2020年12月8日火曜日

【女川再稼働 むなしき同意】上・中・下 (河北新報)

  東北電力女川原発2号機の再稼働への地元同意は、政府から3月2日に要請を受けたのち、新型コロナウイルスの影響をものともせず、僅か8カ月半で決着しました

 同意は「既定路線」、とベテラン県議は語ります。
 脱原発をめざす県議の会佐々木功悦会長は「中立を装いながら反対意見を聴かず、知事が拙速に手続きを進めた罪は重い」憤ります。
 村井嘉浩宮城県知事が再稼働の前提となる「地元同意」に向け巧妙に立ち回ったのは事実です
 この問題を取り上げた河北新報は、「8カ月余の政治劇は幕を閉じ、たなざらしの課題が残った。むなしき『同意』を得て、女川2号機は22年度以降の再稼働へ向かう」とまとめました。
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【女川再稼働 むなしき同意】上・結論ありき、中立装い議論主導
                        河北新報 2020年12月04日
 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)を巡り、村井嘉浩宮城県知事が再稼働の前提となる「地元同意」を政府に伝達した。「原発は国策」を盾に自らはスタンスを明言しない一方、立地市町や県議会への根回しは周到に進め、東日本大震災で被災した原発の再稼働に道を開いた。東京電力福島第1原発事故から9年8カ月。影響が続く県内で加速した手続きを振り返り、置き去りにされた課題を検証する。(原子力問題取材班)
 「(再稼働の同意に)了承する旨、正式に回答する。苦渋の決断だった」。経済産業省で11月18日夕、梶山弘志経産相に文書を手渡した村井知事は、神妙な面持ちで語った。
 再稼働への賛否が割れる状況で下したゴーサイン。「民意がどこにあるかを見定めた」。会談後、村井知事は妥当性を強調した。
 政府から3月2日に要請を受け、新型コロナウイルスの影響をものともせず、8カ月半での決着。同意は「既定路線」(ベテラン県議)と言えた
 「判断に影響を与えてはいけないので、私の考えは明らかにしない」。知事は慎重な姿勢を見せる一方、県議会の答弁など重要局面では「原子力政策は国策」「電力の安定供給は重要」と再稼働の容認をにじませ、自ら流れをつくった
 融通無碍(むげ)な知事の対応を可能にしたのは、地元同意の曖昧な枠組みだ。国のエネルギー基本計画には「立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」との記載はあるが、法的根拠はない。
 県幹部は明かす。「知事の裁量に全て委ねられた」
 「市町村長や県議会の意見を聴く」「住民説明会を開く」。昨年12月2日の定例記者会見で、村井知事はモニターを使って同意までの進め方を説明。事実上の手続き開始を宣言した。
 知事が最重要視する県議会に対し、事務方の準備も抜かりなかった。
 「意思表明の方法は請願採択や決議、意見書があります」。担当者は最大会派の自民党・県民会議の面々に、福島第1原発事故後に再稼働した5原発9基の例を解説。9月定例会で賛成請願を採択し、再稼働を容認するヒントを提供した
 11月9日の県市町村長会議では、知事の我慢と押しの強さが前面に出た。全35人のうち20人が発言し、予定した倍の2時間を費やしたものの、知事は主導権を渡さなかった。
 最終盤。「女川町、石巻市の考えに理解を示したというのが『総意』でよろしいですか」と切り出し、挙手ではなく、拍手で決を採った。6人が見送ったが、知事と立地2市町長への一任を取り付けた
 結論のまとめ方を巡り、「賛成」「持ち越し」「一任」のシナリオがあった。関係者は「一任も、拍手も、知事が会場の雰囲気で決めた」と証言した。

 女川2号機の再稼働は安全対策工事が終わる2022年度以降で、時間はまだある。反対派の相沢清一美里町長は終了後、「熟慮を重ねてほしい」と訴えたが、知事は2日後、2市町長との3者協議で同意を正式決定した。
 「中立を装いながら反対意見を聴かず、拙速に手続きを進めた罪は重い」。脱原発をめざす県議の会の佐々木功悦会長は憤りを隠せない
 福島第1原発事故の爪痕が残る中で、再稼働の同意を認めた村井知事。11日の記者会見では「原発で事故があったから(再稼働が)駄目だとなれば、全ての乗り物、食べ物も否定することになる」と独自のリスク論を展開した。
 再稼働に反対する市民団体「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」の多々良哲世話人は「原発事故があった隣県の知事として見識を疑う。再稼働ありきで、民意を吸い上げた同意ではない」と批判する。


【女川再稼働 むなしき同意】中・避難路整備の道筋、決め手に
                         河北新報 2020年12月04日
 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に、宮城県議会が容認の意思を示す3日前の10月19日。小泉進次郎原子力防災担当相が立地する牡鹿半島を訪れた。
 重大事故時の対応拠点となる県女川オフサイトセンター、避難路を兼ねる県道の工事現場、空路避難用のヘリポートを視察。ハード、ソフト両面から対策の現状を駆け足で確認した。
 「経済産業省、国土交通省と連携し(課題の解決に向けて)汗をかきたい」
 須田善明女川町長、亀山紘石巻市長から避難路整備の要望を受けた小泉氏は、省庁の垣根を越えた支援に意欲を見せた
 県庁では村井嘉浩知事と会談し、避難路の財源として国の交付金メニュー活用の可能性に言及した。県幹部は「具体化はこれからだが、予算に触れただけでも前進」と手応えを語った。
 1週間前の12日には、平沢勝栄復興相が女川町を訪れた。須田町長らとの昼食時、避難路候補の国道398号石巻バイパスの未整備区間(4.7キロ)が話題に上った。事業費は200億円規模とされ、具体的なルートも定まっていない
 「もし何かあったら不安がある」。同席した町議会の佐藤良一議長は早期着工を直談判した。昨年10月の台風19号豪雨で石巻市中心部とをつなぐ国道398号が冠水し、町の大半が一時孤立した窮状に、平沢氏は耳を傾けた。

 翌日、復興庁側から町に道路の詳細を尋ねる電話が入った。町議の1人は「復興大臣は何人も来たが今回は違う。再稼働への意思が感じられた」と打ち明けた
 2大臣の来県は明確な政府の意思が込められていた。村井知事が再稼働を認める「地元同意」に向け、最大のヤマ場となった県議会9月定例会では、避難の実効性を疑問視する声が高まっていた。有力な解決策の一つを示唆し、同意を取り付けるレールを敷いた。
 村井知事は11月18日、梶山弘志経産相に同意を伝え、手続きが完了した。随行した鈴木秀人環境生活部長は複数の経産省幹部から「ご苦労さま」と言葉を掛けられ、「政府にとっても女川原発の再稼働は特別なのだろう」と受け止めた。
 東京電力福島第1原発事故後に再稼働した5原発9基は、全て「加圧水型炉」(PWR)。福島第1原発と同じ「沸騰水型炉」(BWR)は3原発4基が原子力規制委員会の審査に合格したが、地元同意は東日本大震災に耐えた女川2号機が初めてだった。
 現行のエネルギー基本計画は、2030年度に総発電量に占める原発の発電割合を30基程度の運転に相当する20~22%に据えたが、18年度時点で6%にとどまる。菅義偉首相は50年までの脱炭素社会の実現を掲げており、女川町の関係者は「BWRの再稼働の突破口を開きたい意向があったのではないか」と推し量る。
 村井知事が同意を表明した11日の3者協議後、須田町長は「防災対策の実効性を高めることが(再稼働の)前提となる」と強調。亀山市長も「道路整備は不安の解消につながる重要な課題だ」と訴えた。
 9年8カ月前の震災で、空前の被害に見舞われた立地2市町。国策という名の列車に乗り、再び原発と共存する道を走りだした。


【女川再稼働 むなしき同意】下・事故の影響消えず、対策に不安
                         河北新報 2020年12月04日
 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働を巡り、村井嘉浩知事が「地元同意」を国に伝えてから2日後の11月20日。原発事故による甲状腺被ばくを防ぐ「安定ヨウ素剤」の事前配布説明会が女川町役場であった。
 対象の住民156人に対し、参加は4人。ヨウ素剤の効果などの動画を視聴し、服用上の注意などの説明を受けた。服用の目安は被ばくの24時間前から直後まで。早すぎても遅くても効果が薄まるとされる。
 「事故が起きたら皆パニックになる。タイミングを逃さず服用できるだろうか」。女川原発の近くに住む会社員高橋芳(かおり)さん(52)が表情を曇らせる。
 事前配布は2016年度に始まった。原発5キロ圏の予防的防護措置区域(PAZ)と、PAZを通って避難する「準PAZ」の40歳未満の人や妊婦らが対象。配布率は女川町約7割、石巻市約4割とばらつく。
 ヨウ素剤は広域避難とともに被ばく対策の柱だが、東京電力福島第1原発事故では十分に活用されなかった。宮城県は立地2市町と30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る5市町を中心に計28カ所で丸剤約156万個、ゼリー剤約2万包を備蓄。事故時に一時集合場所や避難退域時検査場所で配る。
 混乱の中で適切に配布できるのか。未就学児を抱える女川町の30代女性は「非常時は保育園や薬局でも入手できるようにしてほしい」と訴える。
 再稼働を推進する国は、30キロ圏内への事前配布拡大や、新型コロナウイルスを考慮した郵送配布といった新たな方針を打ち出す。自治体は対応に追われる。
 登米市は9町域のうちUPZに入るのは津山、豊里の2町域。同じ市内が30キロ圏で線引きされ、緊急時の対応が分かれる難しさを抱える。南三陸町は「複合災害による道路の寸断などがあれば配布は難しくなる」(総務課)と懸念し、事前配布する方向で調整する。

 「福島の事故を胸に刻みエネルギー政策を進める。事故が起きたら事業者と国が責任を果たす」。資源エネルギー庁の担当者は10月、再稼働の是非を巡る県議会の審議で力説した。だが、災禍の代償は「責任」であがないきれないほど大きい。
 9年8カ月を経た今も約3万人が福島県外で避難生活を続ける。高線量の帰還困難区域は7市町村計約3万3700ヘクタールに及ぶ。原発敷地内には放射性物質トリチウムを含む処理水がたまり続け、海洋放出が現実味を帯びる
 「原発は古里を喪失するリスクをはらむ」
 元福島大学長の今野順夫(としお)さん(76)=福島市=は実感を込めて語る。元コープふくしま理事長として事故後、消費者の食事の放射性物質検査に携わるなど、原発が住民の安全、安心を脅かす現実と向き合ってきた。
 宮城県にも避難者2700人超が暮らす。福島県に接する丸森町では特産のタケノコの出荷制限が続く。福島第1原発から100キロ以上離れた色麻町は汚染牧草の処理に苦慮してきた。
 今野さんは女川町出身。岐路に立つ郷里の将来へ、警句を発する。「再稼働させるかどうかの判断は、慎重に慎重を期すべきだ」
 8カ月余の政治劇は幕を閉じ、たなざらしの課題が残った。むなしき「同意」を得て、女川2号機は22年度以降の再稼働へ向かう。