福島原発事故に伴い、福島県から神奈川県などに避難した住民ら60世帯175人が東電と国を相手取り、総額約54億万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は20日、判決を出します。
事故からまもなく8年。住民らの避難生活は長期化し、環境も状況も激変しました。避難者たちに先の見えない不安が募っています。
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原告女性、唇かみ締め「この8年失ったものばかり…」
原発避難者訴訟、20日横浜地裁で判決
毎日新聞 2019年2月19日
東京電力福島第1原発事故に伴い、福島県から神奈川県などに避難した住民ら60世帯175人が東電と国を相手取り、総額約53億9000万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は20日、判決を言い渡す。事故からまもなく8年。住民らの避難生活は長期化し、先の見えない不安が募る。
「この8年、失ったものばかりだった」。原告で、福島県大熊町から相模原市内に避難した女性(72)は唇をかみ締めた。
20代。結婚を機に夫が暮らす大熊町に移った。家の前に梨畑が広がる、のどかな風景。だが、原発事故が全てを変えた。自宅から原発まで約4キロ。避難指示を受け、自営業の夫らと車で福島県内の避難所を転々とした。宮城県に住む弟(当時60歳)を津波で失い、心の休まらない状況の中、約2週間後に親戚がいた相模原にたどり着いた。
避難から約2年後。夫にがんが見つかった。闘病しながら原告団に加わったが、2015年7月、73歳で他界。避難後、古里に戻ることはできなかった。「もう一度、仕事場を見せてあげたかった」。夫の無念を思う。
自宅周辺は、除染廃棄物の中間貯蔵施設用地に指定された。家は取り壊され、除染で取り除いた表土や草木を入れた大量の黒い袋(フレコンバッグ)が並ぶ。愛着のある家、最愛の夫、思い出が詰まった古里など、事故は大切なものを奪ったと悔しがる。
原告側は、東電は巨大津波の危険性を予見できたのに有効な安全対策を取らず、国も適切な規制をしなかったと主張。東電の賠償額は不当として、古里や仕事を奪われたことへの慰謝料(1人2000万円)、避難に対する慰謝料(1人月額35万円)などを求める。国と東電は争う姿勢だが、女性は「住民に非はない。素直に謝り認めてほしい」と憤る。
同種の集団訴訟は全国で約30件提起され、20日の判決が8件目となる。7件の判決はいずれも東電に賠償を命令し、国が被告とされた5件のうち4件でその責任が認定された。夫も待ち望んでいた判決。女性は「聞かせてあげたかった。代わりに聞いて良い報告をしたい」と話した。【木下翔太郎】