2020年2月9日日曜日

トリチウム汚染水 なし崩し放出は許されぬ(中國新聞)

 経産省が傾いている福島原発のトリチウム汚染水の海洋放流について、中國新聞が「なし崩し放出は許されない」とする社説を掲げました。
 同紙が指摘する点はその通りですが、トリチウムが放射線の外部照射源としては弱い点を認める一方で、魚介類を介して人体に取り込まれた場合についての警戒感を持たずに、単に「健康への影響は極めて小さい」としている点は問題です。
 またトリチウム既存の原発からも一定の濃度、量で放出することが認められていることを安心材料としている点も疑問で、既存の原発から放流されている濃度×量=総量との量的比較を省略しているのには同意できません。

 何よりもトリチウムは今後も、流入する地下水がウランのデブリに接触する限り半永久的に発生し続けます。日本の近海に日量170トンのトリチウム汚染水が今後も半永久的に放流されて良いのでしょうか。
 遮水壁を完全なものにして、トリチウム汚染水が発生しないようにすることが根本策の筈です。
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社説 福島原発の処理水 なし崩し放出許されぬ
中國新聞 2020/2/9
 東京電力福島第1原発で増え続けている処理水の処分方法について、経済産業省の小委員会が提言をまとめた。
 海洋と大気への放出を「現実的な選択肢」とし、このうち海洋放出がより確実な方法であると強調した内容となった。
 3年余りの議論を終え、処分方法は政府に委ねられる。だが提言は、あくまで技術的な検討結果にすぎない。これをもって海洋放出がお墨付きを得たものとはいえまい。
 海洋や大気中に放出すれば、風評被害が起きる恐れが強い。未曽有の原発事故によって地元はまだ復興の途上にある。その歩みを妨げるようなことがあってはならない。
 さらに地元の漁業者らの海洋放出に対する不安や反発は根強い。関係者の理解は大前提である。政府は、地元との対話に正面から取り組み、さらに議論を積み重ねる必要がある。

 福島第1原発では今も、1日に約170トンの汚染水が発生している。保管しているタンクの容量は2022年の夏ごろに満杯になる見通しだ。
 増え続ける処理水は大きな課題である。政府や東電は結論を急ぎたいのだろうが、拙速な結論は慎むべきだ。
 浄化装置で大半の放射性物質は除去できるが、放射性トリチウムだけは残留してしまう。トリチウムは健康への影響は極めて小さいことがほぼ明らかになっている。処理水に残るトリチウムは既存の原発からも一定の濃度、量で放出することが認められている。
 だが、今回の小委員会での議論の経緯を振り返れば、納得し難い点も多々ある。
 処理水を保管するタンクの増設には、東電や政府は用地の確保が難しいと主張した。作業の資材や廃棄物の置き場が必要だと、まるで廃炉作業の達成を盾に取るような態度に終始した
 もともとは海洋や大気中より影響範囲が小さい地層注入や地下埋設も検討されていたが、「前例がない」などの理由であっさり除外された。これでは「結論ありき」だったと受け止められても仕方あるまい。
 科学的には安全だといくら強調しても、問題は地元や国民の受け止め方にある。一連の廃炉作業における政府や東電に対する不信は今回の問題で始まったわけではない。
 処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していることも発覚した。保管タンクの30基以上でも沈殿物が見つかり、放出する場合は再処理が必要になっているという。本当に安全に再処理できるのか、疑念は膨らむばかりだ。

 政府や東電の情報公開や説明への消極姿勢が不信感を増幅させてきたのは間違いない。小委員会も提言で議論のプロセスや情報発信の透明性の確保に注文を付けたのも当然と言えよう。
 政府は昨年11月と今年2月に各国の大使館向けに説明会を開き、たとえ処理水が放出されても安全であることを強調した。まるで放出に向けた地ならしのように映るが、まず説明を尽くし、理解を得なければならない相手は地元の関係者であろう。
 東電は必要な情報を公開し、政府も当事者意識を持って説明責任を果たすべきだ。信頼回復なくして、なし崩し的に事を進めることなど許されない。