していた原発の再稼働を認めない判決を言い渡しました
これは原発事故後に全国各地で起こされた裁判の中で最初の判決で、その結果が運転を認めないものだったことから、原発を推進してきた国や電力会社に衝撃が走りました。
ただ、仮処分ではないためすぐに効力が生じることなく、関西電力が控訴して行われた2審で平成30年7月、名古屋高等裁判所金沢支部が「原子力規制委員会の審査に不合理な点は認められない」と判断して、福井地裁の判決を取り消し、そのまま確定しました。
一方、高浜原発3号機と4号機をめぐっては、運転を停止していた平成27年4月に福井地方裁判所が「国の新しい規制基準は緩やかすぎて、原発の安全性は確保されていない」という判断を示し、再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。
その後、福井地裁の別の裁判長が決定を取り消したことから、翌年1月に、3号機が再稼働しました。
しかし、その2か月後、今度は大津地方裁判所が「事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として、運転停止を命じる仮処分の決定を出しました。
この決定により、3号機は運転中の原発で初めて司法の判断によって停止しました。
この決定は1年後の平成29年3月に大阪高等裁判所が取り消したため、3号機は4号機とともに再び運転を始め、高裁の判断も最高裁判所への抗告が行われなかったため、確定しました。
これらの裁判や仮処分はいずれも関西電力に運転をしないよう求めるものでしたが、今回の裁判は国が行った設置許可自体を取り消すよう求めるものでした。

原発訴訟 これまでの司法判断
原子力発電所をめぐる裁判で住民側の訴えが認められたケースは、これで9件目となり、設置許可を無効とする判決は、平成15年の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる判決以来、2件目です。
原子力発電所の運転停止や設置許可の取り消しを求める訴えは、昭和40年代後半から各地の裁判所に起こされましたが「具体的な危険があるとはいえない」などとして、退けられてきました。
平成15年に福井県の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる裁判で、名古屋高裁金沢支部が国の設置許可を無効とする判決を言い渡し、これが住民側の訴えを認めた初めての判決でしたが、最高裁で取り消されました。
平成18年には金沢地裁が石川県の志賀原発2号機の運転停止を命じる判決を言い渡しましたが、高裁で取り消されました
こうした中、平成23年に福島第一原発の事故が起き、改めて安全性を問う動きが広がり、住民側の訴えを認める司法判断が増えました。
平成26年に福井地裁が福井県の大飯原発3号機と4号機の運転停止を命じる判決を言い渡しましたが、2審で取り消されました
また、運転停止を命じる仮処分の決定も相次ぎ、福井県の高浜原発3号機と4号機では、平成27年に福井地裁、平成28年に大津地裁が2度、運転停止を命じました
関西電力は平成28年3月、大津地裁の1回目の決定が出た際に運転中だった3号機の原子炉を停止させ、司法の判断で運転中の原発が停止した初めてのケースとなりました。
運転停止の決定は高裁で取り消され、高浜原発3・4号機は再び運転を始めました。
また、愛媛県の伊方原発3号機では平成29年と、ことし1月に広島高裁が2度、運転停止を命じる決定を出しました
平成29年の決定はその後、取り消されましたが、ことし1月の決定については広島高裁の別の部で審理され、伊方原発3号機は運転できない状態が続いています。
原子力発電所をめぐる裁判で住民側の訴えが認められたケースは、これで9件目となり、設置許可を無効とする判決は、平成15年の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる判決以来で、2件目です。