2020年6月28日日曜日

28- 新型コロナウイルス感染拡大中の今、原子力発電所の即時運転停止を求める

 日本科学者会議幹事会日本科学者会議原子力問題研究委員会は、423日、「新型コロナウイルス感染拡大中の今、原子力発電所の即時運転停止を求める」とする声明を出しました。
 遅くなりましたが紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【声明】
新型コロナウイルス感染拡大中の今、原子力発電所の即時運転停止を求める 

新型コロナウイルスとのたたかいは全人類的な課題 
 日本では新型コロナウイルス感染拡大を食い止めることができず 4 月 16 日に全国に緊急事態宣言が だされた。4 月 23 日現在、懸命な医療従事者達の尽力にもかかわらず感染者 11,919 人、死者 287 人を 出した注1)。今や、感染爆発、医療崩壊の危機に総力を挙げた対応が求められている。いうまでもなく、 日本にとどまらず、アメリカやヨーロッパを含む 180 を超える国で感染が急速に拡大している。世界の 感染症専門家達、医療従事者達、製薬研究者達の奮闘が続けられてはいるが、今なお、新型ウイルス「災 害」を制圧・収束する見通しは立っていない。世界では累計感染者数 258 万人超、死者数 18 万 2 千人 に及ぼうとしており(4 月 23 日現在注1))、この新型コロナウイルスとのたたかいは全人類的な課題と なり国際的な連携も強く求められている。 

感染拡大の中での自然災害避難は万全か 
 さて、濃厚接触による感染を未然防止するために、もっか「3密」(密閉、密集、密接)を回避する ことが求められている。「新型コロナ感染拡大の中での災害避難 75%が‘行動に影響’」(防災専門家 のアンケート結果)注2)によると新型コロナウイルス感染拡大の中で自然災害が発生した時、避難所へ の行動に大きな影響が出ると報道されている。頻繁に起きている洪水、震災等自然災害時の避難所の多 くは「3密」である。今後はこの問題を視野に入れた万全の自然災害対策が求められる。 

感染拡大の中での原発事故の危険性
 原子力施設がひとたび事故を起こせば、放射性物質の防護のために屋内退避が不可欠で、「密室」 をつくらなければならない。社会的距離(または身体的距離)を確保しなければならない新型コロナ ウイルス対応とは相反する条件となる。原発事故からの避難が極めて困難であることは、福島第一原 発事故で浮き彫りになった。ましてや、コロナ禍のもとでの原発事故からの避難となると、仮に避難 できたとしても、避難場所そのもので感染爆発、修羅場となりかねない。また、当然ながら正常な運 転の阻害要因に直結するとともに、原発を直接支える100~200社を超える地元の工事会社・技術支援 会社(計1,000~3,000人超)の一つにでもクラスターが起きれば原発の操業に大きな影響を与えること になる。高浜原発を例にとると「重大事故時の発電所の緊急時対応体制」として、関西電力が初動対 応要員(常駐)70人、緊急安全対策要員48人、地元工事会社の支援要員110人、技術支援会社:炉心・ 安全評価支援、放射線測定等40人を想定している3)」が、先ごろ発生した「玄海原発のテロ対策施設 ‘特定重大事故対処施設’(特重施設)の工事では4月14日、請負業者・大林組の50代男性社員の感染 が判明、17日には同じ事務所に勤務していた40代男性社員も感染が確認された。九電や大林組、関連 会社の社員ら合わせて約510人が一時自宅待機注4)」と膨大な人数の作業員が自宅待機を迫られた。こ れは原発内ではなかったというが、閉鎖空間で働かなければならない上述の緊急安全対策要員の総勢2 68人を軽く飲み込んでしまい、機能不全に陥る危険性を孕んでいる。原発内では、原子炉運転員、巡 視点検員、設備メンテナンス員・保守点検員、放射線管理業務員、警備員等が昼夜を分かたず作業に 取り組んでおり、感染が発生すれば勤務体制がたちどころに崩壊し、クラスターが発生する。原発従 業員の減少傾向注5)の中で熟練した従業員の補充は困難な状況にあり注6)。医療崩壊ならぬ緊急時対応 体制ばかりか「安全運転体制」の崩壊につながりかねない。 
稼働中の原発の即時運転停止を求める 
 日本科学者会議は脱原発を掲げているが、新興感染症の危機にある今、喫緊の対応として、現にある 原子力発電所についてはリスク対策とともに、そのリスク対策にあたる要員の感染対策や、感染症が発症した場合の対策がいかに立てられているのかを明らかにすることを求める。
 加えて、感染対応を含む リスクコミュニケーションの確立を周辺住民や関連企業群等々との間で早急に進めることを求める。 
 日本科学者会議は、このような緊急事態であるがゆえに、原子力発電施設に内在する上記の破局的な リスクが「万が一にも」発生しないために以下のことを求める。
 ・電力会社および政府が、正確かつ安全側に余裕のある、予防的観点からのリスクアセスメントに基 づいて、その危険が顕在化しないためのリスクマネジメントを実施すること。
 ・いったん危険事象が発生した場合には、その危険事象が「絶対に」外部に漏出しない対策をとるこ と。
 ・そしてその対策状況を、周辺住民等にも時々刻々と正確に情報提供すること。
 ・したがって、最低でも運転中の原発 6 基(関西電力 3 基、九州電力 3 基)の運転の停止を求める。 私たちは、人類と社会への責任を果たすことを願う科学者組織として、このことに重大な懸念を表明 し、緊急の対策を政府と関係機関に求めるとともに、広く社会に訴える 
2020 年 4 月 23 日 
日本科学者会議幹事会 
日本科学者会議原子力問題研究委員会 

注1)厚労省 HP「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」(2020 年 4 月 23 日)日本の検査数が少ないこと、国によって感染者の定義もことなっていることに留意しておきた い。 
注2) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200418/k10012394431000.html(2020 年 4 月 18 日 17 時 22 分) 
注 3)「原子力技術・人材の維持について」電気事業連合会、2018 年 3 月 6 日 
注4)佐賀新聞 Live  https://www.saga-s.co.jp/articles/-/515233 
注5)「原子力発電に係る産業動向調査 2019 年報告書」一般社団法人 日本原子力産業協会、2019 年 11 月