福島原発のトリチウム汚染水について、政府小委員会が海洋放出処分を強調する提言案を了承したことに関して、福島県内漁業者からは「これまでの取り組みが元に戻ってしまう」と落胆の声が上がりました。「地元の声を聴いて判断してほしい」と、政府に丁寧な対応を求めています。
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処理水処分提言 福島県漁業者が政府に注文
福島民友 2020年2月1日
これまでの取り組みが元に戻ってしまう―。東京電力福島第1原発の処理水について、政府小委員会が海洋放出を処分方法として強調する提言案を了承した31日、県内漁業者からは落胆の声が上がった。本格操業に向け少しずつ事故前の姿を取り戻しつつあるだけに風評被害への不安が大きい。「地元の声を聴いて判断してほしい」。政府に丁寧な対応を求める。
「現状でも県産の魚介類の売れ行きは良くない。(海洋放出で)消費者は安全性について納得するのか」。小名浜機船底曳網漁業協同組合(いわき市)の志賀金三郎代表幹事(73)は疑問を投げ掛ける。「若手漁師が将来を不安がっている。政府は福島の魚は安全だ、とどう呼び掛けていくのか」と憤る。小型刺し網漁船で漁をする相馬市の安達利郎さん(69)は「(海洋放出が実施されれば)どれだけ政府が説明を尽くして安全性を訴えても風評被害が出ることは間違いがない。反対せざるを得ない」と話す。「今までも風評と闘ってきた。地元の給食にもようやく食材として提供できるようになった。本操業への見通しもついてきた。また前に戻ることになってしまう」とし、「政府には、地元の漁業者の意見をしっかりと聞いて判断してほしい」と訴えた。
一方、いわき市で約50年漁師を続ける大谷晃治さん(66)は「(処理水を)いつまでもためておいても仕方ないのは理解できる」と政府方針に一定の理解を示しながら、「漁師一筋で生計を立てている。放出されれば魚が売れなくなるのでは」と心配した。
県漁連の野崎哲会長は「詳細な内容を把握しておらず、コメントはできない」とした上で、「県漁連として海洋放出には反対だ」と述べた。相馬双葉漁協の立谷寛治組合長は「本格操業に向けたこれまでの取り組みが振り出しに戻りかねない」と危惧。国や県の風評対策を「現状でも不十分」と指摘し「海洋放出は容認できない」とした。
提言案では、大気(水蒸気)への放出も選択肢の一つとされた。第1原発から半径15キロほどの農地でコメなどを栽培する南相馬市小高区の農業法人「紅梅夢ファーム」の佐藤良一社長(66)は「政府への不信感と風評被害悪化への懸念から、大気放出には農業者として反対。いずれの放出方法でも、国にはしっかりとした情報共有を求めたい」と訴えた。