政府がトリチウム水の処分を海洋放流に固めつつある中で、毎日新聞が地元との対話が不可欠であるとする社説を出しました。
海洋放流の場合、海水中に十分に拡散されれば当然低濃度になりますが、線香の煙がたなびく例から明らかなように実際にはかなりゆっくりと拡散します。従って近海においては放流後の濃厚な段階で魚介類に取り込まれるケースについて真剣に考えるべきです。
いたずらに議論を風評被害に持っていくのは間違いと思われます。
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社説 福島原発の処理水処分 地元との対話が不可欠だ
毎日新聞 2020年2月3日
東京電力福島第1原発に保管されている汚染処理水の処分について、経済産業省の小委員会が「海洋放出または大気中への放出が現実的」との結論をまとめた。
福島原発1~3号機の原子炉建屋内では、溶け落ちた「燃料デブリ」によって汚染水が1日170トン生じる。専用の装置で処理した後タンクに保管しているが、容量が限界に近づいている。東電によれば、残された時間は2年半だ。
処理水の処分は、燃料デブリの取り出しと同様、廃炉に向けた重要な作業だ。小委は複数の案について技術、費用、規制などの観点から3年にわたって検討し、国内外で実績のある2案に絞り込んだ。
結論を受けて政府は今後、処分方法や開始時期などを決めなければならない。
小委は、処分の前に処理水を再度処理して、その安全性を第三者が検証することや、情報公開の徹底を求めた。処理水は現在100万トンを超えるが、8割は浄化が不十分だ。再処理は当然である。
その上で慎重に取り組まなければならないのは、風評被害の問題だ。
再処理をしても、放射性トリチウム(三重水素)だけは残る。経産省の試算では、保管されている全量を1年間で放出すると仮定した場合、トリチウムによる被ばくは自然界の放射線による被ばくの1000分の1以下だという。
だが、この問題の受け止め方は一様でない。理屈ばかりを振りかざして処分を急げば、新たな風評被害を生むだけだ。
福島の農水産業や観光業は、事故による汚染に加えて深刻な風評被害にも見舞われた。県産米の全量全袋検査や厳しい独自基準による検査など、地道な努力の積み重ねがようやく実を結びつつある。
それでも、売り上げや漁獲量は事故前の水準にはほど遠い。処分に当たっては、失敗を繰り返さない注意が必要だ。国内の消費者はもちろん、外国に不正確な情報が伝わらないような働きかけも課題となる。
もとより政府は、方針を決める前に関係者の不安や意見、要望を謙虚に受け止める責任がある。説明ではなく対話を通じて、多くの人々が納得できる道を模索すべきだ。