揚水発電は高低差のある二つのダムを水路で結び、その間に発電機兼ポンプを入れることで、電力余剰時には低水位ダムの水を高水位ダムにポンプ機能で揚水し、電力不足時には高水位ダムの水を低水位ダムに落とす際に水車で発電するもので、昼間しか発電できない太陽光発電と組み合わせると合理的な運転が行えます。
九電管内には、小丸川揚水発電所120万KW、天山揚水発電所60万KW、大平揚水発電所50万KWの3つがあり、現在フル稼働しているということですが、原発4基を優先的に稼働させているため昼間に電力が余剰になり、揚水発電所の機能だけでは凌げていないのが現実です。
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<原発のない国へ 再生エネの岐路>(4)揚水発電の需給調整に限界
東京新聞 2019年2月6日
ゲートから約二キロものトンネルを抜けると、地下約四百メートルの広大な空間に、四基の巨大なモーターが姿を現す。一月下旬、山深い宮崎県木城町(きじょうちょう)の九州電力小丸川(おまるがわ)揚水発電所を訪ねた。国内有数の出力百二十万キロワットは原発一基分に相当する。
山頂近くとふもとにある二つのダムが地下水路でつないである。従来は電気が余る深夜に上のダムへ水を揚げ、日中は下へ流して発電していた。ここ数年は昼夜逆転。太陽光発電の普及で日中に電気が余るようになり、上のダムに揚水し、水の位置エネルギーという形で蓄電して、電力の需給バランスを調整している。
訪ねたのは朝。宮崎は快晴だったが、他の地域は曇り。冷え込み、暖房での電力需要の伸びが予想された。発電中の2号機がうなりを上げていた。
「前日、天気予報や日射予想を見て、朝のうちは発電、天候が回復する午後は水を揚げる計画を立てました。急に天気が回復し、太陽光の発電量が伸びてくれば、いつでも揚水に切り替える準備はできています」
九電宮崎水力事業所の重信孝所長が胸を張る。揚水から発電への切り替えは七分半で可能。わずか二分半でフルパワーに達する最新式の発電所は、電力の需給バランスをとるために奮闘する最前線だ。
日射量に恵まれている九州では、太陽光を中心とした再生可能エネルギーの導入が進む。陽気の良い春は、電力需要の七、八割を太陽光で賄っている時間帯も少なくない。一方で、九電は四基の原発を動かしている。電力が余って需給バランスが崩れれば、周波数が乱れて大停電を招くとして、九電は再生エネの出力制御を昨年十月以降九回実施。国の給電ルールで、原発より先に再生エネの出力を抑えてよいことになっている。
本州と九州の送電網を結ぶ「関門連系線」で電力を融通しようにも、空きがあまりない。増強も検討されたが、昨年三月、経済産業省の認可団体「電力広域的運営推進機関」の検討会で、コストに見合わないとして当面見送りになった。
認定NPO法人「環境エネルギー政策研究所」の松原弘直主席研究員は「九州では原発が四基フル稼働中で、需給を調整する余力を減らしている。せめて電力消費が減る春と秋は原発の出力を下げて、余力をつくるべきだ」と指摘した。
電力買い取りの認定を受けたものの、まだ送電網に接続していない再生エネは、太陽光を中心に九州だけで千四百七十二万キロワットあり、九電管内の最大需要に匹敵する。接続量は毎月五万キロワットペースで増えているという。再生エネをさらに増やそうにも、揚水発電の調整能力には限界がある。
二〇一〇年度、小丸川での昼の揚水は二十二回だった。一七年度は約二十九倍の六百三十二回。九電は他に天山(佐賀県、六十万キロワット)と大平(熊本県、五十万キロワット)の揚水発電所を持つが、需給実績データを見ると、どれもフル稼働が続く。
小丸川のダムの水は濁りが目立った。理由を、宮崎支社土木建築グループの穴井幸康課長が明かした。「昨年の台風で濁りが入りました。その後は連日、ダムの水を揚げ下げしているので、汚れが沈むヒマがないんですよ」 (山川剛史)