2022年5月21日土曜日

海洋放出を規制委了承 福島原発汚染水 内外の反対の声無視

 福島第1原発事故で発生するトリチウム汚染水を海水で薄めて海に放出する計画をめぐり、原子力規制委の会合が18日に開かれ、東電の申請を認める審査書案を了承しました。

 トリチウム汚染水の海洋放出については地元漁業者団体は反対していて、政府と東電は15年、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と約束していました。しかし菅義偉・前政権昨年4月、約束を破って海洋放出方針を決定。岸田文雄政権もその強権的なやり方を踏襲し、「説明を尽くす」と言いながら、社会的合意を後回しにして放出に向けた準備を着々と進めて来ました。
 規制委が放出の仕組みについて承認したからと言って、約束を破っていいことにはならず、それは別問題です。
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海洋放出を規制委了承 福島原発汚染水 内外の反対の声無視
                       しんぶん赤旗 2022年5月19日
 東京電力福島第1原発事故で発生する放射能汚染水を処理した後に残る高濃度のトリチウム(3重水素)を含む汚染水(アルプス処理水)を薄めて海に放出する計画をめぐり、原子力規制委員会の会合が18日に開かれ、東電の申請を認める審査書案を了承しました。漁業者や地元住民をはじめとする国内外の多くの反対や懸念の声を置き去りにしたまま、実施の準備は新たな段階に進みました。
 審査書案は6月17日まで一般からの意見募集を行い、その結果を踏まえて正式に決定される見通しです。
 計画は、敷地内のタンクにためているアルプス処理水を、海水で基準値未満の濃度に薄めて、海底トンネルを通じて約1キロメートル沖合で放出するもの。政府と東電は来年4月ごろの放出開始をめざしています。すでに準備作業を進めており、正式に認められれば、トンネルや関連設備などの本格工事を進めます。

 審査書案は、放出手順、設備の安全性、人や環境への放射線影響などを評価。東電の計画について、問題なしと結論づけました。
 アルプス処理水の処分方法をめぐっては、海洋放出すれば風評被害など社会的な影響が大きいと懸念されており、市民団体などからはタンクでの保管継続やモルタル固化など代替案の検討を求める声があがっています。
 政府と東電は2015年、海洋放出に反対する地元漁業者に対して「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と約束していました。しかし政府は昨年4月、これを覆して海洋放出方針を決定。東電が12月に具体的な計画を申請していました。


解説 規制委が了承 汚染水放出強行 不信・矛盾広げる
                       しんぶん赤旗 2022年5月19日
 東京電力福島第1原発事故で発生した高濃度のトリチウム汚染水(アルプス処理水)を薄めて海に放出する計画。社会的合意がないまま、政府と東電が、条件だけを整えて実施に突き進めば、社会にさらなる不信と矛盾を広げて、漁業をはじめ福島や近隣県の復興に深刻な打撃をもたらすことが懸念されます
 事故発生以来、汚染水タンクからの漏えいや海洋流出などの事故が相次ぎました。対策をめぐって、政府と東電はこれまでデータ隠しや後手の対応など、無責任で不誠実な態度を続けてきました。漏えい事故直後に安倍晋三首相(当時)が五輪招致の演説で、汚染水の状況は「コントロールされている」と安全宣言したのは象徴的です。
 汚染水問題に復興を妨げられてきた漁業者たちは2015年、対策に協力するため、原子炉建屋周辺の地下水をくみ上げて浄化処理した後に海に放出する「サブドレン計画」を“苦渋の選択”として受け入れました。
 その際、アルプス処理水についてはタンクで厳重保管し「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない」よう要望。政府と東電は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と約束しました。
 漁業者だけでなく地元自治体をはじめ国内外に、反対や懸念の声が広がっていました。
 しかし政府は、タンクが満杯になるとして“安くて簡単な方法”である海洋放出ありきの姿勢で処分方法の検討を進めてきました。
 そして昨年4月、約束を破って菅義偉・前政権が海洋放出方針を決定。岸田文雄政権もその強権的なやり方を踏襲し、「説明を尽くす」と言いながら、社会的合意を後回しにして放出に向けた準備を着々と進めています
 約束を守らない政府が信頼されるはずがありません。このまま強行すれば新たな風評被害と国民の分断を生むだけです。海洋放出方針は撤回すべきです。(「原発」取材班)


原子力規制委、東電の処理水放出計画を了承 7月にも認可
                             福島民友 2022/5/19
   審査書に盛り込まれた規制委の確認事項と処理水放出のイメージ
 東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡り、原子力規制委員会は18日、東電が申請した放出設備の設置に向けた計画について、安全性に問題はないとする審査結果を了承した。規制委は審査結果の意見公募を経て正式認可する見通しで、更田(ふけた)豊志委員長は「早くても認可は7月中」と述べた。
 東電は認可と設備の着工を6月ごろと見込んでいたが、福島県と、第1原発が立地する大熊、双葉両町の了承も必要となるため、遅れは必至となった。福島県は同意するかどうかを廃炉安全監視協議会で議論する方針。手続きの進展次第では、政府と東電が目標とする来春の放出開始時期に影響する可能性がある。
 規制委はこれまで、東電が提出した計画について全体工程やリスク評価、放射性廃棄物の処理・保管・管理の内容などを審査してきた。計13回の会合で内容を議論したが、大きな計画変更はなかった。
 更田氏は記者会見で「(海洋放出に)関心、懸念がある人への説明はまだまだ工夫できる。(理解を得るため)できるだけの努力をしていくべきだ」と指摘した。

東電、不安解消へ全力
 東電は審査結果の了承を受け「考えや対応について説明を尽くし、不安や懸念を解消するため全力で取り組む」とした。東電は放出計画で、処理水に含まれる放射性物質トリチウムの濃度が国の基準の40分の1未満となるよう薄めた上で海底トンネルを通し沖合約1キロから放出するとしている。

健康影響「極めて軽微」
 原子力規制委員会が18日了承した、東京電力福島第1原発の処理水放出方針を巡る設備設置計画についての審査結果では、東電が昨年11月に公表した処理水を放出した場合に、人や海産物など環境への影響が「極めて軽微」とする放射線影響評価についても確認した。
 審査書に盛り込まれた規制委の確認事項は【表】の通り。規制委の更田委員長は放出による環境への影響について「健康への影響は到底考えられないが、多くの人の関心や懸念があり、とても丁寧に審査した」と述べた。審査書では、巨大地震の影響で処理水3万トンが海に流れた場合でも、国際原子力機関(IAEA)の安全基準を下回ることについても確認した。
 また、異常時の対応については、外部電源喪失時であっても緊急遮断弁の自動作動などにより、放出を確実に停止できるとしている。処理水に存在する可能性のある新たな核種については、更田氏は「(存在は)ほぼ考えられない」としつつ、特定に向けた努力を東電に求めた。
 東電は放出設備の着工に向け、海底トンネルの放出口となる穴の掘削作業などを進めている。更田氏は放出時期について「春から夏にかけて行われることが望ましいと思う」と私見を述べ、東電に対し「(準備を)着々と進めてほしい。必要な工事は進めてもらいたい」と求めた。

浜通りの首長反応「関係者理解に全力を」「十分な説明を求める」
 原子力規制委員会が処理水海洋放出計画の審査結果を了承したことを受け、浜通りの首長からは十分な説明や情報発信を求める声が相次いだ。
 いわき市の内田広之市長は「(海洋放出は)風評対策を含めて関係者の十分な理解を得られたとは言えない状況だと認識している。決定ありきではなく当初の約束通り、分かりやすく情報を発信するとともに関係者の理解を得ることに全力を尽くすよう求めたい」とコメントを発表。南相馬市の門馬和夫市長は「処理水の処分方法については、安全性や風評被害に対する不安の声が多くある。放出を決定した背景などについて、関係者のみならず国民に対し十分な説明をするよう求めていく」と求めた。
 福島第1原発立地町である双葉町の伊沢史朗町長は報道陣の取材に応じ、「県、大熊町と相談して対応を検討していきたい」、大熊町の吉田淳町長は「確認していない。詳しいことはまだだ」と述べるにとどめた。


風評対策は数十年に渡る《原発処理水の海洋放出》許可されても福島県や自治体の了承が必要
                            福島テレビ 2022/5/18
福島第一原発で増え続ける処理水の海洋放出に関して、原子力規制員会は東京電力の計画に安全性の問題はないとする審査書案を了承した。
放出に関する設備を整備するためには、原子力規制委員会の認可が必要で事実上の合格が示された形となる。
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<漁業関係者の心配…風評対策は?>
東京電力は9月頃から海水で薄めた放出前の処理水でヒラメやアワビの飼育し、得られたデータを公開する方針を示している。
発電所周辺の海水で育てたものと、健康状態や生存率・卵がかえる確率などが公開される。
計画が正式に認可されても、東京電力は福島県・双葉町・大熊町に事前の了解を得る必要がある。
そして、その後も「漁業関係者に説明を尽くし、計画への理解を得る努力を重ねる」とコメントしている。
政府は「放出開始は2023年春ごろ」とすでに方針を固めている。
東京電力によると、放出を始めるには10カ月程度の工事が必要とのことなので、あくまで青写真だが5月末か6月上旬にも工事に着手しなければ間に合わない計算。
放水期間は具体的期間は明らかにされていないが、東京電力は福島テレビの取材に対して「廃炉期間の30~40年を有効に使って慎重に対応したい」とコメントしたことからも、数十年に渡る風評対策が求められることになりそうだ。
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海洋放出に向けた動きが進む一方で、処理水をめぐる議論が深まっていないことはデータからも裏付けられている。
復興庁は、2022年1月から2月にかけて国の内外の20代以上を対象に処理水に関する認識を初めて調べた。
その結果、処理水に含まれるトリチウムの濃度を国の基準値以下まで薄めて放出する方針について、国内で知っている人は43.3%にとどまり半数を下回った。
調査結果を踏まえ復興庁は、処理水に関する情報発信などの取り組みを強化するように、関係省庁に対して指示を出している。「復興の司令塔」としての役割が改めて問われている。