核燃料を利用した高温ガス炉は、軽水炉型原発が水を冷却材兼減速材として利用するのに対して、減速材として黒鉛を、冷却材としてヘリウムガスを使うので、原理的には炉心溶融や水素爆発を起こさないと言われています。
中国は高温ガス炉に積極的で、実証炉を使った研究開発を進めていて、すでに臨界を達成しています。日本も茨城県大洗町に試験研究炉「HTTR」(3万KW)を持っていて、1998年に初臨界に達し、04年にはヘリウムガス温度を950℃にすることに成功しました。
そして21年には冷却装置を全て停止する模擬試験にも成功し各国の関心を集めました。
一般に軽水炉(現行の原発の反応炉)では運転温度は300~350℃ですが、高温ガス炉では950℃まで取り出せるので、日本はこの高温を利用して水を分解し水素(と酸素)を取り出すことに実験装置規模で成功しています。ただその過程で高温の硫酸や沃素による装置の腐食が起きたため、これが実装置化する上でのネックになっているようです。
ニュースイッチが高温ガス炉に関する記事を出しました。
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軽水炉より”安全な原子炉”の社会実装を目指す、スタートアップの意義
ニュースイッチ(日刊工業) 2022/5/9
ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の上昇により、あらためて原子力発電所の重要性が増している。ただ、原子力規制委員会は安全審査基準を厳格化しているほか、国民の抵抗感も根強く残り、日本での原発再稼働は道半ばにある。こうした中、日本原子力研究開発機構(原子力機構)の出身者が立ち上げたスタートアップのブロッサムエナジー(東京都文京区)は、より安全な高温ガス炉の社会実装を目指している。
東京電力福島第一原発事故などを踏まえ、次世代原発の実用化研究が進んでいる。既存の原発よりも安全に運用でき、施工コストを抑制できるのが特徴だ。その次世代原発の一つである高温ガス炉は、原理的には炉心溶融や水素爆発が起きず、軽水炉よりも安全性が高いとされる。
高温ガス炉は減速材として黒鉛を、冷却剤としてヘリウムガスを採用した原子炉を指す。燃料は耐熱温度1600度C超のセラミックで覆っているほか、炉内構造物も耐熱温度2500度Cの黒鉛を用いて燃料を収めており、燃料を覆う材料や炉内構造物が耐熱性に優れるため、炉心融解が起こらないとされる。また、冷却剤のヘリウムガスは化学反応が起きにくく、水素爆発や水蒸気爆発が発生しないと言われる。
経済的にもアドバンテージがある。一般的な軽水炉が300ー350度Cの熱を取り出せるのに対し、高温ガス炉は耐熱性が高いため、1000度C近い熱を取り出すことができ、熱の利用効率が高まる利点がある。また原子炉の安全性が高いことから、異常事態に対処するための設備を簡素化できる。これらの点から高温ガス炉は安全性が高く、発電単価を低減できると言われている。
日本には原子力機構が茨城県大洗町で運転する試験研究炉「HTTR」がある。1998年に初臨界に達して以降、04年には、原子炉から出るヘリウムガスの温度を950度Cにすることに成功。21年には冷却装置を全て停止する模擬試験を実施した。自然に原子炉の出力が低下し、燃料の温度上昇がなかったことを確認した。こうした日本の技術力に対する各国の関心は高く、原子力機構は英国やポーランドなどのプロジェクトに協力している。
こうした中、ブロッサムエナジーは高温ガス炉の社会実装に向け、原子力機構で培った技術をベースに取り組んでいる。ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けて開発を進めており、熱出力30メガワットのHTTRをベースに10倍ほどの出力を目指す方針だ。濱本真平最高経営責任者(CEO)は「米スペースXのクラスターロケットのように、すでに技術実証されているものを組み合わせて出力を高めるようにしたい」と説明する。
まず3年以内に出力を高めるための技術実証を実施し、大型化への道筋を付ける方針。実用化の時期については35年ごろを意識する。規制委員会への承認申請や建設などを想定すると「時間軸から考えて、この時期に軽水炉以外の選択肢を示せるようにしたい」(濱本CEO)という。当面は発電での利用を想定しており、同社は「炉心溶解しない」という特徴を示していくとしている。
一方で課題もある。日本の高温ガス炉の実用化に向けた動きは緩やかであり、機運が十分に高まっていない。原子力機構のHTTRも原子力規制委員会の安全審査基準が厳格化した影響により、運転再開まで約10年の期間を要した。また軽水炉を手がけてきた重電メーカー各社も事業を縮小させており、実用化の環境は厳しい状況にある。これに対し、高温ガス炉に積極的な中国は実証炉を使った研究開発を進めており、すでに臨界に達している。
ブロッサムエナジーは日本国内の実情を踏まえつつ、社会実装に向けて着実に歩を進める考えだ。濱本CEOは「スピード感を持って技術の社会実装を進める新しい開発主体が必要ではないか」と説明し、自社の意義を強調する。