追記 武田教授のブログは公開日でなくて、執筆日を末尾に記載していますので、混乱しないようにこのシリーズはそれで統一します。
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被曝と健康17(臨時) 1年1ミリは「法令」か?-2
武田邦彦 2013年11月2日
日本はICRPの勧告に基づいて、1年8000人の犠牲者まで我慢しようということになった。それが1年1ミリという一般人の基準となった。それではそれを「法令」にして具体的に日本人を被曝から守らなければならない。
【第三ステップ】 「1年8000人の犠牲者」の法令化
国の委員会で「1年8000人まで我慢する」と決まったら、次にそれを実現するための法令づくりに入る。まず、法令を作るにあたって大臣などが「1年1ミリを限度とすることで法令原案を作れ」、「告示で1年1ミリと決める」ということが行われる。
たとえば通産大臣が発電用原子炉や研究開発段階にある原子炉などについて、実効線量当量(外部被ばく+内部被ばく)の限度を1年1ミリとすることを決めて法令の原案の作成を委員会などに依頼する。
法令に1年1ミリと書いてある場合もある。たとえば、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」というものの第三条に「線量限度」として「実効線量については、一年間(四月一日を始期とする一年間をいう。以下同じ。)につき一ミリシーベルト」となっている。
でも、これは「規制値」とは言いにくい。つまり「シーベルト」という単位は、線量率(グレイ)や放射線物質量(ベクレル(正しくは崩壊数))と違って、人体に影響する量を示すものだから、実用炉の規制をするなら、グレイかベクレルで表示することになるが、この規定はそれを最終的に達成する「限度」を「シーベルト」という人体と影響のある数値で管理することを宣言し、それが1年1ミリにするとしたということだ。
このぐらい専門的なことになると、一般人で誤解している人もいるけれど、グレイ、ベクレル、シーベルトなどの違いや、「日本人はいろいろな場面で被曝する」という原理原則をよく知らない人はあまり他人に意見などを言わないほうがよいだろう。
【ステップ4】
最終的に「日本国民を被曝から守る」という法令ができる。原発が世界3番目に多く、放射線の利用が進んでいる日本で「日本国民を被曝から守るという法令がない」ということは、ありえないし、もし無ければ恥ずかしいことだ。
自動車を走らせるためには道路交通法を整備し、食品を流通させるためには多くの法整備を行って国民の健康を守るのが政府がある意味の一つだから、原発や放射線利用を進めて被曝の法整備を行っていないなどということはあり得ない。
ただ、このブログの最後に整理するが「質問の仕方」によっては、政府は民主党政権時代のミスを小さくするためのあらゆる努力をして、国民の被曝を減らそうとする意図はないと考えられる。この点はテクニックにあたることである。
さて、「一般公衆1年1ミリ」という限度が決まると、具体的な数値が決まってくる。この段階では1年1ミリはすでに出てこない。1年1ミリというのはある被曝が人体に影響する程度だから、1年1ミリと決めても法令としては実効性がない。つまり、原発や放射線を扱う人が「一般公衆に1年1ミリ以下の被曝にするように」と言われても、具体的な機械設計や運転基準を作ることはできないからである。
つまり、「1年1ミリにしろ」といっても、日本列島から遠い無人のところで放射線を扱う場合と、東京の中とか、原発が数ケ並んでいるところなど、様々だから、「国民はどのような状態で被曝するか」ということが決まらなければならず、それは「個別の原発や放射線を取り扱う当事者」にはわからないからだ。
そこで、法令には1年1ミリは記載されておらず、「1年1ミリにするための具体的で、実施者が守れるもの、そして違反すれば罰することができる基準」を示すことになる。一例として、放射性元素ごとに決まっている取扱い限度の表の一部を示した。
この表で元素ごとの取り扱い限度量が定められ、物品の表面汚染の限度が決めるためには「一般公衆の被ばく限度が決まっていること」が前提であり、さらに「被ばく限度は我慢できる限界が決まっていること」と「国際的な合意に近いこと」が前提になる。だから、たとえば「表面の汚染限度はなぜ4ベクレルと決まっているのですか?」と専門家でも役人でも聞けば「1年1ミリという限度が決まっているからです」と答える。
ただ、法令は「守るべきもの」が具体的に書かれているもので、それを決めるための国の基準が書いてある場合もあるし、書いていない場合も多い。それはいわば法の精神や説明になるからだ。法令は「これを違反すると罰せられる」という行為の限度を決めているので、なぜ限度が定められているかというのは法令の決まっていく過程を知らなければならない。
あまりに当り前なのでいうのも恥ずかしいが、車を運転する人に「交通事故**万件になるように運転しろ」といっても、どう運転してよいかわからない。だから、道路状況などから「時速何キロまで」や「車検は2年とか3年に一度」と決まっているのであり、法令で「表示される数値は、その法令の適応を受けるものが管理できること」に限定される。
自分が好む目的のためにウソでもなんでもいうということなら、食材偽装でも、詐欺でもオールOKとなる。法令を定める役目を負う自民党の議員さん、原発を再開したいということはわかるけれど、法令も守らなければなりません。しっかりしてください。