川内原発の周辺の火山で巨大噴火が起きた際の安全性が確保されていないとして、再稼働許可の取り消しを求めた訴訟に対して福岡地裁は17日、「火砕流の発生の可能性が相応の根拠を持って示されないかぎり、対策を講じないことが社会的に認められている」という判断を示しました。
要するに「発生しないとは言い切れないが発生する確率は極めて低いから」というもので、福島原発が「大津波の発生確率は低い」という見込みの下で対策を講じなかったことに通じるものです。
神戸新聞は「安全最優先に程遠い判決」だと断じました。
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(社説)川内原発訴訟/安全最優先に程遠い判決
神戸新聞 2019/06/19
火山リスクの検討が不十分として住民らが九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の設置許可取り消しを国に求めた裁判で、福岡地裁は請求を退けた。
半径160キロ圏に阿蘇など五つの火山カルデラがある。原告らが恐れるのは1万年に1度起こるとされる巨大噴火だ。火砕流や火山灰が広範囲に到達し、壊滅状態をもたらす。
「火山ガイド」と呼ばれる原子力規制委員会の審査基準は噴火が予測できるとの前提に立っている。これに疑問を抱く住民側に対し、判決もガイド自体に「疑いが残る」と認めた。ただ、発生可能性が極めて低い巨大噴火の影響を考えることまでは求められていないとした。
安全最優先の考え方には程遠い判断と言わざるを得ない。可能性はまれでも甚大な被害が見込まれる以上、備えが必要ではないか。想定を超えた大津波が未曽有の災害を引き起こした福島原発事故の反省に立ち返らねばならない。
火山リスクについての司法判断は分かれている。2年前には広島高裁が、阿蘇の巨大噴火で火砕流が到達する恐れがあるとして、海を隔てた四国電力伊方原発の再稼働を差し止めた。しかし昨年9月の異議審は、これを取り消した。
火山ガイドは、数十年の原発稼働中に巨大噴火の可能性が「十分小さい」と評価できなければ廃炉を迫る。国内の巨大噴火は7300年前を最後に途絶えており、いつ起きても不思議はないと考えれば差し止めの判断は当然だろう。
逆に数十年のうちに巨大噴火が起こり得る明確な根拠がなければ運転可能、との解釈も成り立つ。噴火予測は困難とされる中、司法判断が現状追認に傾きがちな背景となっている。
規制委は鹿児島湾内の海底火山の常時観測を2021年度にも始める。最新の知見を自ら取り入れて、より厳密な審査基準を練り上げるべきだ。
地震や津波に比べ、巨大噴火への備えは後れを取っている。世界有数の火山国に、廃炉作業中も含め50基を超す原発が立ち並ぶ。そうした現状をいつまで放置するのか、社会全体で考える必要がある。