2024年3月6日水曜日

複合災害では「命守ることに専念を」と田中俊一元原子力規制委員長

 柏崎刈羽原発が立地する柏崎市で2日、初代原子力規制委員長の田中俊一氏が複合災害時の避難について講演し福島第1原発事故の教訓から「複合災害時には原子力災害のことは忘れて、自然災害から命を守ることに専念してほしい。無理な避難の必要はない」と訴えました。
 かつて福島県立医科大学元副学長山下俊一氏が盛んに説いて回った「放射線は怖くない」によく似ています。
 日本は、原発事故時に「年間20ミリシーベルト」まではそこで生活出来るという臨時の数値を決めたまま現在もそれを維持しています。これは幼児も含めて5年間で〝放射線による異常が発現するといわれる100ミリシーベルト″に達しても構わないというもので、いわば「世界の非常識」です。
 目に見える「自然災害」が迫っている場合は、それから命を守ることが優先されることは「緊急対応」として当然ですが、「被爆は怖くない」ことのみを強調すると「原発事故では何よりも被爆を避ける」という大前提が失われます。
 また年間20ミリシーベルト」が現在まで保持されているのと同じように「緊急対応」がそのまま「恒久対応」になる可能性があります。
 日本の原発で過酷事故が起きた時に「本当に安全に避難できるのか」という根源的な命題が提起されている中で、登場した「被爆しても構わない」という言説はいわば「ちゃぶ台返し」に相当するものです。まさかここで第二の山下氏が登場するとは思いませんでした。
 もっと緻密で具体的な「複合災害時の避難についての指針」の呈示が望まれます。
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「命守ること専念を」 初代原子力規制委員長、複合災害時避難の講演
                             毎日新聞 2024/3/3
 東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県柏崎市で2日、初代原子力規制委員長の田中俊一氏(79)が複合災害時の避難について講演した。東電福島第1原発事故の教訓から「複合災害時には原子力災害のことは忘れて、自然災害から命を守ることに専念してほしい。無理な避難の必要はない」と訴えた。【内藤陽】

 今回の講演は、同市の主催。能登半島地震で家屋倒壊が多発し、市民や近隣自治体の首長らから屋内退避の有効性に疑問の声が上がっていることから、市が急きょ設定し、桜井雅浩市長や市民ら約280人が耳を傾けた。
 田中氏は、複合災害時の避難が住民の最大の関心事で、能登半島地震のように家屋が倒壊しては「屋内退避ができず困惑しているのではないか」と指摘した。その上で、自然災害からの人命優先の考え方を提示。「放射線被ばくが怖いと思うかもしれないが、原子力災害は皆さんが思い込んでいるほど怖いものではない。怒られるかもしれないが、一番怖いのは、恐怖心や不安に駆られることだ」と強調した。
 田中氏は福島第1原発事故の災害関連死や健康被害について解説した。多くの災害関連死を出した福島県大熊町の双葉病院や、死亡率の高い同県富岡町などの避難事例を紹介。国は具体的な方法を示さずに避難を指示しただけで、自治体は混乱と不安の中、独自の判断で避難したため、犠牲者が増えた経緯を説明。一方、医師である市長の判断で避難せず死亡率を抑制した同県相馬市について「方針を貫き通し、素晴らしい見識だ」と称賛した。
 さらに多くの災害関連死が出た一方で、「原発内に2万人、外に避難者16万人がいたが、放射線被ばくで健康を害した者は一人もいない」と強調。放射線被ばくによる健康被害は、一過性のものではなく、長期蓄積の結果であることを説明した。「私の話を聞いてもなかなか腑(ふ)に落ちないと思う。放射線への不安や誤解を自ら払拭(ふっしょく)するための努力をしてほしい」と述べ、放射線について普段から勉強するよう求めた。

 質疑応答では、高齢者を長い距離避難させることへの不安の声が出され、田中氏は「今の避難計画が長距離避難を計画しているのであれば、犠牲者の出ないような計画にしてほしい」と、桜井市長に求めた。想定される事故についても問われ、「福島は冷却材喪失事故、チェルノブイリは臨界事故で人為的な面がある。新規制基準で水素爆発は起こらないとは思うが、その前に冷却できなくなる事態をなくそうとしているので、臨界事故を想定する必要はない」と答えた。

田中俊一(たなか・しゅんいち)氏
 1945年1月福島市生まれ。日本原子力研究所副理事長や日本原子力学会長、内閣官房参与などを歴任。福島第1原発事故を受け、翌年の2012年に発足した原子力規制委員会の初代委員長に就任。17年まで務めた。現在は福島県飯舘村で除染のアドバイザーなどの活動を行っている。


田中俊一元規制委委員長が複合災害について講演「屋内退避の重要性を強調」【新潟・柏崎市】
UX新潟テレビ21 2024/3/5
原子力規制委員会で初代の委員長を務めた田中俊一さんが、柏崎市で講演し地震と原発事故が同時に発生した場合の避難のあり方について語りました

講演は、柏崎市の主催で開かれました。田中元委員長は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」が発生した場合には、放射線の影響よりも自然災害から命を守ることに専念すべきと述べました。「放射線による健康被害などは長期間継続した被ばくが要因であり避難に際しての被ばくは影響が少ない」と説明しています。

■原子力規制委員会元委員長 田中俊一氏
「放射線被ばくの避難は慌てる必要はない。放射線被ばくの影響は短時間ではなく、被ばく量が蓄積しておきる。」
そのうえで能登半島地震以降、有効性に疑問の声が上がっている屋内退避について言及。福島第一原発事故での関連死のデータを示し、「避難指示を出した自治体では長時間の移動が負担となり死亡率が上がった一方で、屋内退避をした自治体では死亡率が低かった」として、屋内退避の重要性を強調しました。