中日新聞が、高浜町元助役の森山栄治氏に絡まる「関電原発マネー還流」の問題について、「依存の構造」と題するシリーズ記事で報じました。
そこではまず森山氏の専横ぶりが記されていますが、何しろ個人として動いているのでその全容はなかなかつかみ切れません。
関電は、森山氏の意のままに振り回されたかのように見せていますが、それによって他の原発に比べて格段に大きな利益を得ることができたとしています。
また、関電が地元に落とす寄附金や地元協力金は「非公式」の形で渡されるので、それに伴う疑惑も生まれています。
新聞が地元協力金の存在を報じたとき、高浜町の町長は総額9億円であったと釈明しましたが、実際には25億円を受け取っていた可能性があるということです。
問題なのはそうした寄附金類も含めて、すべてが「経費」として電気料金に反映されて住民(国民)の負担になっているという点です。
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<依存の構造>(1) 関電と元助役
中日新聞 2019年10月27日
六畳ほどの小さな洋風応接間。小柄な男が一人、机を挟んだ正面のいすにどかりと座った。「地元にカネを落とせ」。男は原発構内の工事を特定の地元業者に発注するよう迫った。要求を断ると目の前の机を蹴り上げ、「俺の言うことが聞けないのか」とすごみを利かせた。
高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)。町を退職後、関西電力高浜原発の幹部らを自宅に呼び出していた。「できません、は禁句だった。(一方的に話をされる)二時間ずっと耐えるしかなかった」。高浜原発の所長経験者は、うつむきながら振り返る。「関電と森山さんの関係は既に決着がついていた。あちらの方が上。交渉というよりは、意向を聞くだけだった」
京都府綾部市職員を経て一九六九(昭和四十四)年に高浜町に入庁した森山氏は、人脈を駆使して建設事業を呼び込むなどの手腕を発揮。役場で出世の階段を駆け上がり、七七~八七年に助役を務めた。退職後、高浜町の建設会社「吉田開発」顧問などになったとされる。隠然と原発構内工事の業者の選定などに影響力を及ぼし続けた。
原子力事業本部(美浜町)で勤務した関電OBは、呼ばれて京都の森山氏を訪ねたことがある。帰り際にもらった紙袋には、まんじゅうと一緒に商品券が入っていた。後ろめたさを感じたが、拒否して怒らせることは避け、ひとまず受け取った。商品券の封は開けていない。「結局、言えないものを受け取ったという負い目を感じさせるためだったのではないか」。役員らの金品受領が明らかになった今、そう理解している。
複数の関電OBによれば、森山氏が金品を渡すようになったのは、少なくとも三十年ほど前。森山氏と接点があった別の関電OBは振り返る。「関電と地元の有力者の森山さんは、高浜3、4号の増設を通じて協力関係にあった。それをきっかけに森山さんが関電につけ込み、金品を押しつけ、ずぶずぶと関係が深まった人がいた。やがておびえるようになった。金品をもらったから断れないと」
地元には別の視点もある。元高浜町議は「関電が、森山氏を利用した」との見方を示す。「高浜3、4号を誘致する時、森山さんに地元を抑えてもらうことで、関電は(他の原発立地自治体に比べれば)『少ない金』で運転を開始することができたはず。ずっとお世話になって助けてもらって、今になって『どう喝された』って言ったって」と憤る。
明通寺(小浜市)の住職で反原発運動を続けてきた中嶌哲演さんは、森山氏の「特異性」ばかりが強調されていることに違和感を覚えている。「関電が高浜原発をつくり、3、4号機増設を強行するその長い長いプロセスを通じて、関電と森山さんとの悪しき関係ができあがった。その間、よっぽど関電の方が、絶大な便益を得ている。関電が、森山さんをしゃぶり尽くしたんだ」
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関西電力役員らが高浜町元助役・森山栄治氏から金品を受け取っていた問題は、報道による発覚から約一カ月。関電と森山氏との関係はどのようにできあがっていったのか。その背景にあったものは。原発立地自治体における「依存の構造」を探る。
<依存の構造>(2) 膨大な寄付金
中日新聞 2019年10月28日
「なんぼ入ったのか、何に使われたのか、未だにはっきり分からんのです」。高浜町議を十一期務める渡辺孝議員(共産)は四十年以上前の出来事を苦々しく振り返る。
高浜町が、高浜原発3、4号機増設を目指していた一九七八(昭和五十三)年、町内は関西電力から渡った「地元協力金」をめぐり揺れた。
同年四月、町内の五漁協組に、関西電力の協力金が町を通じて支払われていたとの報道が出た。その後、浜田倫三町長は町議会で、総額九億円を受け取ったと明らかに。七六年十月に一億円、同十二月に一億五千万円、七七年六月に六億五千万円受け取ったとし、五漁業組に計三億三千万円を支払い、五億一千万円を地域振興対策費として計上したなどとした。浜田町長は「国が増設を認めることがはっきりした段階ですべてを明らかにするつもりだった」と説明した。
住民側は、受け取ったことすら長らく公表せず、町長名義の預金として処理していたことなどに反発して監査請求を行った。監査委員は町長と関電が交わした協定書から一年が経過したことから「監査請求できない」とした上で、「有効適切な運用」だったと結論付け、却下した。町は各戸に配った広報で「ちまたに誤った風評が流れておりますが、町は正しく運用致しております」と強調した。
その後、浜田町長に対する損害賠償請求の住民訴訟に発展したが、福井地裁は「訴えは不適法」と却下。反対運動もある中、高浜3、4号機増設へと進み、八五年に相次いで運転を開始する。
だが渡辺議員は「本当は九億円ではなく二十五億円だったと(助役だった)森山栄治氏の手帳に書いてあったのを見た」と当時、議会関係者から聞いたと明かす。使途の詳細についても今も疑問視する。
地元協力金などと呼ばれる電力会社から原発立地自治体への寄付金は、連綿と続いてきた。町の決算書などによると、七〇年代以降、関電から高浜町への寄付金は総額で少なくとも約四十四億円。そのうち、森山氏が助役に在任した七七~八七年は約三十六億円に上る。
元町議は「寄付金についても、森山さんが関電との間を取り持っていたことは間違いない」と指摘する。「九億円」が明るみに出た当時、森山氏の発言が本紙に載っている。「3、4号機の総工費は三千五百億円。仮に1%をもらったとしても、いくらになるか。全国的に原発立地が困難な中で、高浜町は進んで建設を認めているのだ」「関電といってもむやみに金を出すはずはない。機会をみては要求してきたのだ」
原発立地自治体は、電源三法に基づく交付金を得ることができる。寄付金は、それとは別で法には基づかない。寄付金の不透明さはたびたび指摘され、交付金に加え寄付金を受け取るのは「二重取り」に当たる。交付金も寄付金も、最終的には電気料金に転嫁される。
渡辺議員とともに、関電から高浜町への金の流れなどを追及してきた「原発設置反対小浜市民の会」の松本浩さん(80)は主張する。「関電と高浜町政は持ちつ持たれつの関係の中で、不透明なことを続けてきた」
【土平編集委員のコメント】 今日紹介したのは、福井県全域を対象にした福井版の記事です。関西電力の役員らが福井県高浜町の元助役・森山栄治氏(故人)から多額の金品を受け取っていたことが発覚してから約1カ月。「まんじゅうと金の小判」など、時代劇かと突っ込みたくなるような道具立てもあり、関心を呼びました。ただこの問題は役員と森山氏の間だけにとどまらない、電力会社と原発立地自治体の根深い関係があります。両者の「依存の構造」を探る連載は27日付で始まり、本日が2回目。記事が指摘する通り、寄付金など自治体に入る金は最終的には電気料金などで国民が負担しています。関西電力の調査任せにせず、やはり国会などでの解明が必要ではないでしょうか。