福島第1原発で増え続ける処理水の処分方法などを検討する政府小委員会は10日、海洋や大気への放出がより確実な選択肢だとする報告書を正式にまとめ公表しました。
海洋放出が「より確実に処分できる」と提言しており、政府は今後、地元関係者らの意見を聴くなどして処分方針を決めることになります。
最も安価で安易な方法が、「確実に実施できる方法」だからと言われても釈然としません。
また海外では極めて大量のトリチウムを放出しているから、日本もそうしていいという理屈にはなりません。
福島民報が31日の小委員会の様子を主に報じました。
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【復興を問う トリチウム水の行方】(上)
処分場所判断は政府 福島県委員「地元の意見反映を」
福島民報 2020/02/07
東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の扱いを巡り、政府の小委員会は、処分方法として海洋放出の利点を強調する提言を大筋で了承した。具体的な処分場所には触れず、政府に判断を委ねた。処分が本県のみで行われたり、本県から始まったりすれば、風評は一層、強まりかねない。風評払拭(ふっしょく)に総力を挙げてきた関係者から「努力が台無しになる」との声が上がる。被災地に寄り添うと強調してきた政府、東電の姿勢を問う。
「福島復興と廃炉の両立を果たしていくことが重要。取りまとめが処理水の解決策を導くための一助になるのを期待する」。東京都で一月三十一日に開かれた政府小委員会の会合で、山本一良委員長(名古屋学芸大副学長)が締めくくりの言葉を述べ、三年余に及ぶ議論は終結した。小委員会の提言は処理水の処分方法について、大気への水蒸気放出と海洋放出に絞り込み、「海洋放出の方が確実に実施できる」と強調した。
しかし、二つの処分方法のどちらを選択すべきかは示さなかった。十七回開かれた会合で放出する場所に関する議論はなされず、提言でも言及しなかった。最終的な判断は政府に委ねる形とし、方針決定に際して幅広い関係者の意見を聞くよう求めた。
ただ、処理水の保管について、東電福島第一原発敷地外への搬出に否定的な見解が提言に盛り込まれた。法令に準拠した移送設備が必要になるとともに、移送ルートとなる自治体の理解を得る必要があるとし、「相応の準備と多岐にわたる事前調整が必要であり、相当な時間を要する」とした。
「相当な時間をかければできるということなのか」。提言の表現を巡り、会合で委員の一人が声を上げた。だが、別の委員からの「敷地から放射線の影響があるものを外に出すことは想定していない状況だ」などの指摘にかき消され、敷地外搬出の在り方を探る議論には進展しなかった。
会合後の記者会見で、山本氏は処理水を放出する場所への見解を問われると、「個人的理解では廃炉の作業はできるだけ福島第一原発敷地内でやるべきで、それが基本だと思っている」と述べた。
政府は今後、処分の方法や場所を判断するに当たり、関係者から意見を聞く場を設ける方針だ。しかし、具体的な対象者や聴取の形式、回数などは現時点で「白紙」となっている。山本氏の個人的見解が一人歩きすれば、国民的な理解も合意も深まらない。
会合後、小山良太委員(福島大食農学類教授)は「時期や場所など重要な部分は政治判断となる。現地の意見を絶対に聞くべきだ」と政府にくぎを刺した。
【復興を問う トリチウム水の行方】(下)
県民の思い「福島ありき」に反発
福島民報 2020/02/07
東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の扱いを巡り、政府の小委員会は政府への提言で、処理水の処分に伴う放射線被ばくの影響は十分に小さいと指摘した。一方で、どのように処分しても「風評への影響が生じ得る」と結論付けた。
トリチウムを含む水は国内外の原発などで平時でも海に流されている。フランスのラ・アーグ再処理施設では二〇一五(平成二十七)年のトリチウム排出実績が一京三千七百兆ベクレルに達した。現在、福島第一原発のタンクに保管されている処理水に含まれる約八百五十六兆ベクレルの十六倍だ。ただ、福島第一原発は「事故炉」であり、風評の火種がくすぶる。
「復興が道半ばの県内で放出されれば影響は計り知れない。処理水が安全であるなら、政府は県外の原発などからの放出も検討すべきではないか」。浜通りの自治体の首長は「福島ありき」で議論が進むことに懸念を示す。
県、市町村、農林水産業や観光業など各団体は風評と闘い続けている。だが、原発事故発生から九年近くが経過しても依然として根深い。小委員会は風評対策の徹底を求めたものの、具体策は示していない。相馬市の漁師安達利郎さん(69)は「新たな風評が生じれば県内産業は立ち直れない。政府は被災地の思いをくみ取るべきだ」と訴える。
処理水の処分方針は、政府が小委員会の提言を踏まえ、地元などの意見を聞きながら時期や場所を含めて決める。政府関係者は「可能な限り幅広く意見を聞くつもりだ。軽々に判断を示せるものではない」と慎重な姿勢を示す。
一方、東電幹部の一人は先月の福島民報社の取材で、処理水処分について「福島県から始めてはいけないとの声を肌で感じている」と答えた。東電内部からは県民の声に耳を傾ける中で聞いた意見の一つだとの見方が出ている。東電は政府の方針決定後も「正確な情報発信などの丁寧なプロセスを踏みながら適切に対応する」としている。
東日本大震災と福島第一原発事故の発生から三月で十年目に入る。「福島の復興なくして日本の再生はない」と声高に訴えてきた政府、事故の原因企業である東電は、処理水の処分を巡り県民の声にどう答えるのか。突き付けられた課題は重い。