台風19号の通過で河川の氾濫、土砂災害が相次いだ福島県では少なくとも27カ所の高齢者施設で浸水などの被害がありました。
河北新報が、13日深夜から未明にかけての、二つの高齢者施設と一つの原発避難者施設での避難の実態を報じました。
原発事故とは直接の関係はありませんが、要配慮者を抱える施設での避難や災害対応の難しさが伝わります。日ごろの対応の不備も認識されました。
原発事故が起きた場合に高齢者や身体不自由者が果たして安全に避難できるのか、改めて疑問がわきます。
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高齢者の避難どうすれば… 福島の施設、原発事故の影響も
河北新報 2019年10月16日
台風19号の通過で河川の氾濫、土砂災害が相次いだ福島県では、グループホームなど少なくとも27カ所の高齢者施設で浸水などの被害があった。15日現在、けが人や犠牲者がいるとの情報はないが、要配慮者を抱える施設の災害対応の難しさが改めて突き付けられた形だ。
「川が氾濫した」。13日午前1時ごろ、利用者99人がいた福島県伊達市梁川町の特別養護老人ホーム「ラスール伊達」の正面玄関を消防団員がたたいた。職員8人は慌てて、利用者を2階建ての施設上階へ避難させた。
それから15分ほどで浸水が始まり、漏電でエレベーターが停止。職員と消防隊員が膝まで水に漬かり、階段でベッドや車いすごと利用者を運び終えたのは午前2時ごろだった。
浸水は膝ほどの高さでとどまったが、安斎紳也施設長は「もっと高かったらと思うと恐ろしい」と判断の遅れを悔やむ。
施設の約2キロ先には福祉避難所がある。しかし施設は利用者が体調を崩すリスクに加え「100人近くを搬送するのは現実的ではない」として避難を想定していない。安斎さんは「利用者の命が最優先なのは言うまでもないが対応は難しい」と険しい表情で語った。
福島県本宮市では4階の介護老人保健施設「明生苑」と隣接する5階の病院が1階の天井近くまで浸水し、職員を含め約180人が一時孤立した。
浸水が始まった13日午前2時ごろから1階の資料を移動させたが、水かさが増して断念。入居者や患者の部屋は2階より上のため無事で、重篤な患者は窓からボートで救助された。渡辺雅俊事務長は「1986年の8.5豪雨の経験から浸水は想定していたが、予想以上だった」と話す。
福島ならではの困難もあった。東京電力福島第1原発事故で福島県葛尾村からの避難者が入居する三春町の「グループホーム楓」は13日午前1時ごろ、裏山の崩落で土砂が1階の窓を突き破って室内に流れ込んだ。
当時、施設にいた職員は2人。隣の福島県田村市から運営法人の職員が駆け付け、避難を始めたのは3時間後の午前4時だった。舞木幸子管理者は「法人から土砂災害の可能性を聞いてはいたが、大丈夫とばかり思っていた」と振り返る。
普段の連絡先は避難元の葛尾村が中心だった。被災して初めて、福島県三春町や地域との連携不足を痛感したという。「施設の避難訓練に地元の消防団が参加したことはなく、地域で施設の存在が知られていない。顔の見える範囲に支援してもらえないと心細い」
国は2016年の台風10号豪雨で岩手県岩泉町の高齢者施設入所者9人が犠牲になった被害を踏まえ、洪水や土砂災害の危険箇所に位置する福祉施設に避難マニュアル策定などを義務付けた。福島県によると、浸水想定区域内の県内の策定率は28.3%(19年3月時点)にとどまる。 (報道部・高木大毅、柴崎吉敬)