放射性トリチウムを含む汚染水を「処理水」と称し、全ての発電所で海に放出しているのだから、福島原発で保管されている100万トン余ものトリチウム汚染水も「そうすればいい」あるいは「そうするしかない」という、いわば国民を洗脳する発言が政府や規制委から盛んに出ているのは極めて不可解で不健全なことです。
この問題を、東電や政府の意向を忖度して多くのメディアが取り上げない中で、河北新報が社説で取り上げました。
その中で、海洋放流に他に4つの案(名称だけでなくその概略の内容も記述)があることや、米国のスリーマイル島原発では、「9案の中から『水蒸気放出』を選んで実行」したことを報じました。
また「福島原発のトリチウム汚染水と通常の原発の排水は発生要因が全然違い、同列には論じられない」とも述べています。
トリチウムの危険性については、西尾正道医師が強調しているところであり、そうした科学的に安全性が証明されていないものを海洋に投棄することは、国際的原則である「予防の原則」に反します。
いずれにしても、最も経費が掛からないからとして海洋放流を安易に選択することはあってはならないことです。
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社説 原発事故処理水/海洋放出に限定せず議論を
河北新報 2019年10月17日
東京電力福島第1原発に保管されている放射性の処理水(トリチウム水)の最終処分方法を巡って、海への放出を求める意見が目立ってきた。
海洋放出は以前から解決策の一つとみなされてきたが、被災地の福島県に大きな影響は与えるのは確実。いわゆる「風評被害」の拡大も心配になるだろう。
処分方法は海洋放出しかないわけではない。むやみに結論を急がず、さまざまな案を十分に評価することが何より大切だ。最終結論を出す際には、福島県内の意見を重く受け止めなければならない。
政治家から突然、海洋放出を求める発言が出たのは先月10日だった。退任間近の閣僚が「(海へ)放出して希釈する他に選択肢はない」との持論を展開し、福島県内の漁業者の反発を受けた。
その1週間後には、日本維新の会代表でもある松井一郎大阪市長が処理水の「大阪湾内放出」の可能性に言及した。維新の会は今月、「早期の海洋放出」を求める提言もまとめている。
海洋放出には原子力規制委員会が一貫して前向きな考えを示してきたが、政治家の唐突な発言が相次ぐと、既成事実化を狙った地ならしではないかと気を回したくなる。
処理水の最終処分方法は経済産業省の対策委員会の中で検討された経緯があり、海洋放出の他に4案が示された。深さ2500メートルの地層内に入れる「地層注入」、高温で気化して大気に出す「水蒸気放出」、電気分解後に大気に出す「水素放出」、固化剤を加えてから埋める「地下埋設」になる。
現在は政府の小委員会で議論されているが、先月の会合では「保管タンクの増設」という案も出ている。
ちなみに1979年にメルトダウン(炉心溶融)を起こした米国のスリーマイルアイランド原発では、9案の中から「水蒸気放出」を選んで実行している。
処分方法を決めるに当たっては、処理水の中身を科学的に詳しく分析することも不可欠だ。高濃度に汚染された水を浄化装置に通し、トリチウム以外は全て除去したような印象だったが、実際は他の放射性物質も含まれることが明らかになっている。
海洋放出が急浮上した背景には、トリチウムが日本を含む各国の原子力施設で放出されていることと、福島第1原発内での保管が2年後に限界に達するという東電の見通しがあると思われる。
しかし、福島第1原発の処理水と通常の原発の排水は発生要因が全然違い、同列には論じられない。タンク保管の容量も東電の言い分をうのみにせず、第三者的な立場で検証してもいいだろう。
いたずらに選択の幅を狭めず、さまざまな案を出し合って広く議論することが望ましい。その方が処理水問題の打開につながるはずだ。