2024年3月27日水曜日

正真正銘のジャーナリスト青木美希さんが語る原発とメディア

 昨秋ジャーナリスト青木美希さん上梓した3冊目の著書『なぜ日本は原発を止(や)められないのか』(文春新書)が2年間も出版出来なかったのは、政府でも電力会社のせいでもなある大手新聞社が妨害したためでした。(因みに青木さん上梓した1冊目『地図から消される街』、2冊目『いないことにされる私たち』でした)
 メディア自体に言論の自由があると思うのは大間違いです。特に電力会社が巨大な広告費を使ってメディアを支配している中では、大手の新聞社が原発を批判する記事を出すのは不可能です。
 それでなくても日本では、肝心の福島県でも「放射線の恐ろしさ」を口にするのはタブーとされているということです。被爆者を傷つけてはならないという配慮もあるのかも知れませんが、いわゆる権力に盾突くべきではないという「村社会性」が大きいのはないでしょうか。
 レイバーネットТⅤ今年の3・11特集は、ジャーナリストの青木美希さんをスタジオに迎え3月13日に放送されました。
 「レイバーネット日本」のブログに詳細な記事が載りましたので紹介します。
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レイバーネットТV報告
正真正銘のジャーナリスト、青木美希さんが語る原発とメディア
                      レイバーネット日本  2024-03-27
 レイバーネットТⅤ今年の3・11特集は、ジャーナリストの青木美希さんをスタジオに迎え、3月13日に放送された。
 福島第一原発事故から13年。「除染した場所でも放射線量は元の十倍。それなのに避難者は住宅提供を打ち切られ、戻るも戻らないも自己責任にされている。こうした現実を報道機関はきちんと伝えたでしょうか」。
 カメラを正面から見据えた青木さんのまなざしの先にあるのは、彼女がよって立つところのメディア界だった。


←青木美希さん


 昨秋上梓された著書『なぜ日本は原発を止められないのか』(文春新書)が二年間も出版出来なかったという話から、志賀原発の最新取材報告に至るまで、青木さんが随所で力を込めたのが、激しい言論統制と闘うジャーナリストとしての覚悟だ。著書の出版を遮ったのは政府でも電力会社でもない、ある大手新聞社だったのだ。
 多くの気概ある記者たちが今、苦しい状況に立たされている。取材しても書かせてもらえず、辞めていく人も多い
 会社の姿勢に反することは言ってはいけないなんて、とりわけ報道機関においてあってはならないことだ。しかし、比較的リベラルだと思われていた新聞社も同様で、毎日新聞の東海林智さん(元新聞労連委員長)は「自分が大事だと思う問題は決して手放さないで書き続けるという、ジャーナリストとして当然のことが難しくなっている」とメッセージを寄せ、もう一人のゲスト、元東京新聞の土田修さんは上司から「東京新聞はジャーナリズムではない」と一笑に付されたことを明かす。ジャーナリストって、あこがれるべき存在じゃなかったのか?
 ここ数年、青木さんは勤務時間外を使って取材発信してきたが、そのプライベートな時間さえ会社は統制してくるという。個人の責任において伝えることも許されないのか。
 それでも彼女は屈しない。福島で、能登で、何が起きているかを正確に伝えるために、あらゆる圧力や攻撃にも耐えて踏ん張っている。
 「伝えなかった責任というものを、報道機関は負うべきだ。その責任が問われないまま、同じことをくり返してはいけない」。青木さんのこの言葉が、原発を止められない理由をもっとも端的に示している。正真正銘のジャーナリストの姿を目の当たりにし、力と勇気が湧いた。連なろうとする人は、きっと出てくるはずだ。(H)

アーカイブ録画(72分)

【詳細報告】 読者の応援の言葉で、どんな圧力・攻撃も跳ね返す!

報告:笠原真弓
 3月11日前後になると、なんとも胸の奥が騒がしい。2011年のあの日以来、いまだに日常を取り戻せない人々が大勢いる。あの日何が起き、今どうなっているかを知りたいのに、彼らの言葉を信じていいのかさえ闇の中。どんなに原発推進側に圧力をかけても疑念は膨らむ。
 それを糺そうとするジャーナリストたちのエネルギーの素は、読者の励ましの言葉という。真のジャーナリストを育てるのは私たちにあるとつくづく思う。

 レイバーネットTV197号<3.11特集:原発とマスコミの大罪>
      ●ゲスト:青木美希(ジャーナリスト)/土田修(元東京新聞)
      ●企画・司会:堀切さとみ
◆新著『なぜ日本は原発を止められないのか?』に込めた思い
 堀切:3.11が近づくと、原発関連の報道が目白押しになる一方「どうせ今だけだろう」と鬱になる被災者もいる。巷では、現在、原発関係の本は売り上げが伸びないと聞くが、一貫して原発問題を追ってきた青木美希さんの3冊目の本『なぜ日本は原発を止められないのか?』は昨年末に出版されて以来、4刷りまで出ている。
 青木:タイトルは「とめられないのか」ではなく「やめられないのか」と読む。これまで反原発について知らなかった人にも読んでもらいたいとタイトルを工夫した。今回は男性からの反響が多くなった。原発の構造は、単純だということが伝わったと思う。
 堀切:確かに1冊目『地図から消される街』、2冊目『いないことにされる私たち』は、被害者目線だが、この本は多角的だ。
 青木:「やめられないのか」にするか「やめないのか」で悩んだが、「やめないのか」にするとやめるべきという人しか読まない。でも「やめられないのか」にすると、原発に疑問を持っている人も手に取ってくれるということだ。やめられないと思っている人に「本当にやめられないんでしょうか?」と問いかけたかった。
◆原発推進側の話を中心にしたわけ
 青木:家族にエネルギーの研究者、電力会社社員がいる環境の中で育ち、「エネルギーをどう賄うか」は学生時代からのテーマ。今回は原発推進する側の話も多数だが、事故後推進から変わった人も取り上げた。
◆大手新聞などでは伝えられないことを書いたと思う
 土田:今年の3.11もきれいになった双葉町の駅舎や、復興が進んでいるようなイメージから始まる報道が多かったが、3月9日の報道特集(金平茂紀/青木美希)が素晴らしかった。また、長周新聞は、きっちり報道している印象を受けた。東京新聞も報道しているが、他は制約がある印象がある。その制約を取っ払って書いたのがこの本だと思った。
 青木:出版しようにも、会社に止められた。でも、読者の声におされ、今回今まで言えなかったこと、伝えたかったことを詰め込んで、何とか出版することができた。
◆「被曝」について書けなくなった現場/避難指示解除でも高線量
 青木最近では、被曝について書くことができなくなっている。ある記者は、被曝を恐れて避難している人のことを書いたのに、その部分を全部カットされてしまった
 避難指示の出た12町村すべてが、今は解除されている。そこを自分で調達した線量計で測っている。昨年12月に1年前に避難指示が解除されたところで、アラームがなった。その一番近くのモニタリングスポットの数字は、0.3μシーベルト/hを越えていた。もともとの放射線量の約10倍の値。そんなところが除染済として避難解除されている。
 そこに住む人に、線量計を持っているか尋ねると「そんなものを持っていたら、ここが異常地域みたいじゃないか」と。住民は現実を直視しないし、出来ないのだ。
◆解除地域にあらたに移住する人たちへの情報不足
 青木今の放射能の状態やその影響が伝えられないままに、戻るも戻らないも「自己責任」になっている。一方、2万世帯の避難先の住宅手当などが打ち切られ、兵糧攻めで戻らざるを得ないのが現実。更に大熊町や双葉町も今後打ち切られる可能性があり、家探しが始まっている。
 突然税金が課せられ、どうやって生活していったらいいのかわからず困っている人たちのことを、13年目の今、メディアはきちんと報じただろうか
◆原発がなくなったら困るのはだれ?
 青木原発の存続を願うのは「ほんの一部の既得権益を持っている人たち」で、岸田さんが聞いているのはそうした人たちの声。私たちの声ではない。
 堀切:あるドキュメンタリーで、避難先から戻った人が「原発を動かしてほしい」という人もいた。仕事がないから…。
 青木:それは聞いたことがない。確かに高齢者の仕事と廃炉作業はあり、それ以外は非正規ばかりで正規の仕事がない。
◆電力会社の本音は「やめたい」?
 土田:この本によると、枝野幸男(当時官房長官)さんへのインタビューで、電力会社は本音ではやめたいのに、思考停止でやめ方が分からないのでは?と言ったとある。
 青木:官僚を取材していると「前例踏襲」なので、とても分かりやすい。100年先、200年先のグランドデザインなどは示せない。自分が定年退職するとき、退職金が出るかどうかしか考えていない。政治家も同様だ
 電力会社は企業なので「原発を止めた方が儲かる」という、あらたな仕組みを作ることが大事なのに、それが出来ないのが日本。変えようとすると、元に戻そうとする強い力が働く。そのため日本は世界から立ち遅れる。そこを枝野さんの言葉はよく表している。
 土田:六ケ所の再処理工場など、その典型と思う。
 青木やめると言ったとたんに、たくさんの店晒し物件が噴き出てくる。核燃サイクル(使い終わった核燃)はどうするのか?これに手をつけたくないから、原発を使い続けている面もある
 土田核燃リサイクルをアメリカとイギリスはやめました。残るはフランスと中国、ロシア、日本。日本以外は核兵器を持っている。
 青木:核燃リサイクルは夢の技術で、採算も取れず、いかに原発を続けるかに端を発したもの。実現の可能性については事実をきちんと伝えていく必要がある。
◆チャット・会場から
 ・東京電力の会見も、記者たちが少なくなってきているようだ。 ・著書に毎年関電副社長が歴代首相7人に1千万円を盆暮れに贈っていたと。それぞれからの生々しい謝辞が記載されていたが、そのソースは?民主党政権の時はどうだったのか?
 青木:引用先を書籍中に記しています。まだネットでみられるものもあります。民主党政権の時は、労組に支えられていますから、連合との結びつき、選挙や普段からの関係の中で、出来ないこともたくさんあったとか。
◆自然エネルギーと民主党
 堀切:本の中で、自然エネルギーにも触れている。ではどれくらい普及しているのか?
 青木:RE100という自然エネルギー100%をめざす国際企業が参加する運動がある。
 日本からは出版時50社(現在は82社)が参加している。ここに入らないと、世界的企業との付き合いができないから。一方で、政府の消極姿勢に、懸念の声も上がっている。
 日本には、出力制御という制度がある。好天予報が出ると大手電力会社から「明日から送電を止めてください」と言ってくる。実質的不買で、実際1回の出力制御で原発3基分が無駄になった。
◆休憩タイム:乱鬼龍とジョニーHのコーナー
  今月の迷句 あれから13年まだ原発に懲りないか  乱鬼龍
        珠洲市民原発阻み民救う        八金
  ジョニーH替え歌コーナー 『原発廃炉ブギ(東京ブギ~武器ウギ)』
                途中からスタジオから踊りも登場

◆東海林智さんから「ジャーナリズムを放棄しない青木さんへ」
  対談予定だった東海林さんからのメッセージが読まれる。
 「青木さんは、自分で大事な問題と思うと決して手放さず、ものにしていく。ジャーナリストとして大事なことなのに、現場ではそうもいかない。その中で書き続けたのがこの新刊で、心からの拍手と連帯を送りたい。
 特定の社に限らずメディアに働く者にとって、今は息苦しい時代。人権や平和の分野で、部下にもめ事を起こしてほしくないと『取材に応えない』という広報戦略を企業がはじめた。
 例えば、広報担当に連絡を取りにくくする/メール返信に時間をかける/自分らの都合いいことばかり報道させるようにしている。
 そんな中で、ジャーナリズムを放棄しないために、同志を増やしていく取り組みが大事だ」
 青木:北海道新聞時代に自主的に記者の勉強会を持ち、東海林さんから「ジャーナリズムの気骨とは何か」を学んだ。
 やりたいこと(報道)を続けていくことのハードルが高くなっている。東海林さんの在籍する毎日新聞はまだ自由に言えると聞いていたが、それでもこういう言葉が出てくるということは重い。他社の記者もだんだん書けなくなってきていて、あきらめてやめていく人が多い。自分も攻撃や圧力を受けて辛いが、皆さんの励ましの言葉などで、自らを支えながらやっているのが現状。この戦前のような空気を換えなければならない。
 会社によっては、社員の個人的な見解や、プライベートな時間での活動をも規制しているところもあると聞く。
◆東京新聞にもあるタブー 記者クラブ制度の制約 
 土田:東京新聞は、記者の一人ひとりが大事にされている。個人の意見を縛ることは、報道機関ではあってはならない。
 そんな東京新聞でも突破できないところもある。例えば天皇に敬語をつける、日本が飛ばせばロケットなのに北朝鮮が飛ばせばミサイル、汚染水という言葉などだ。
 マスメディアの問題として会社が強制するというより、記者クラブ制度などのために、政府に依存した取材をせざるを得なくなるという問題もある。もっと個人が物を言える関係にならなければという。
◆青木:プライベートの時間をも縛る会社
 新聞社の記者としての場面とは別に、私的な時間をも縛ろうとしている。その力が強まっていることが問題。みんなに伝えたいことも伝えられなくなり、圧倒的に情報量が減るということ。(自著を示し)この本を読んで初めて分かりましたと言う人が多いということは、十分に伝えられていない証拠でもあるので、今後も伝えていきたいと思う。
◆書けないことも
 青木被ばくの問題が書けないために、起きていることを正確に伝えられないジレンマで記者が辞めていく
 厚生労働省の知人によると、健康影響については実証できるデーターがそろう必要があり、裁判で国が負けない限り、時間がかかるという。
 報道機関は、「伝えなかった責任」を問われるべきだが、誰も責任を問われずに来ているので、同じことの繰り返しになるのでは?
◆志賀原発の現状~片付けてから記者に公開
 青木:北陸電力は地震後の3月7日に初めて報道陣に志賀原発を公開した。正式には定期検査のため止まっていたということだが、実際は原発事故から13年間止まっていた。2号基については、最近再稼働を申請していた。
1、「物上げ場」の沈下 2、防潮壁の傾き 3、1号機の直近の地割れ
 などがあったが見せたくないものは片付け、問題個所に近づくことも出来ず、当初の油漏れ箇所も分からなくなっていた
 地割れの近くには案内せず、遠くから指さすだけ写真撮影も禁止。それでも原子炉建屋の真裏だったことが判明したが。参加者から「取材要請は何のためだったのか?」という質問が出て、「原子炉建屋が傾いているという声を聴いたので、大丈夫だということを示すため」と。実際のその後の報道機関では「安全だ」としたところもあった。そのことからも、普段得られている報道は、事実とどれくらい近く、あるいは遠いのかということだ。
◆嘘まみれの原発トラブル報道~現場に行けないから起きること
 土田:志賀原発は止まっていたというが、1999年に臨界事故を起こし、それを7年間隠していた
 青木:普通の事故なら、報道陣が現場にいけるが、原発事故は行かれない。発表者のいうことで報道するしかない。今回の発表も、くるくる変わった。いまだに北陸電力が記者会見を公開していないのも問題。
◆会場から:担当替えの弊害/読者の応援! 
 青木短期で担当が変わるのは問題。取材される被害者から「また一から話すのは苦痛だ」と言われる。新しい担当者には、本などを読んで、勉強をしてから行くようにとアドバイスしている。
 福島原発を知らないと、志賀原発のことは分からない。長く取材して問題を把握して権力者と向き合うことは大事。特に放射能規制委員会の委員長会見は公開されているので、事前に見ておくとよくわかる。
 土田:調査報道班のキャップ時代の経験では、裏取りが大事。自分たちで調べて証拠固めをしないと報道出来ない。記者クラブ制度の問題もある。記者クラブを通さず報道しようとすると、社の方が脅える。そこをしっかり信用されるようにしなければならない。それをしようとしたら社内で「新聞記者は、ジャーナリストではない」と言われた。やはり、社としてはもめ事は避けたい。
 青木:北海道新聞の時の北海道警の裏金問題を取り上げた時、夜道には気を付けろなどの電話がかかってきた。その中でもやってこられたのは、読者からの応援の電話がすごかったから。応援電話の動機は、北海道新聞が負けるだろう…ということだった。

 報道機関は何のために闘うのか。組織の既得権益を守るためではない。皆さんのためだ。その本来の姿に立ち返って頑張りたい。
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◎次回198号は4/10 東海林智さんをゲストに、非正規春闘特集の予定です。