2022年5月23日月曜日

福島原発のトリチウム処理水 海洋放出へ理解進んでいない

 政府と東電は15年に福島県漁連に「関係者の理解なしには、いかなる処理水の処分もしない」と約束していますところが地元の理解が進んでいない中で、政府はトリチウム処理水の海洋放出を決め、規制委の審査も通るという見込みのもとで、排出用設備の準備が着々と進められています。
 それに対して宮城、茨城の両県知事は規制委の実質了承に対し、処分方法の再検討などを政府に求めました(正式決定は、現在規制委は審査結果について意見公募を行っており、7月中となる見込み)。
 京都新聞が「原発の処理水 放出へ理解進んでいない」とする社説を出し、現状のまま放出を強行するようなことがあっては混乱と将来への禍根を残すと警告しました。
 現地の空気を伝える福島民友の記事を併せて紹介します。
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社説:原発の処理水 放出へ理解進んでいない
                             京都新聞 2022/5/22
 来春、本当に海に流すというのだろうか。
 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水について、政府が2023年春をめどに海へ放出する方針を決めて1年余り。原子力規制委員会が、放出設備設計や手順を盛り込んだ計画を実質的に了承した。1カ月の意見公募の後、早ければ7月にも正式に認可する方針という。
 処理水は、事故を起こした原子炉建屋などを通った注水や雨水などの「汚染水」を浄化したものだ。技術的に除去できない放射性物質トリチウムを含むが、規制委は安全上の問題はないとした。放射性物質濃度が基準を下回っていることを常時監視する方法なども確認。放出終了まで数十年間かかるという。
 先日、現場の福島原発を訪れると、1キロ沖合に処理水を放出するための海底トンネルの準備工事が進んでいた。港湾部に巨大なシールドマシンが設置され、大型船による海底整地も始まっている。程なく本格工事にかかれるような状況だった。

 千基余りという処理水を保管するタンクは、確かに原発構内にぎっしりと並ぶ。来秋にはすべて満杯になり、これ以上の増設は廃炉作業に支障をきたす。放出は待ったなしというのが政府、東電の理屈である。
 政府は地元が懸念する風評被害対策として、21年度補正で海産物の買い取りなどへの基金300億円も計上している。
 だが、短い期限や規制委の了承、基金、準備工事と次々に外堀を埋めて地元に了解を迫るかのような手法は疑問だ。

 岸田文雄首相は先月、初めて全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長と会談して理解を求めたが、会長は「いささかも反対の立場に変わりはない」と明言した。1年前、同会長が菅義偉首相(当時)に反対を伝えた直後、首相が海洋放出を発表した経緯もあり、両者の溝は修復の兆しが見えない。
 東電への不信はさらに根深い。浄化済みとしていた処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していたり、処理水の保管タンクの満杯時期を何度も繰り下げたりするなど事故で失った信頼を取り戻すには程遠い。規制委の実質了承に対し、宮城、茨城の両県知事は処分方法の再検討などを政府に求めた。

 処理水の海洋放出に、国民の理解も進んでいると言い難い。復興庁による今年1月のインターネット調査では、海洋放出の方針を知っていたのは4割余りにとどまった。
 政府と東電は15年に福島県漁連に「関係者の理解なしには、いかなる処理水の処分もしない」と約束している。現状のまま放出を強行するようなことがあっては混乱と将来への禍根を招くだろう。国民の理解が必要な今後の長期にわたる廃炉作業にも、悪影響を及ぼしかねない。
 風評の阻止には確かな科学的根拠と強い発信力、そして一定の時間が必要だ。政府と東電はスケジュールを再検討するとともに、国際原子力機関(IAEA)や第三者の研究者らも交えて安全性の確認、地元や消費者、周辺国への説明に覚悟をもって取り組むべきだ。


【参院選ふくしま・焦点】
処理水/新たな風評不安 理解促進へ注文
                            福島民友 2022/5/22
 東京電力福島第1原発で発生する処理水を海洋放出する政府方針を巡り、東電が原子力規制委員会に認可申請した放出設備設置に向けた計画が7月にも正式認可される。来春をめどとする海洋放出に向けた手続きが進む中、国内外の理解、納得を得るための対応が求められている。
 消費者が納得していないのならば、海洋放出は受け入れられない」。いわき市久之浜で鮮魚販売・卸売りを手がける「はまから」の阿部峻久代表(39)は、店舗内のケースに並べられたヒラメやカナガシラなど、福島県沖で取れた旬の魚介類を見つめながら厳しい表情で心境を吐露した。

取引先開拓に努力
 プランクトンが豊富な海域を持つ福島県の魚介類はかつて、身が厚いなどの理由から他地域での評判も高かった。しかし、福島県漁業は震災と原発事故後、長らく試験操業が続き、現在は本格操業への移行段階にある。そんな中、阿部さんは2020年に開店し、コロナ禍でも県産魚介類を提供してくれる都内の飲食店など取引先の開拓にも努力を重ね、事業を続けてきた。
 開店と前後して、処理水を巡る問題も耳にしていた。「原発事故の風評が落ち着きつつある中で、また(処理水放出による)風評が生まれるのだろうか」。海洋放出に向けた手続きが着々と進む現状に、不安は募る一方だ。政府は風評の抑制に向け理解促進に取り組むとしているが、阿部さんは「処理水が安全・安心であるなら、それが消費者の常識になるくらい浸透させる必要がある」と指摘する。

情報発信 唯一の道
 専門家も、放出に向けた情報発信に努めることで多くの人の理解を得る必要性を指摘する。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は19日に福島第1原発を視察。海洋放出について「地元の懸念は重々承知しており、尊重しなければならない。信頼を得るための唯一の方法は多くの情報を公開することだ」と強調した。

 海洋放出方針を巡っては、漁業者の反発が根強い上、復興庁が国内外の人を対象に実施した調査でも約6割が方針を知らないことが明らかになった。理解醸成が海洋放出に不可欠な一方、阿部さんは、広く周知することで新たな風評が生まれるのではないかとの懸念も持つ。「敏感に反応する消費者も中にはいる。難題なだけに、はっきりと問題点を示し、どう解決できるかを提示してほしい」。そう注文した。