2019年2月3日日曜日

日本の原発ビジネスは四面楚歌

 日本の原発事業は、活路を求めた海外事業が建設原価の高騰によってことごとく挫折しました。財経新聞が、「日本の原発ビジネスは四面楚歌、将来のために今どうするか?(上)(下)」の記事を出しました。
 現在原発関連の業務は、廃炉以外には、既存原発の再稼働へのメンテナンス等の維持管理業務のみとなっています。一般的には「技術力の継承」は欠かせませんが、原発が必要でない以上それも重要ではありません。
 
 原発産業は400社を超える企業が参加していました。廃炉作業は建設とは異なるので、その全社が参加できる余地はありません。
 原子力関係の従業員は20年前のピーク時に1万4000人陣容でしたが、現在は1万人前後と推定されるということです。その中から廃炉作業に欠かせない熟練の技能職を確保することになります。
 
 文中「欧州で盛んな洋上風力発電のコストは原発を2割程度下回るところまできた」と記述されています。それは勿論建設コストのことで、維持管理費用は原発に比べれば再生可能エネのそれはゼロのようなものです。
 危険な原発は13ヵ月ごとに止めて定期点検に入ることが法令で義務付けられていて、3ヵ月かそれ以上に渡り、損耗した回転機器類や部品類の交換が行われます。当然それには莫大な人件費が掛かります。
 この定期点検は原発関連企業にとっては重要な収入源なので、原発を再稼働するかどうかは「原子力ムラ」にとっては死活問題となります。とはいえ、事業環境の変化はどんなところにもあるわけで、まして2011年に深刻な福島原発の事故が起きた以上、原発事業においては 取り分けそれは避けられないことです。
 今後しかるべき期間のうちに、原発関連企業は廃炉とメンテナンスを中心にして再編成されることになります。
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日本の原発ビジネスは四面楚歌、将来のために今どうするか?(上)
 財経新聞  2019年2月1日
 2000年代の前後にかけて世界中で環境問題への意識が高まり、二酸化炭素の排出量の削減が声高に叫ばれるようになった。2006年に公開された「不都合な真実」というドキュメンタリー映画は大きな話題となり、主演した元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏は環境問題への啓発に貢献したとして後にノーベル平和賞を授与された。
 
 この頃、発電時に二酸化炭素を発生させない長所を持ったうえ、安定して大量の電力を供給できる原子力発電が、見直されることとなり「原発ルネッサンス」と呼ばれるほどの時代のうねりを呼んだ。
 当時は1979年に起きたスリーマイル島の原発事故や、1986年のチェルノブイリ原発事故などの大規模事故の影響を引き摺り、原発は安全上のリスク管理が困難であるとの認識が一般的だっだ。「不都合な真実」はそうした当時の風潮を別の角度から見つめるきっかけとなり、原発の見直しを進めて復権させる程の勢いを生んだ。世界各地で原子力発電所の増設や、施設の延命化が大きな流れとなった時期でもある。
 
 そんな機運を一気に逆回転させた出来事が、2011年に発生した東日本大震災である。この地震によって福島第一原子力発電所が受けた被害は世界を震撼させ、原発ルネッサンスとまで言われた潮流は一気に萎むこととなった。
 日本はこの原発ルネッサンスの時期に、インフラ輸出の象徴的な存在として世界への原発の売り込みを進めてきたが、世界を覆い尽くす反原発の流れは重い足かせとなった。
 日立が進めていたリトアニアでの原発計画は、市場環境の変化により費用対効果が悪化するとして、2016年に計画が凍結されている。三菱重工業と東京電力が進めていたベトナムの原発は、資金不足と住民の反対により2016年に計画の中止が正式に決定した。
 三菱重工業と仏フラマトムを含む日仏企業連合が、トルコに計画していた原発4基の建設も、安全対策費が膨らんで建設費が当初計画より倍増し、総事業費が5兆円規模に高騰したためトルコ政府に謝絶された
 
 2018年の中盤までは日立が事業化への期待をつないでいたイギリスの原発も、事業費の高騰を分担することが難しくなり、引き受けの見通しが付かなくなったことから凍結に至った。肝心のイギリス自体がEUからの離脱問題で混迷の渦中にあり、踏み込んだ交渉が不可能なことも災いとなった。
 
 
日本の原発ビジネスは四面楚歌、将来のために今どうするか?(下)
財経新聞 2019年2月1日
 これで日本が抱える原発絡みのインフラ輸出は皆無となった。資源小国の日本は、いままで世界の原発技術を牽引してきた。東日本大震災の後、国内での新設計画が途絶したことや技術輸出に対する政府の後押しもあり、日本企業は海外に大きく視線向け始めていた。
 
 現在、原発を手掛けるメーカーの事業環境は国内外とも新規案件が途絶したことにより、既存原発の再稼働へのメンテナンス等の維持管理業務のみとなっている。
 原発に付きものである将来の廃炉作業を見通すと、技術力を維持するための技能の継承は欠かせない。原発産業は裾野が広く、400社を超える企業が日本原子力産業協会を構成している。原発に事業としての将来性が失われると、原発固有の技術保有企業が事業から撤退する懸念もある。サプライチェーンに断絶が生ずると原発事業の継続性に疑問符が付きかねない。人的な側面も懸念は大きい。原子力関係の従業員は20年前のピーク時に1万4000人近い陣容を確保していたが、現在は1万人前後と推定される。今後の廃炉作業に欠かせない熟練の技能職をどうやって囲い込んでいくかという課題は重い。
 
 どんな業界でも必要に迫られて、切羽詰まった環境の中からブレイクスルーが行われ新技術へ辿り着いて来た。国内外で新規の原発建設が見込めない状況では、産業としての魅力が失われ若い活力の流入が細る。現在の技術者が逐年高齢化することは避け得ないことであり、事態は想定以上に深刻である。
 東日本大震災が発生して以後の原発を取り巻く環境は、二重三重の安全性を要求されるコスト高の傾向が顕著になって来た。もともと原発は大量の電力を二酸化炭素を排出しないで、埋蔵が偏在する石油に依存することもなく、かつ比較的に低廉な価格で提供できるエネルギーとして注目を浴びていた。
 
 現在は再生可能エネルギーの電力コスト低下が進んでいることや、設備構築までの期間が原発施設よりも大幅に短期間であることもあって、原発のメリットが見えにくくなっている。原発は5〜7年程度の工事期間を必要とし、1年程度で稼働する太陽光発電との差は大きい。欧州で盛んな洋上風力発電のコストは原発を2割程度下回るところまできた。原発の膨らむ事業費は米ウエスチングハウスを破綻に追い込み、親会社の東芝にも深手を負わせた。
 
 世界における原発ビジネスではロシアと中国が存在感を高めている。ロシアは相手国のニーズを吸い上げる巧みさがあり、中国は巨大経済圏構想である「一帯一路」をすすめる上に不可欠な要件としているようだ。いずれも国内で原発の建設をすすめ、運転ノウハウも蓄積する強みがある
 将来確実に訪れる廃炉時代にどんな備えができるのか、現在日本は正念場に在ると言える。