2024年3月11日月曜日

大震災から13年 いつまで原発に頼るのか(西日本新聞社説)

 3:11福島第1原発事故から13年になる11日西日本新聞が掲題の社説を出しました。

 一つはさっぱり埒が明かない廃炉の進捗についてで、13年経ってもデブリの取り出しは全く進展していません。これに関しては先ずは実現可能な工程表を作り、廃炉措置終了後の現地の姿を地元住民に説明すべきだと述べました
 この遅さは普通の民間企業ではありえないことで、日本の原子力業界の実力の程と事実上の親方日の丸の無責任さが窺われるものです。
 もう一つは、政府の原発拡大方針は間違いで再生可能エネ発電にこそ注力すべきと述べています。
 経産省をはじめとする原発業界は、利益追求だけを目的に原発の推進に奔るべきではありません
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【社説】大震災から13年 いつまで原発に頼るのか
                           西日本新聞 2024/3/11
 多くの人の命と平穏な生活を奪った東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から、きょう3月11日で13年になる。
 決して過去の出来事ではない。福島第1原発事故は現在も進行中で、終わりが見えない厳しい状況にある。
 マグニチュード(M)9・0の東日本大震災が発生したのは2011年3月11日午後2時46分だった。最大震度7の激しい揺れと大津波が東日本を襲った。福島第1原発は電源を失い、原子炉を冷却できなくなった。政府がその日夜に初めて出した原子力緊急事態宣言は、まだ解除されていない
 事故の教訓をエネルギー政策に反映させるのは、東日本大震災と福島第1原発事故を体験した世代の責務である。安全なはずの原発を誰も制御できず、原子炉が壊れないように祈ることしかできなかった。不安に身を震わせたあの日々を忘れてはならない

■工程表の見直し急げ
 福島第1原発では昨年夏、汚染水を処理した水の海洋放出が始まった。敷地内のタンク群が満杯に近づき、このままでは廃炉作業に支障が出かねないとして政府がゴーサインを出した。
 海洋放出は波紋を広げた。処理水には、多核種除去設備(ALPS)で取り除けない放射性物質トリチウムが含まれる。反発する中国は日本からの水産物輸入を禁止し、九州の水産業にも大きな影響が出ている
 トリチウムは海外の原発からも放出されているとはいえ、政府が放出前に近隣国の不安にきちんと向き合ったとは言い難い。健康被害は考えにくいことを説明し、理解を得る努力を続けるしかない。
 廃炉に向けた工程表「中長期ロードマップ」の見直しは避けられない。1~3号機の原子炉内に溶け落ちた溶融核燃料(デブリ)の取り出しは3度延期され、事故から30~40年後の廃炉措置終了は事実上困難になっている。
 デブリの取り出し開始は当初、21年中の予定だった。新型コロナウイルス感染拡大で1年程度延期し、ロボットアームの開発難航で23年度中に再延期したが、結局、これも断念した。
 現在は伸縮式のパイプを使う工法で、今年10月までにごく少量のデブリを採取する計画だ。1~3号機には推計で880トンのデブリがある。いつまでに取り出し、どこでどのように保管するかは何も決まっていない
 実現可能な工程表を作り、廃炉措置終了後の現地の姿を地元住民に説明すべきだ。

■再エネ拡大の先頭に
 原子力政策の議論は不十分だ。岸田文雄首相は一昨年原発の積極活用路線に転じ、再稼働だけでなく、新増設や建て替えまで打ち出した。突然の百八十度の方針転換に多くの国民が納得しているとは思えない。
 政府のエネルギー基本計画は、30年度の電源別構成で原発のシェアを20~22%と想定しているが、再稼働の遅れで22年度は5・6%にとどまった。21・7%にシェアを伸ばした再生可能エネルギー電源とは対照的だ。
 元日の能登半島地震では道路があちこちで寸断され、原発事故を想定した避難計画は全く役に立たないことがあらわなった。原発立地地域でさえ、活断層の把握が十分でないことも認知された。この状況で原発の再稼働が進むと考える人は少ないのではないか。
 原発にたまり続ける使用済み核燃料を再処理する工場はいまだに完成していない。原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分は候補地が定まらない。原発政策のほころびは明らかだ。
 再生可能エネルギーの拡大が世界の潮流である。原発を脱炭素電源と位置付け再評価する動きもあるが、ひとたび暴走すれば人の手に負えない。原発事故の恐ろしさを経験した日本は再エネ拡大の先頭に立つべきだ。
 近く次期エネルギー基本計画の議論が始まる。危険を内包する原発に将来も頼るのか。政府は国民に問う必要がある。