2022年5月30日月曜日

30- 【トリチウム水処分計画了承】不信高まる手続き先行

 福島第1原発でたまり続けるトリチウム水の処分について、政府と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と地元漁業者らと約束しましたが、地元漁業者らの納得が得られないまま海洋放出の段取りが進められています。その元凶は地元との約束を無視して強引に海洋放出を決めた菅義偉前首相ですが、軌道修正の動きは全く見られません。
 福島民報が報じました。
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【処理水計画了承】不信高まる手続き先行
                             福島民報 2022/5/30
 東京電力福島第一原発でたまり続ける処理水の海洋放出計画について、原子力規制委員会は東電が提出していた審査書案を了承した。今後、計画の正式な認可を経て、地元同意を取れば海洋放出が可能となる。国民理解の深まりが前提のはずだが、政府と東電が目指す来春の海洋放出に向けた手続きが先行しているように映る。県民の不信感は募るばかりだ。
 規制委は計画について「必要な措置を講じている」として了承した。審査書案では、国の基準を大幅に下回る濃度まで放射性物質トリチウムを薄めるに当たり、ポンプで大量の海水を確保して希釈する手法が有効とした。耐震性の高い設備や地震、津波対策を考慮した設計、外部電源喪失時の対応なども確認した。海洋放出のための施設整備など計画の安全性については一定の評価が得られたといえる。
 ただ、了承した定例会合の席で、更田豊志委員長は理解醸成に向けて「東電は工夫して発信していくべき」と注文をつけた。問題点は一向に進まない理解醸成にある。本紙が四月に実施した県内五十九市町村長アンケートでは、海洋放出の方針について「県内外で理解が広がっていない」との回答が四分の三に当たる四十四市町村長に上った。復興庁が今年初めに実施した認知度調査でも、国内で政府方針を知っているのは43・3%にとどまっている。
 こうした数字が改善しなければ、海洋放出による風評は避けようがない。政府と東電は情報発信を強化するなど、対策を進めていると言うが、効果が顕著に表れているような状況には至っていない。規制委は現在、一般からの意見公募をしており、意見を踏まえて改めて開く会合で正式認可する見込み。その後、東電が県と地元の双葉、大熊両町に提出している放出計画の着工に関する事前了解願について判断することになる。
 政府と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と繰り返すが、漁業者を中心にさまざまな産業、市町村議会などから新たな風評の発生への懸念や慎重な対応を求める声は根強い。こうした状況の中で、知事と両町長に海洋放出を可能とする事前了解の了承を求めるのは、あまりにも酷ではないか。

 たとえ了承の判断が出ても、政府と東電は海洋放出のゴーサインととらえるべきではない。手続きを終えても、漁業者をはじめとする関係者と真摯[しんし]に向き合い、理解醸成に努めなければならない。約束を反故[ほご]にすれば、信頼は地に落ちる。(安斎康史)