2019年2月1日金曜日

小泉元首相に聞く 原発「平成で終わりに」

 神奈川新聞がインタビュー記事「小泉元首相に聞く(上)(中)(下)」を掲載しました。残念ながら公開部分は(中)の途中までです。
 取り敢えず公開部分を紹介します。いつもながら明快な語り口です。
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小泉元首相に聞く(上) 原発「平成で終わりに」
神奈川新聞 2019年1月31日
 小泉純一郎元首相が神奈川新聞の取材に応じた。「原発ゼロ」を中心に、テーマは野党再編を巡る政治情勢から、首相在任中の郵政民営化や北朝鮮による日本人拉致問題、平成の次の時代の政治への期待にまで及んだ。
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 -福島第1原発の事故後、原発ゼロの実現を訴えています。
 「東日本大震災と福島原発のメルトダウンの状況を連日テレビや新聞の報道で見ていた。安全と思われていた原発があのような大事故を起こしてしまった。おかしいと思っていろいろな本を読み始めた。そうしたら、原発は絶対安全、ほかの電源に比べてコストは安い、二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンエネルギー、という経産省や原発推進論者が言う3大大義名分が全部うそだと分かった」
 
 -講演活動に取り組むようになったのは。
 「もう引退して、黙っていようかとも思ったんだけど、自分が悔しかった。こんなうそをどうして俺は信じちゃったのかな、と。『過ちを改めざる、これを過ちという。過ちを改むるにはばかることなかれ』。この言葉を思い出して、反省を込めて、国民に分かってもらわなければいけないという思いで講演活動を始めた」
 
 -処分場の問題もある。
 「核のごみの捨て場所がない。産業廃棄物なら、処理する会社は処分場を自社で確保しない限り、都道府県知事は会社に許可を出さない。ところが、原発の廃棄物は産業廃棄物よりもはるかに有害なのに処分場一つない。それなのに認めるのはおかしいじゃないか。(原発の)ごみは(再稼働で)どんどん増えているのに、いまだに捨てる場所がない。しかも廃棄物は10万年にわたって管理をしなければいけない。OKする自治体なんてないよ」
 「電力の安定供給という点でも、原発がなくても困らない。事故前は54基あったうち、40基ほど稼働し、30%程度の電源を供給していた。しかし、2013年から15年の2年間は原発ゼロ。にもかかわらず、北海道から鹿児島まで、原発がなくて一日も停電しなかった。原発がなくてもやっていけると証明しちゃった」
 
 -代替として自然エネルギーへの期待は。
 「事故前は(出力が)不安定な自然エネルギーは主要電源にならないと原発推進論者は言っていた。しかし、現実には国民の協力や企業の知恵が出てきて普及が進み、(2016年時点で国内の発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率は)約15%になった。省エネも進んでいる。資源がないと言われていた日本だが、太陽も風も水力もある。資源はいっぱいある
 
 -九州では再生可能エネルギーの普及に加えて原発4基の再稼働で電力供給力が底上げされており、九州電力は太陽光発電事業者を対象に発電の一時停止を指示する出力制御を何度も行っています。
 「もう、あきれているんだよ。原発を少なくして、太陽光を増やしていけばいいのに、逆のことをやっている。九電の幹部にあきれている。よくこんなばかげたことをやっているな、と」
 
 -産業界では、経団連の中西宏明会長が今月、原発について「再稼働をどんどんやるべきだ」との見解を示しました。
 「まったく反対だ。(会員企業には)原発会社があるから、それに引きずられているんじゃないの。原発会社は莫大(ばくだい)な投資もしているし、原発が電気を供給していれば利益も上がる。経営第一と考えれば、そういう考えが出てくるんだろう」
 
 -安倍晋三政権は原発輸出を「成長戦略」に位置づけています。
 「原発輸出は破綻している。トルコでもベトナムでも英国でも、みんな断られた。衰退産業なのに、成長産業にしようっていうのは、どうかしているよ」
 
 -どうすれば原発ゼロに踏み切れるでしょうか。
 「政治の決断だ。原発ゼロを宣言したドイツだって政治が決断した。政治決断に一番必要なのは、原発ゼロにしようという国民の意向だ。今、原発はない方がいいという国民の方が多い」
 
 -間もなく平成が終わりますが、ご自身の中で認識が最も大きく変わったのは、原発ですか。
 「阪神大震災もあったし、テロもあった。でも、これからの時代を考えると、(原発事故は)大きな転機だ。原発をなくして自然エネルギーでやっていこうという契機になった。平成で原発は終わった。そういう時代にしたいね」
 
 全国で講演活動を続ける小泉元首相だが、原発ゼロを掲げて細川護煕元首相が14年の東京都知事選に出馬した際は、全面的に支援した。18年1月には原発ゼロ・自然エネルギー基本法案を発表したほか、同年7月には長年の“政敵”だった小沢一郎氏の政治塾で講演している。現在の政治の状況をどう見るのか
 
 -安倍政権は原発の再稼働を進めており、自民党内でも原発ゼロを目指す動きは盛り上がっていません。
 「今年の参院選で野党がまとまって、原発をゼロにするということが争点になれば、分からないよ。1人区で野党が統一候補を出せば、自民党の候補者は原発は必要と言って勝てるかどうか。だから、今年の参院選は非常に重要だ」
 
 -原発は争点になるでしょうか。
 「野党の党首がこの状況をどう考えるかだ。本当に野党が勝つ気があれば、候補者を一本化して、原発を争点にする。政治っていうのは与党だけで動かすんじゃない。与党、野党、ひいては国民の意向だ。自民党は国民の多数意見を反映した政党だったから政権を取っていたが、今は原発はない方がいいという意向の国民の方が多い。それを無視して、政権をずっと担当できるか」
 
 -参院選にあわせて衆議院を解散する衆参同日選の可能性も取り沙汰されています。
 「私は感心しないね。衆参の結果が違ったらどう判断するのか。片方(の民意)を尊重したら、片方は軽視されたってなる。だからやるべきではないと思っている。衆議院と参議院はそれぞれ役割が違う。(同日選は)例外中の例外だ」
 
 -昨年夏に自由党の小沢一郎さんの政治塾で講演されましたが、小沢さんは国民民主党との合流を視野に入れた協議を始めました。小沢さんは野党再編で存在感を発揮できるでしょうか。
 「それは分からないけど、小沢さんは野党を一本化しなければだめだと思っていると思う」
 
 -最近は小沢さんとお会いになっていますか。
 「(昨年は)小沢さんの塾で講演してくれというので行った。小沢さん自身も原発ゼロには賛成だからね。その後(のやりとり)はない」
 
 -今夏の参院選は、改元後、初めての大型国政選挙になる見込みです。
 「そうだ、新元号で初めての参院選。重要だね」
 
 
小泉元首相に聞く(中) 要諦は「状況つかむ力」
神奈川新聞 2019年1月31日
 世論調査で高支持率を維持し、国民的人気を背景に首相在任期間は約5年5カ月、1980日に及んだ小泉純一郎元首相。中でも鮮烈な印象を残した郵政解散での大勝は、政治の風景を一変させた。その背景にあったのは、小泉氏が強硬に反対していた小選挙区制の導入だった。
 平成の政治を振り返るとき、1996(平成8)年の衆院選から導入された小選挙区比例代表並立制の存在は欠かせない。小泉氏は首相在任中の2005年、参院で郵政民営化法案が否決されたのを機に衆院を解散。法案に反対した自民党の議員を公認せず、小選挙区に対立候補となる「刺客」を擁立し、自民公明の2党で327議席を獲得する大勝に導いた
 
 -首相の権限は、小選挙区制によって強くなったと指摘されています。
 「小選挙区は一対一の戦いだから、やりようによっては執行部、総理の権限を最大限に発揮できる制度だ。同時に、野党だっていい政策があれば、政権をひっくり返すことができる」
 
 -小泉さんは中選挙区制から小選挙区制への移行に強く反対していました。
 「反対していた理由の一つは、小選挙区というのは執行部にとって実に武器になるが、陣笠(じんがさ)議員(一般の議員)は非常にやりにくくなるからだ。でも、郵政民営化は小選挙区だからできた。中選挙区だったら無理だった。どんな選挙制度でも一長一短はあるが、この状況で野党がまとまって原発をゼロにしようと言って、自民党は原発は必要だと言ったら、どうなるか分からないね」
 「俺、安倍総理に『もったいない』って言っているんだよ。『原発ゼロにする、こんなチャンスないぞ』と。自民党が進めれば、野党は反対できないよ。与党も野党も協力できる体制ができる。しかも夢のある事業だ。世界に先駆けて原発ゼロでやっていこう、自然エネルギーを最大限に活用しようという方向性を出せる時代が来ているのに、指をくわえて見ているっていうのは、実にもったいない」
 
 -安倍首相の反応は。
 「反論はしない。苦笑しているだけだね」
 
 -今夏の参院選を「原発ゼロ」に向けた重要な選挙と位置付けていますが、原発ゼロを訴える候補者を応援する考えはありますか。
 「私はもう選挙には一切関わらない。衆院選も参院選も地方選挙も」
 
 -神奈川では河野太郎外相(衆院15区)が原発ゼロを訴えていましたが、最近は持論の公言を控えています。
 「やっぱり大臣の立場を尊重するし、総理の立場をおもんぱかるから。まだ大臣になる前に、河野さんに電話したよ。『先見の明があるな』って。でも、大臣でいる場合、総理が原発推進派では言えないだろうな。しかし、本心は原発ゼロだと思うんだよ。まあ政治家だから、自分が力をつけてからということだろうな」
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