23日の茨城県議会は東海第二原発の再稼働の賛否を問う県民投票条例案を否決しました。
大井川和彦知事は、県議会に条例案を提出する際に添付した意見書では、条例案への賛否を明らかにせず、その後の審議でも「県議会の判断を見守る」と中立を貫きました。
自民からは批判の声が上がりましたが、知事は意見書以上のことには口をつぐみました。
毎回の世論調査等から県民投票に掛ければ再稼働出来ないという結果になることは知事も自民党も良く知っていました。
知事としては次回の再選出馬に当たって県民投票に消極的な自民の支援を得るには、条例案に「賛成」とは言いにくいし、「反対」を打ち出して世論を刺激したくもない訳です。その点は条例反対の県議たちも同様で、出来れば民意に反する「否決」の責任を取りたくない訳です。ただその程度の苦衷は民意に反する議決をする以上味わうべきです。
否決までに何があったのか、県民投票以外に住民の意向を確認する方法はあるのか。三回にわたって東京新聞が報告します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(上)
民意恐れた知事と自民
東京新聞 2020年6月24日
「挙手少数。よって本件は否決されました」。二十三日の県議会本会議。東海第二原発の再稼働の賛否を問う県民投票条例案の採決結果を森田悦男議長が告げても、過半数を占めるいばらき自民の議員席は静かだった。大井川和彦知事も表情を殺したままだった。
知事が「いばらき原発県民投票の会」から条例制定の直接請求を受けたのは五月二十五日。会の共同代表三人を知事応接室に招き入れ、「八万六千七百三筆」の重みに敬意を払った。
だが、六月八日開会の県議会に条例案を提出する際に添付した意見書では、条例案への賛否を明らかにしなかった。その後の審議でも「県議会の判断を見守る」と中立を貫いた。
こうした知事の姿勢は、かなり異例だ。地方自治法は意見書の添付のみを義務付けているが、逐条解説書は「賛否の意見」でなければ意見を付けたことにならないとする。過去に同様の条例案が提出された四都県の知事意見書は、「賛成」「反対」と明記したか、少なくとも賛否を読み取れる内容だった。
自民からは批判の声が上がった。常井洋治氏(笠間市)は十一日の議会運営委員会で「議会は何を尺度に審議すればいいのか。非常に戸惑っている」と苦言を呈し、賛否を示すべきだと要求。だが、知事は意見書以上のことには口をつぐんだ。
知事が賛成も反対も明確にできなかった背景は何か。
仮に知事が県民投票に賛成すれば、自民も反対しにくくなる。投票が実施されれば、再稼働反対の民意が鮮明になる可能性が高い。
過去の各種調査では、再稼働反対が強く出る傾向がある。
再稼働の際に同意を求められる那珂市の一六年度の住民意識調査では、反対が圧倒的多数。一七年の知事選で共同通信が実施した電話調査は、反対が賛成を大幅に上回った。今年一月の東海村議選の際に本紙が期日前投票所で百五十人に聞き取りした結果も、反対派が優勢だった。
知事も、再稼働に前向きな自民も、こうした風を感じていないはずはない。自民の白田信夫氏(桜川市)は、十八日の防災環境産業委員会が条例案を否決した後、来夏の知事選を念頭に「この時期に(再稼働の)賛否を取ってはまずい」と本音を漏らした。
一方、知事は従来、県民投票自体を頭ごなしには否定してこなかった。初当選した二〇一七年の知事選では、「直接の意思表明の機会を与えてもいい。住民投票も一つのアイデアだ」と発言している。だが、知事選での再選出馬に当たって県民投票に消極的な自民の支援を得るには、「賛成」とは言いにくい。かといって、「反対」を打ち出して世論を刺激したくもない。
東海第二の事故対策工事が完了するのは、現時点で二二年十二月の予定。知事選以前に知事が再稼働に同意するかどうかの判断を迫られることは、ほぼないだろう。知事にとっては、県民投票に一定の理解を示す体裁を取りつつ、判断は「県議会に丸投げ」(共産の山中泰子氏=つくば市)してやり過ごすのが最善の策だったわけだ。
原発再稼働の支障になりかねない県民投票を、知事のお墨付きで葬る目算が外れた自民は、署名の重みを強調しながらも「否決」に向かって粛々と議事日程をこなした。
× ×
県民投票条例案は二十三日の県議会で否決され、再稼働の賛否について県民が直接意思表示する機会は失われた。否決までに何があったのか、県民投票以外に住民の意向を確認する方法はあるのか。三回にわたって報告する。